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サスペンス温泉事件   解決編

 舞花は静かに説明を始めた。

「――この事件は、多少ノイズが混じりますが全て一本の線で繋がっていたのです」
「一本の線?」
 オルフェリアの問いに、舞花は小さく頷く。
「まず最初に除外しなければいけないのは、ハデスさん、唯斗さんたちとルカルカさんたちの一件。こちらは別に調査した結果、それぞれ個別に実行犯がいたそうです」
「でしたらまず、その犯人を捕まえなければ……」
「ええやないですか被害者が男の分には。めんこい女子さんを殺った犯人は捕まえねばいかんのすけど」
 息巻くマイアを、真尋がやんわりと止める。
「それから、行方不明のハルカさん、玲亜さんに関しても部屋で休んでいることが判明しました」
「え〜! 玲亜ったら、あんなに探したのに……」
「え……あ、無事だった?」
(……だと思ってました)
 探し人の無事に、憤ったり拍子抜けたりする詩亜と竜斗たち。
「そしていよいよ問題の、貴仁さんの事件です」
「あの、レオーナ様の殺害は……」
「あたしは死んでないっつーの!」
 クレアの希望は即座に打ち砕かれた。
「貴仁さんは、貸切温泉の奥に迷い込みました。そこで、何かを見てしまったのです」
「何か?」
「ええ。そして鼻血を出しました」
「鼻血、だと」
「そうです。最初の事件のおびただしい血液。あれは殺害の際の血ではなく、鼻血だったのです」
 首を傾げるアーヴィンに、舞花は自分の後頭部を指して見せる。
「死亡原因は、撲殺でしたから」
「じゃあ、あのダイイングメッセージは……」
「そう、鼻血を示していたのです」
 セレンフィリティの気づきに頷いた舞花は、悲痛そうな表情を浮かべていた。
「彩さんは真相に気付いて、殺されてしまったのです。私がもっと早くに気付いていれば……」
「それで、犯人は」
「犯人は……」
 該当者を指差そうとした、舞花。
 その前に進み出た人物が一人。
「そうか分かった! 犯人はヤ〇! じゃなくて、弾ね!」
「えええええーっ!」
 エイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)の断定に茫然とする風馬 弾(ふうま・だん)
 そんなだってエイカとはずっと一緒にいたじゃないか。
 エイカやアゾートさんのポロリを楽しみにもとい温泉を楽しみにしてやって来たのに、何故こんな仕打が!
「あたしだって探偵役やりたかったのよ! 真相は解けたーってやりたかったのよ!」
 そんな弾の胸中を無視して、エイカは魂の叫びを放つ。
「もう謎解きは終わっちゃったから、せめて犯人はお前だをやりたいのよ! そんで色々と角が立たない大人の事情を考えるに、パートナーの弾が一番適任なのよっ!」
「そ、そう言われると僕が犯人だったような気がしてきたよ……」
 エイカの物凄く身勝手な理由に、それでも何故か説得されてしまう弾。
「そうか……僕は、真犯人なんだ。動機もなければ凶器も狂気もないけど、僕が真犯人です」
 皆の前に進み出る弾。
 両手を揃えて前に差し出している。
「うわーさすがに無能な警察役の俺達でも、これは引くわー」
「何言ってるのですか、さっさと犯人を捕まえるのです!」
「ええっ、やっちゃうの!?」
 躊躇う昌毅にマイアがはっぱをかける。
「お願いします。ううっ、せめて一回くらいグラシナで活躍したり、アゾートさんと手を握ったりしたかった……」
「やりづれーすげえやりづれー」
 流されて逮捕される弾。
 これで一件落着か!?
「あの……待ってください!」
 そこに、救いの声がかかった。
 美羽と、彼女を守る様にして立っているのコハク。
「何? もう事件は終わったのよ」
「……違うの!」
 そのエイカの言葉を、美羽は真正面から否定する。
「……は?」
 言いよどんでいた美羽だったが、とうとう勇気を振り絞った様子ではっきりとあることを口にする。
「実は……私たち、見ちゃったんだ……」
「え?」
「事件の現場を、そして、真犯人を!」
 ざわ…… ざわ……
 美羽の衝撃の告白に、周囲の空気が一変する。
「ごめんなさい、あまりにも衝撃的で、自分でも信じられなくって……」
「それに、もし軽々しく口にしたら、今度は美羽が狙われるかもしれないと思ったら……すいません」
「でも、私たちが黙ってたせいで無実の人が犯人になるくらいなら!」
 弾が犯人になるのは決して美羽たちのせいではないのだが、それでも弾の表情が明るくなる。
「だから、言うよ。犯人は……」
「犯人は……あなたです!」
 舞花の台詞と、指差した先。
 それが、美羽とコハクが示した人物と一致した。

 ムシミス・ジャウ(むしみす・じゃう)に。

「な、何故ですか。僕は……っ」
「私、見たの。被害者の人が温泉に入ってるムシミスさんを見て、知ってはいけないことを知ったために殺されてしまったのを……」
「違います、そんな事ありません!」
「それは……」
「駄目です! やめてくださいっ!」
 ムシミスは走り出した。
 美羽たちとは逆の方に。
「ななな!」
 すっかり探偵役を奪われ地面に絵を描いていたなななの方に。
 ムシミスが持つのは、包丁。
 厨房から持ち出した、彩の血を吸った包丁。
「……この人の命が惜しかったら、黙っててください……ぅわっ!?」
「なななに何しやがるーっ!!」
「ゼーさんっ!?」
 即座にムシミスとなななの間に割って入ったのは、シャウラだった。
 そのままの勢いで、ムシミスをすぐ背後にたまたまあった崖へと投げ飛ばす!
「あっ」
「えっ」
「うわぁあああああ……っ!」
 悲鳴が崖下へと続いた。
「お、俺はなんてことを……」
 自らの両手を見るシャウラ。
「お、落ち着いてゼーさん。犯人は自ら崖に身を投げたんだよ!」
「そ、そうだっけか?」
 なななの言葉に頷く面々。
「そうだよね」
「そうでした……ね」
「くそう、犯人め大人しくお縄につかないから……」

 こうして、サスペンス温泉の連続殺人事件は幕を下ろしたのだった。

   ◇◇◇

「……はっ!?」
「はっ」
「あれ」
「えっ」
「あれ……」
 そのとき、サスペンス温泉にいた人物全てが、目を覚ました。
 温泉に浸かったままの状態で。
 入ってからそう時間は経っていない。
 どうやらうたた寝をして、夢を見ていたらしい。
 なんとゆうか、温泉らしい夢だった……

「どうした、ムシミス」
 貸切温泉に入っていたムティルは、入ってきた弟の気配に僅かに目を逸らしながら声をかける。
「夢を、見ていたようです」
 ムシミスは温泉に入りながら答えた。
「とても、とても悪い夢を――」


担当マスターより

▼担当マスター

こみか

▼マスターコメント

 こんにちは、お世話になっております。
 湯けむりお約束温泉旅行を担当させていただきました、温泉宿に行ったら買わなくても土産チェックは必須な、こみか、と申します。
 お約束温泉にようこそいらっしゃいました!
 温泉を楽しむ皆さんのアクション、とても楽しかったです。
 それに、サスペンス温泉。
 皆様それぞれとても分かってらっしゃった上で素敵な役を演じられ、皆様の力でお話が組み上がっていくのを見るのはとても興奮しました。
 書いていてとても楽しかったです。
 色々な役割がありましたが、犯人役がいませんでしたのでそこはNPCに頑張ってもらいました。

 温泉宿でのひとときを、楽しんでいただけたら幸いです。
 それでは、蒼でも三でも、またどこかでお会いできたらとても嬉しいです。