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リアクション
1.きまぐれ梅見
白梅の芳しい香りが辺り一面に漂う。
今日はウェザーのイベント、梅見会とその他色々。
改めて梅を見上げ、こんなにも良い香りがしたのかと驚く者もいる。
各々に敷かれたシートの上では、梅に負けじと良い香りが漂っていた。
その中のひとつ、クッキーやメレンゲ。
広げているのは、白にほんのり薄紫のグラデーションの入った花、デンドロビウムを頭に冠したネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)。
「わたくしのとびっきりのハーブ知識を活かした、ホワイトデイスイーツをご堪能あれ、でしてよ!!」
いつもとちょっとキャラが違っているのは花言葉が『わがままな美少女』のためか。
早速レイン達を顎で使い、お菓子を皆に配らせている。
「私もお菓子をお待ちしました。お口に合えばいいのですが……」
「あ、ああ」
「いつも悪いね」
これまたいつもと少しキャラが違うのは、ヒヤシンスを生やした杜守 柚(ともり・ゆず)。
花言葉は『しとやかな可愛らしさ』。
慎ましく微笑むと、友人のサニー・スカイ(さにー・すかい)やレイン、クラウドたちにクッキーを配る。
柚のウェザーへの差し入れは日常的なことだが、それでもいつもと何処か違った彼女の様子に戸惑うレインとクラウド。
それを手伝っているのは杜守 三月(ともり・みつき)。
こちらは花が咲いていないので、柚の変貌に少し戸惑っている。
(何だか調子狂うね……それは、皆もか)
梅見に参加している面々を眺め、肩を竦める。
「そんな時は、咲けばいいのよ! 春なんだもん」
お菓子配りを手伝っていた、ピンク色の可憐な花を咲かせたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、花咲いてない人たちに声をかけている。
「いつ咲くの? 今でしょ!」
そんな中、ウェザーの面子を見かけ走り寄る。
「やほー、ラフィルド、咲いてるー?」
「おはな、ない」
ルカルカが挨拶したのは、ウェザーの新顔居候のラフィルド。
赤いやや不定形少女の頭には、花は咲いてないようだ。
「そっか……レインにクラウドも咲かせなさいよー……んん?」
「いや……」
「俺たちは……」
ルカルカがよくよく見ると、彼らの頭の上に何かが乗っている。
茶色い物体。
レインとクラウドは、サニーと三つ子の兄弟。
ということは、誕生日も同じ。
そして11月30日の誕生花のひとつに「枯れ葉」「落ち葉」というのがあって……
「……なんか、ごめん」
「いや謝られると逆にもう」
「気にしてないからほんと」
ルカルカの謝罪に返す言葉も元気がない。
ちなみに花言葉は『春を待つ』。
「あー。早く春来ないかなあ」
「もう来てるけどな」
濡れ落ち葉のように湿っぽくなっている男子二人。
その近くでは、頭に咲かせた花に負けない程の陽気さで梅見会に参加している人物が一人。
豪華にカトレアを咲かせたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)。
花言葉は『高貴な美人』『品格と美』『真の魅力』。
女の子も花も大好きな彼にとって今の状況はまさに桃源郷。
ひたすら上機嫌でにこにことこの光景を眺めている。
「いやあ、皆可愛らしくって素敵だねえ……おや」
気が付けば、傍らにいるパートナーの頭がなんだか寂しい気がする。
「メシエ、花咲かないなんて、ノリが悪いなぁ」
「ノリで出来るものですかね」
浮かれているパートナーの頭にひょいと手を伸ばすメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)。
エースの頭に乗っている花を摘もうとする、が。
「あ痛たたた……」
「エース、いくら好きだからって、いつの間に花妖精の仲間入りしたんだい?」
メシエは周囲の花々を見渡す。
この花も皆、頭に自生しているらしい。
「いいじゃないか、お花見なんだから。可愛いお嬢さんと可憐な花達を楽しむのがいいよ?」
「そこで何故君がドヤ顔をするのか理解に苦しむ」
呆れて見ているメシエの頭に、濃紫の花冠が乗せられた。
「クリスマスローズだよ。花言葉は『追憶』と『慰め』」
「はいはい」
エースの頭を撫でつつ軽くあしらうが、メシエが花冠を取ることはなかった。
「ところで、ルカの頭の花って、何なのかな?」
ルカルカの呟きを聞きとめた此花 知流(このはな・ちるる)が、手に持っていた『世界の花辞典』をぱらぱらとめくる。
「『アグロステンマ』どすなぁ。花言葉は……」
「花言葉は『育ちの良さ』か。意外なようだが実はそのままだな」
「初夏に咲く花だから、今見えるなんて嬉しいよ」
知流が読み上げると同時に、次々と補足される花知識。
有機コンピューターダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と、花大好きのエースだ。
「あれ、皆はんよぉご存知やんなぁ」
辞典を披露するタイミングを失ってしまったが、それでも知流は妖艶に笑う。
「ちなみに、うちに咲いてるのは薔薇。花言葉は『情熱』や」
そう。心に温もりを持つ者は、冷静で滅多なことでは怒らないのだ。
「それじゃあ知流。私の花は何かしら?」
ルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)は自らの頭に咲く白い小さな花々を指差す。
知流はぱらぱらとページをめくる。
「アベリア、やんなぁ。花言葉は『強運』」
「大事なことだから、もう一度!」
「アベリア。花言葉は、『強運』」
「聞いた雅羅!?」
「え、ええ……」
ルゥは雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)に掴み掛らん勢いで駆け寄る。
「私が雅羅の傍にいることによって、貴女の不幸属性が中和されるかもしれないわ!」
「そう上手くいくと良いけど……」
そんな彼女たちの前にお菓子が差し出される。
鼻腔をくすぐる甘い香り。
「わたくしのとびっきりのハーブ知識を生かしたホワイトデースイーツをご堪能あれ、ですわ! ちょっとレイン、お茶!」
「はいはい」
ネージュの、ハーブや茶葉をちりばめた各種クッキー。
どれも間違いなく美味しそうで、ごくりと喉が鳴る。
そして彼女に命ぜられて慌てて紅茶を淹れようとレインが駆け寄る。
が、運悪く足がもつれてポットが宙を舞い雅羅の方へ――
「うわっ」
「きゃあっ」
しかし、そこで奇跡は起こった。
ルカルカ達がやっていたバトミントンの羽がポットに当たり、ポットの落下地点が変わる。
「ぅあちゃああああっ!」
「うわあっ、すみませんすみません!」
運悪く、頭にコケを生やして花言葉通り『物思い』に浸っていた鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)の頭へ。
飛び上がる貴仁。
必死で謝罪し手当てするレイン。
近くのグループの梅見に参加していたマーカス・スタイネム(まーかす・すたいねむ)も、手当てのために走ってくる。
「大丈夫ですか!」
「いや……いや、うん、いいんですよ……」
レインに謝られた貴仁は、何故か目を合わせないようにして人のいない方へ引っ込むとする。
いつの間にか頭のコケは枯れ、代わりに小さな花々が咲いている。
「あれは、キルタンサス。花言葉は『恥ずかしがり屋』『屈折した魅力』だな」
ダリルの解説の通り、貴仁は赤くなって身の置き所のない様子で縮こまっている。
「ちょ、ちょっと申し訳なかったけど助かったわ……」
一連の光景を眺めていた雅羅は、ルゥを見てため息をつく。
まさか、本当に不幸が打ち消されているのだろうか。
「ふふふ見ましたこの花の強運パワー! ああ、雅羅、今日の貴女は何時もにも増して美しいわ。まるで、野に咲く名も無き花の清楚な美しさのよう!」
ルゥは雅羅の手を握り、ぐっとポーズをとる。
「今日の私はその花を守る為に命を懸ける聖騎士となりましょう!」
「え、ええ……」
「任せて、今日は貴方の頭に咲いたその花の意味『名もない平和』を実現させるわ! 大丈夫、私がいれば不幸なんて中和されて消えてしまうはずよ!」
花どころかルゥ自身が雅羅の不幸を振り払おうと言うように、ぐっと拳を握りしめた。
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