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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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第2章 大きな侵略者・みーんなワレらのモノッ story1

「呪術カエルソング…。万が一、魔鎧やギフトなどといった種族が、今の私みたいにパートナーの装備中にその呪術を受けた場合、カエルにされるのかしら?それとも封印されるのかな?」
 綾瀬に装着中の漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)は、自分のような者がカエルにされたらどうなるのだろう?と呟いた。
「装着している場合は当然、私の装着物として封印されることでしょう。着ているものや器など、それらに該当するものは全て封印されるはずですわ」
「まぁ当然、呪術を受けたい訳じゃないけど、何か気になっちゃって」
「もし…別々にカエルになるとすれば、先生方がおっしゃるはずですわ。いろいろと困ることもありますからね」
「あ、うん。綾瀬が大変なことになるものね」
 もしもドレスまでカエルになり綾瀬が先に元に戻ったとしたら、おまわりさんこの人です!と言われる状態になってしまうだろう。
 彼女が自分の後に戻ったとしても、見られてしまう可能性が高い。
「お話中でもうしわけないんだけど。ルカたちも行こうよ」
「そうでしたわね」
「マグヌス発動させておく?」
「えぇ……。では、リトルフロイラインを呼びましょうか。そちらのお二方様、ご協力お願い出来ますか?」
「今日はずっと一緒にいられるか分からないから。先に、術の手伝いしておくね」
 目的は同じかもしれないが、傍で活動出来るかはまた別のこと。
 アイデア術の発動を手伝うため、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は抱えているスペルブックを開く。
「この間の順番でよいのでしょうか?」
「持ってる魔道具はほとんど一緒だし。同じでいいんじゃないかな、ベアトリーチェ。最初に唱えるのは淵だったわね?」
「うむ。(は…っ!?オメガが見ている…)」
 アイデア術の発動を見守ろうと眺めているオメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の視線に気づいてしまった。
 夏侯 淵(かこう・えん)は緊張しすぎて心音が早くなってしまう。
「(失敗は出来ぬっ。えぇえい、静まらぬか!)」
「落ち着けって。一応、先輩だろ?せーんぱ〜い♪」
 からかっているのか、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は顔をニヤつかせながら言う。
「わ…分かっているっ」
「淵、早く!」
「そう急かすでない、ルカ」
 大きく深呼吸して気を静めた淵は、高まる気持ちを抑えて詠唱を始める。
 自習で完成させた時と同じ順に唱えていき、祓魔の力を魔方陣へ吸収させていく。
 強化したマグヌスエクソシズムの発動により、二丁の拳銃を構えたリトルフロイラインが現れ、“綾瀬様、おはようございます!”と子供らしい笑みを浮かべて挨拶する。
「皆様、参りましょうか。私は皆様の援護をいたしますわ」
「オメガは絶対守る!」
「ルカたちはー?」
 期待に満ちた眼差しを淵に向け、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は金色の瞳を輝かせる。
「御主等は大丈夫であろう」
 自分の身は自分で守れという態度で、そっけなく言い放つ。
「あーはいはい。ってか、これ実戦なんでー、デートじゃないんでー、集中してくださーい」
「デデデ…デート!?」
「(あ〜あぁ。もぅ、反応しすぎだって)」
 激しく動揺する淵の姿に、ちょっぴりかわいいなぁ♪と思いながらも、その言葉を口にしてしまったらヘソを曲げてしまいそうだ。
「あっ、そうだ。あれ聞いておかなきゃ。もしもーし、ルカよ。今、質問してもいい?」
 新しい章の効果について聞こうと、ルカルカはエリザベートの携帯にかけた。
「贖罪の章は中級術者が相互に掛け合ったり、連続させて効果拡大の相乗効果は狙えるの?」
「えっとですねぇ。1人に対しての重複効果はないですぅ〜」
「はーい、ありがとう。それだけ確認したかったの。じゃあ、実戦頑張ってくるね♪」
 質問を終えると通話を切った。
「あ、あ…あのっ、私もご一緒してもよいですか?」
「大歓迎よ♪ルカたちは静香さんの救助が目的なんだけどいい?」
「はっ、はい。お願いします」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は声音をどもらせ、こくこくと頷いた。




 無事な人間は見当たらず、町中茶色のカエルだらけだった。
 まだ変身させられていない人々や、呪いで姿を変えられた者の救助を行うべきか…。
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は迷うことなく、カエルにされた住人の保護を優先しようと決めた。
「茶色のを見つけて集めなきゃ」 
「そのはずだ、月夜。目に見える赤いやつは、祓ってしまっても構わないんだったな?」
「うん。分身は倒しちゃったほうがいいらしいね」
 確認する樹月 刀真(きづき・とうま)に頷き、いつでも唱えられるようにハイリヒ・バイベルを開く。
「玉ちゃん、サポートお願いね」
「この章で、どこまでやつらの守りの力を削げるか分からぬが。できる限りのことはしてやろう」
「魔性をバシッと祓えれば格好良いんだけど…」
「仕方ないだろう?努力が足りない、とは言わないが考えていない、とは言えないな」
「分かってるよ…今回も頑張るから!」
「今までやってきたことから、色々と学んできたはずだ。それをどうやって生かすか?…を、これから考えろ」
「むー…。章の能力だけじゃ、大変なこともありそう。協力するって大事なことなのね」
 刀真が魔性の術で呪われたことをなどを考えると、厳しい場面が多かった。
 助けてくれる人がいなかったら、自分たちも危うかったはず。
「一緒に行こうって、声とかかけたほうがいいってことかな?それとも、相手についていくとか?」
 腕組しながらどっちがよいか真剣に考え込む。
 玉藻 前(たまもの・まえ)のほうは、彼女がそこまで考えるとは想定していなかった。
 どうしてもというから付き合いで来ているわけで、自主的に他者と協力したいなどという考えはない。
「宝石使える者と救助活動したほうがよさそうだな。見つけにくいとこだとかにもいそうだしさ」
「そっちは3人だけ?カエルにされた人を助けに来たんだけど。私たちと一緒に探さない?」
「セレンフィリティか、そうしてくれると助かる」
「本体のほうを対処出来る人はいるかしら」
 襲われてしまった時のことを想定して、祓える者はいるのかとセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が聞く。
「いや…、まだ無理だな」
「―…んー。気配を感じたら、すぐ離れる必要があるわね。探知は私がやるから、分身のほうをよろしくね。呪いの解除はセレアナがやってくれるわ」
「今回は少し難しそうだけど。やれるところまでやるだけね」
「ルルディちゃんが香水を作ってくれたの。よかったら使って!」
「ありがとう。もらっとくわね、ノーン」
「静香ちゃんを助けなきゃいけないからもう行くね!」
 そう告げるとノーンはエリシアの元へ駆けていく。



天城 一輝(あまぎ・いっき)が手にしているデジタルビデオカメラのレンズの向こうには、小さな茶色いものが蠢いていた。
 小型飛空艇アラウダを片手で操作しながら、町の戦況を撮影しているようだ。
 パートナーのコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は、彼を見失わないように地上を歩いてついてきている。
「分身を操っている本体は、不可視にも可視にもなれるんだったよね、弥十郎」
「だから撮れないこともあるね。まぁ…何かあれば、斉民が助けてくれるはずだよ。…ね?」
「仕方ないからついでに弥十郎も助けてあげるよ」
「えー、ワタシってそんな扱い?酷いな〜」
 限定的に渋られているが、いざとなったらサポートしてくれるはず…。
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の役目はカエルにされた者を探すだけでなく、魔性の気配を探らないといけない。
 アークソウルに精神力を集中させているため、呪術の回避補助は賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書にしてもらう。
 ―…予定だ。
「(赤色…?この気配は…魔性!?目に見えているのは気配がないね。あれは分身かも…)」
 気配の色のイメージが弥十郎の脳内に浮かんだ。
 相手に気づかれないように声を潜め、斉民とコレットに“分身に本体が紛れている”と告げた。
 一輝のほうはそれに気づかず、撮影したデータを銃型HCを介して仲間に送っている。
「(祓える人がいないのに、やばいな〜…。かといってここで皆、呪われるわけにいかないし。どうにか気づいてくれればいいんだけど)」
 建物の陰へ避難した弥十郎は、機体の進行方向へ祓魔銃の照魔弾を放った。
「照魔弾の明かりが…。離れろということか?」
 一輝は魔性から距離をとるべく、速やかに後退する。
「ワ・レ・ら・は〜う〜た〜うぅ〜♪ゲコリ〜ゲコリ〜〜♪」
 不可視化している赤カエルの魔性が、大きな声で呪いの歌を歌う。
 歌声は音符となって一輝のほうへ飛んでいく。
「くっ。あの中に本体がいるのか!?」
 機体を操り呪いの歌から発せられた音符を回避する。
「オヤブンが危ないっ」
「待ってコレット。今姿を見せれば、俺たちも狙われてしまう」
「で、でも…。放っておけないよ!」
「あれを祓える者は、あいにくこの場にはいない。救助を求めても、彼らがここへ来る前に皆カエルにされる」
「じゃあどうすればいいの…」
 コレットが姿を見せてしまったら、隠れている刀真たちの居場所がばれてしまう。
 今はじっと我慢して見守ることしか出来なかった。
「応援を呼ぼうにも、片手操作じゃ回避が難しいか。…な、何だ?誰かの声が…。…和輝か」
 周りを見回しても声の主はなく、聞き慣れた声音の者のことを思い出した。
 定期的に連絡をもらっている佐野 和輝(さの・かずき)からのテレパシーだった。
「(焦っているようだが、無事か?)」
「(無事…ってわけでもないな。本体らしき不可視の魔性から攻撃されている。応援にきてもらえないか?分身のほうもいて、そっちは今組んでいる相手に対処してもらえそうだ。だけど、本体を祓える者はいないから…。かなり危機的状況だ)」
「(追われているのは、天城だけか?他の者は…?)」
「(コレットたちは隠れているから今のところは…)」
「(すぐ向かえそうな者に、こちらから応援要請をしておく。それまで耐えてくれ、以上)」
 クリスタロスに到着後、生徒たちの会話を聞いていた和輝は、それぞれ何の担当を行おうとしているのか把握した。
 すぐに駆けつけてくれそうな者は誰だろうか。
 白百合の校長の救助へ向かっている者に頼むのは無理そうだ。
 ならば、カエルにされた町の者を探している彼らなら、対応してくれるやもしれない。
 テスタメントに応援を頼もうとテレパシーを送った。
 彼女は“行きます!”と即答してくれた。
 一輝の居場所をテレパシーで告げると、相手は普通のカエルを集めている最中のパートナーを引きずって急行する。
「仲間の救助も、大切な任務なのですよ!」
「こらー離しなさいよ、靴が擦れるじゃないのっ」
「真宵はまたカエル集めを始めてしまいそうなのです。目的地まで離さないのですよ」
 暴れるパートナーの苦情を却下した。
 応援要請があった場所へたどり着いた頃には、真宵の靴は擦れて傷だらけになっていた。
「うわぁん、わたくしの靴がー…」
「嘆いているヒマはないのです。真宵、探知を!」
「はいは〜い」
 めんどくさそうに返事をし、アークソウルで魔性の位置を探る。
「あの小型飛空艇から、斜め後ろくらいにいるっぽいわ」
「テスタメントの力を見せてやるのですよ」
 喜々として哀切の章を唱え、彼女が示す方向へ光の嵐を放つ。
「むむっ。まだ歌をやめない気ですね。もう一発くらわしてやるのです!」
「ちょ、ちょっと。分身のほうもなんとかしなさいよ。口からなんか吐いてるわよ」
「ブレスですか。しかし、今のテスタメントは詠唱に集中しなければ…っ」
「本体のほうお願いね。私たちは分身のほうを倒すわ」
 建物の陰で様子を見ていた月夜が言う。
「そちらはお任せします。では行きますよ、真宵。エターナルソウルを使うのです」
「うるさいわね。わたくしに注文しないでちょうだい」
 呪術を使う本体を祓うべく、自分とテスタメントの走行速度を上昇させて駆けていく。
「行っちゃった…」
「機械に憑依するタイプではなさそうだ。何度か、裁きの章を当てる必要があるかもしれん」
「玉ちゃん、頑張って!私も頑張るからっ」
「(やれやれ…。今回はかなり力を使いそうだが…。まぁぼやいても、状況はよくならんがな)」
 大切な月夜を狙わせないために、精神力を費やしてでもサポートせねばと唱える。
「ワタシたちは2人の補助かな?」
「私は神籬で境界線を張っておくから、弥十郎はポイズンブレスの盾役よろしく」
「はーい♪」
 懸命に詠唱している月夜と玉もの前に立ち、濁った緑色の泡から彼女たちを守る。
「(術を撃たせなきゃいいんだよね。全部は無理でも、やれるところまでやらなきゃ…っ)」
 本体からの指令により“邪魔者”と判断された弥十郎の補助をしようと、コレットは哀切の章の光で彼を包み込んだ。
 口をもごもごさせている分身を狙い、破裂させた光を礫状に変えて放った。
「ありがとう♪」
「まだまだいるから気をつけて」
「玉ちゃんが弱体化させたやつは消滅したね」
「月夜、詠唱をとめるな。続けるのだ」
「う…うんっ」
 ブレスを放とうとする分身を倒そうと月夜は祓魔を続ける。
「青色の泡が月夜たちのほうに…!」
 ポイズンブレスでは弥十郎が盾になっているせいで、弱らせることが出来ないと判断したようだ。
 彼らは大口を開けてアクアブレスを吐く。
 術者たちを守ろうと刀真が泡をくらう。
「刀真っ」
「俺のことはいい。早くこいつらを!」
「本体がかなり離れていったのかな。増やされないうちに倒しちゃおう」
 テスタメントたちに追われているから、相手はこちらの状況が分かりづらいのか。
 新たな分身は現れない。
 弥十郎を飛び越えて境界線内へ着地した分身を、月夜が祓魔の力で包み消し去る。
「あれ、簡単に倒せちゃった」
「領域に入ったせいで、ダメージをくらったからかも?」
「そっか…。ここにいたのは、全部片付いちゃったね」
「ねーねー。オヤブン知らない?」
「空にいるんでしょ」
 きょろきょろと空を見ているコレットに月夜が言う。
「ううん」
「え、じゃあどこに…」
「路上に一匹、カエルがいるんだけど。あれって普通のカエルか?」
「魔性ではないみたいだね。赤い色じゃないし」
 刀真が指差すほうへ顔を向けた弥十郎が、アークソウルで気配を調べてみる。
 カエルはぴょんぴょん跳ねながらこちらへ向かってくる。
「ちびっこくって、カワイイね♪」
「袋に詰めておくか。おいっ、抵抗するなって」
 麻袋に入れようとするとカエルはじたばた暴れ、刀真の手から逃れようとする。
「ゲ…ゲコォ〜!ゲコゲコ〜!!」
「待って刀真。何か言ってるよ」
「知らないやつに、いきなり袋詰めにされそうになってるんだから。抵抗してるんじゃないのか?」
「そうじゃないの。もっとなんか…伝えようとしている気がね」
「ふむ…。空にいたやつじゃないのか?」
 玉藻の発言に周囲の空気が一瞬凍てついた。
「オヤブン!?」
「ゲコゲコォオッ」
 カエルは必死に何度も頷いた。
「避けきれなかったみたいね。今、解除してあげる」
 斉民はホーリーソウルの気を一輝の中へ送る。
「あれれ、元に戻らないよ?」
「もっと祈りの力を込めないといけないんじゃないかな。使い慣れていない宝石だし」
「むー…。そういうもんなのね」
「あぁそうだ。刀真くん、カエル…っていうか一輝くん離したほうがいいよ。元に戻ったら小型飛空艇も…」
「へ…?うぁあっ!!?」
 弥十郎の言葉にカエルにされた一輝を離す。
 反応が遅れていたら下敷きにされていただろう。
 人に戻った彼の傍へ所持品が出現した。
 元の姿になったため封印が解除されたのだった。