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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■幕間:ほっとするひととき

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 リースは淹れたての紅茶を優里に手渡した。
 手のひらから熱が伝わってくるのを感じて、優里は安心したように息を吐いた。
 一口、飲むと甘い香りが鼻腔を過ぎる。
「アップルティーですか?」
「寒い時は温かくて甘いものが良いかなって――」
 はい、と今度は風里の前に珈琲を置いた。
 カップの脇にはミルクとスティックシュガーが用意されている。
「苦いわね……」
「何も入れておらぬのに甘くなるわけがなかろう」
「せっかく用意してくれたものだし使わせてもらうわ」
 ミルクと砂糖を入れてかき混ぜる。
「甘いものが食べたくなったら言ってくださいね。ぜんざいありますよ〜」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)がお盆を持って皆に声をかけた。
「わしに一つくれ」
 桐条がホリイからぜんざいを受け取る。
 作り立てなのだろう。湯気が立っていた。
「うむ、悪くない」
 彼のお褒めの言葉にホリイが笑顔を浮かべる。
 休憩所の外を見れば、ちょうどトラックが止まるところだった。
 運転席から顔を覗かせているのは夜刀神と阿部だろうか?
 どうやら雪を運んでいる最中だったようだ。
 荷台に乗り込んでいたらしいナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)がこちらへ近づいてくる。
「話は聞いたぜ。災難だったな」
「だねー。風邪ひかないようにしっかり暖まっておいた方がいいよ」
 声をかけてきた二人に優里は苦笑いを返す。
「お恥ずかしいかぎりです」
 ナディムを見る優里の視線が彼の頭部に向いた。
 それに気づいたのだろう。彼は自分の角を触りながら言った。
「俺、ドラゴニュートだからな。めずらしいか?」
「ええ、まあ。てっきり獣人の方かと思いました」
「俺の見た目、ドラゴニュートっぽくねえからな。分からなくても仕方ねえか」
「私は作り物かと思ったわ。それ」
 風里がチラッと視線を送る。
「個体差があるのかしらね」
「いや……これは俺の国の姫さんの親父さんの話だけどな。天敵から身を守る為に段々と姿を別の種族に近づけようと進化していった結果、こういう姿になったんだと」
「パラミタで進化論を聞かされるとは思わなかったわ」
「ま、俺の国の姫さんの親父さんの嘘かもしんねぇけど」
「でもドラゴニュートって生体のドラゴンに近づいていく種族だったわよね? ドラゴンの天敵なんて想像もできないのだけど」
「ドラゴンの敵ねえ……」
 ナディムは隣で紅茶をすすっているマーガレットを見ながら言った。
「たとえばドラゴンの飼育してるエリュシオンとか――」
「エ、エリュシオンは良いとこだよっ! 難しい魔法とか勉強出来るし、ワイバーンにだって乗れるんだから!」
 ナディムに振り向くや否や、マーガレットは捲くし立てるように話す。
 その様子を彼は笑いながら見ていた。
「悪評が立ちそうなこと言わないでよね。あ、ホリイ。あたしにもぜんざい頂戴」
「わかりました〜」
 マーガレットから注文を受けると、ホリイはお盆にぜんざいとお茶を載せて戻ってきた。もはや給仕みたいになっている。風里もホリイにぜんざいを頼みつつ、話を続けた。
「エリュシオン……ああ、歴史の講義で聞いたことがあるわね。たしか東側に位置する巨大国家じゃなかったかしら?」
「そうだよ。魔法施設がどの国よりも充実してて、よく魔法を勉強しにいろんな国から留学生が来るんだよね。風里なんか魔法を使うの好きそうだし、エリュシオンに行ってみるのも良いんじゃないかな」
「魔法の先進国なのね」
「魔法技術が集まってるって感じかな? 町の中にはシャンバラに無い魔法の技術が沢山使われてるからエリュシオンの町の中を見るだけでも楽しめると思うよ」
「ちなみに小娘の出身もエリュシオンだぞ」
 桐条がお茶を飲みながら口を挟んだ。
 小娘、というのはマーガレットのことらしい。
「魔法といえば、少々系統は違うがマホロバには陰陽師と言う魔法使いに似た職業があるな。東雲達は知らぬかもしれぬが、マホロバはマホロバ幕府統治の下で地球の江戸時代に似た暮らしをしておる国だ」
「桐条『さん』はマホロバ出身だよね。それでナディムはティル・ナ・ノーグ」
 マーガレットと桐条が視線を交差させる。
 何やら互いに思うところがあるようで、マーガレットは口元をほころばせているのに対し桐条は難しい顔をしている。
「みんな東の出身なんですね」
 ふと、リースが思い出したように東雲姉弟に話しかけた。
「優里さんに風里さん。あれから火術の練習はしましたか?」
「ええ、たまにですけど」
「よ、よければどれくらい上達したのか見せてくださいませんか?」
「僕はこんな感じですね」
 優里は言うと指先から火を起こす。
 ライターの火くらいのものだが時折、勢いよく燃えていた。
 前よりも火の勢いが増しているように感じられる。
 相変わらず安定性に掛けてはいるが前よりは使い慣れているのだろう。
「嫌だって答えたらどうするのかしらね」
 風里はそう言いつつ、手の甲から火を起こした。
 火はゆっくりと形を変じていく。前よりも変化が速い。
「風里さんはセンスがあるのかもしれないですね」
「魔法の、かしら?」
「か、感覚的というか直感的というか――」
 んー、と悩むようにリースは首をかしげる。
 だがなんとなく言いたいことは伝わったようだ。
「私が強化人間だからかもしれないわね」
 手の上で火を躍らせながら風里は言った。
 そしてリースを見て口を開く。
「それでどうかしらリース『先生』?」
「よ、良い感じですよ」
 照れながら彼女は答えた。