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闇狩の末裔たち

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闇狩の末裔たち

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 機晶兵器を退けた朱鷺、剛太郎、籐右衛門、吹雪、コルセアたちは、遺跡の円形ドームの中央に築かれた建物に上り詰めていた。建物の屋上は巨大なテーブルのようになっており、そこにはたくさんのオブジェクトが鎮座していた。調べてみるとそれは全幅2メートル、全高3メートルほどの巨大なイヌの形をしていて、片脇から桟橋を伝って背中に乗り移れるようになっている。
「上に登ってみましょう」
 朱鷺が桟橋を渡ってイヌのオブジェクトに移ると、円形ホール内を照らしているたいまつの明かりが強く燃え盛った。桟橋がスルスルと短くなっていき、剛太郎たちは桟橋の袂まで駆け戻る必要があった。
 吹雪とコルセアのナレートが響く中、朱鷺はイヌのオブジェクトの背中に小さな操作卓が埋め込まれているのを発見した。
 縦20センチ、横30センチほどのくぼみの下に、手のひらサイズの球体をはめ込めるような窪みができている。その下には更に3つの窪みがあって、紅いガラスの球体だけがひとつだけ置かれているではないか。
 ほぼ必然的な動作だった。紅いガラスの球体を、すぐ上のひとつだけ開いたところへ移し替える。
 すると、球体の上にある窪みの面に、真っ白な円が現われた。それが月の満ち欠けを起こすように徐々に細くなり、白線で円周が描かれた黒塗りの図形となったではないか。
 石像のようだったイヌのオブジェクトは突如として首を天に伸ばし、勇ましい遠吠えを張り上げたのである。
「これは……イコンなのか?」
 円の描かれたていた平面の画像は、イヌ型イコンからみた視界のような映像に切り替わっていた。
 遺跡全体が震えて瓦礫がいくつも崩れ落ちると、天井が真っ二つに割れた。イコンを載せたテーブルが徐々にせり上がっていき、朱鷺を乗せたイヌ型イコンは、地上に押し上げられて停止する。
 星明かりの綺麗な新月の夜は、冷たい夜風が吹き付けていた。
 滑らかで継ぎ目のないイコンは生き物のように辺りを見回すと、ある一点を見つめていた。
 モニター表示は暗闇でもよく見えるようになっているらしく、方角からしてシグー集落の方で間違いない。高い尖塔らしきものが映り込み、そこから真っ白に輝く煙のようなものを確認できた。
 シグー集落の狼煙が合図であるかのように、イヌ型イコンは再び大きく遠吠えする。
 そして真っ暗なジャタの森を、全速力で駆け抜けていった。

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 疾走するイコンに必死でしがみつく朱鷺は、倒木を飛び越え、小川を跨ぎ、シグー集落を風のように過ぎていくのを目の当たりにしていた。
 サレイン集落を目前に大きく右手に分け入ったところで、崖へと飛び込んだ。眼下から星の輝く湖の畔が迫ってきた。
 朱鷺はイコンが着水をしたところで、浅瀬に投げ出されていた。
 イヌ型イコンが黄金色に輝いて、辺りの様子を照らしだした。
 暗闇に、何かが蠢いている。
「何かが居る」
 真っ黒な甲冑に黒の外套を羽織っており、腰から下が存在しない。
 間髪を入れずにイコンが獲物へ飛びかかると、その黒い上体だけの甲冑の魔物は意図も容易く押さえ込まれていた。
 イヌ型イコンが魔物を何度もかみ砕き、逃れようとする相手を更に地へと叩きつける。苦し紛れに放つ魔物の法撃が辺りを何度も照らしたが、やがてその抵抗も弱くなり、真っ黒な灰燼となって夜風に溶け込んでいった。
 眩い輝きを失ったイコンは、浅瀬で呆然と伏したままの朱鷺を波打ち際までくわえていった。
 彼女の隣に腰を落として背中を丸めたイヌ型イコンは、それから二度と起動することはなかったのである。