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人狼と神隠しとテンプルナイツ

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人狼と神隠しとテンプルナイツ

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 第4章 人狼

「皆さん落ち着いていれば大丈夫であります!」
 アイリス・零式(あいりす・ぜろしき)が広い煉瓦通りで、町人達を誘導する。
 町の半数近くがまだ、避難している途中だった。
「ふぇえええんっ、こ、こわいよーー」
 しかし、子供達が泣き叫ぶ、また大人も
「おい、大丈夫なのかこんなので、これじゃあおそってくださいとーー」
「大丈夫でありますから」
 何とかしてアイリスが説得する有様で、ほとんどの町人たちがパニック状態だった。
(……このままではまずいな、いざって時に逃げ出せない)
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)はそんな町人達の様子をみて、もしもの時のことを危惧していた。
 そんなときだった、とつぜん綺麗な透き通った歌声が静かに聞こえてきた。
 目をつむって、町人達の注目を受け、歌っているのはアイリスだった。
 次第にパニックも落ち着いていく。

「まるで、心が温かくなる唄だね」
「ああ」
 一緒に町人を見守っていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、霜月の横でぽつりと感想を言う。
 霜月自身も、この唄には思わず聞き入ってしまっているようだった。
「みなさん無事ですか!」
 シリウス達とともに、ようやくマリアが城の近くまでたどり着く。
「無事だったか」
「ええ。まだ、こちらは人狼による被害は出てないみたいでーーわっ」
「時間の問題……何をしているのだ?」
 マリアは気がつけば、地面に膝をつけて起き上がろうとしていた。
 が、頭にのっかる重さで、顔を地面からあげることすら困難になっていた。
「これが普通の反応ですよね」
 マリアの頭の上に乗っかった状態でシーサイド ムーン(しーさいど・むーん)が言った。
 それをリカインはため息を小さくつきながら、取り上げると、頭の上にかぶった。
 ひっくり返ったシーサイドムーンは、伸びる触手が髪の毛のようになり、まるでかつらをかぶっているように見える。
「あ、あの……重くないんですか?」
 腰をさすりながら、マリアはゆっくりと立ち上がって聞く。
 しかし、リカインは驚いた表情でマリアを見た。
「え、そんなことはないが……そうだ、そういえば君にはパートナーは居ないのか?」
「パートナー……居るのだけど……」

 マリアが歯切れの悪く答えだしたときだった、突然凜々しい声が響いた。
「人狼が来たのだ!!」
 その声がする方へと、マリアとリカイン達は向かう。
 声の主、天禰 薫(あまね・かおる)達の元へとたどり着くと、リカインは驚愕した。
「今まで、静かだったのはここに気づかなかったわけではなく、数を集めて一斉に襲うためだったのね
 マリア達の目の前には100、いや500は超える人狼が居た。
 リカインはその思わぬ数に嫌な予感を感じる。
「待った! もしかしたら、人狼とはいえ、あいつらの血を流しても儀式が行われてしまうのではないかな?」
「どういうことだ?」
 先陣を切ろうとしていた熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)がリカインへと振り返り聞く。
 リカインによると、この人狼達を負傷させることこそが奴らの作戦ではないかと言う。
「どうしたら……」
「なら、我が目くらましをするのだ。その間に素手などで戦えば良いのだ」
 マリアが少し困っていると、薫が提案をする。
 リカインはしばらく眉間にしわを寄せ、悩むが小さく頷いた。
「今はそれが善処みたいだね」
「要は、血を流させないようにすればいいんだろ!」
「ええ」
 リカインに確認しながら、八雲 尊(やぐも・たける)はにやりと笑みを浮かべる。
「なあ、大丈夫なのか?」
「きっとうまくいくのだ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
 こっそりと、心配そうに孝高が、薫に耳打ちする。
 しかし、聞いたこととは違う答えに、義孝は頭をかいた。
「何もおまえまで一人で背負い込むなよ? 俺たちがいるんだから」
「ありがとうなのだ。もちろん義孝を頼りにしてるのだ!」
「……ああ」
 薫は満点の笑顔で答える。
 その答えもまた、「そういう意味で聞いたんじゃないんだけどな」
と思ったのだが、自分を頼りにしてくれるという答えを聞けただけでも義孝にとっては十分だった。

「ところで、マリアさん。今回の事件グランツ教は絡んでいるのだ?」
「……断じてそれはありません……と私の知ってる限りではですが」
 薫の問いかけにどこか自信がなさそうに答える。
 しかし、薫はそれ以上追求はしなかった。
「わかったのだ、我はマリアさんを信じているのだ」
「ありがとう」
 マリアは薫の笑顔に少し救われた気がした。
 しかし、今はそれどころではない。

「……おい、奴ら、そこまで来てるぞ」
 孝高は剣を構える。
 すでに人狼達は町人達へ向かって走り出していた。
「いくのだ!」
 薫のかけ声とともに、”神の目”が発射される。
 強い光が襲いかかり、向かってくる人狼達は一斉に立ち止まり出す。

「……隙だらけだぜ!」
 義孝は”妖刀白檀”を素早く峰打ちで人狼を気絶させていく。
「どんどん、燃えろーっ!」
 「わははは」と笑いながら、尊は”爆炎波”を振りかざすと、人狼達に大きな炎が人狼達に襲いかかり、大やけどを負わせていく

「こんどはあちらだよ」
 リカインは指を指すと、先ほどリカインの髪となったシーサイドムーンが触手を伸ばし、人狼の頭に巻き付く。
 すると、白い光が走ったと思うと、人狼は黒こげになって地面に倒れ込む。
 マリアは魔法なんかを使えれば良かったのだけれど……と思いながらも素手で人狼達と戦う。
 が、マリア達はあまりの人狼の数に1つ気がつかなかった
 背後からも、人狼が一体近づいていることに。

「くっ、誰か応援を頼む!!」
「!!」
 遠くから響いてくる霜月の声にマリア達は嫌な予感が走った。
「薫!?」
「義孝達は、そいつらを頼むのだ!!」
 先に薫が走り出す。
 マリアたちも慌てて追いかける。
「しまった……のだ」
 先についた薫は、その巨大な生物を鋭い目つきでにらみつけた。
 霜月は悔しそうにしながら謝る。
 そいつの手には小さな少年が握られていた。どうやら気絶しているようだった。
「すまない、いつの間にか背後から近づいてきていた」
「霜月さんのせいじゃないのだ……これはしかたないのだ」
 遅れて義孝とマリアがたどり着く。
 尊と義孝は襲いかかる人狼を相手するため残ってもらっている。
「いったい何がーーでかい!?」
 思わず義孝は目の前の巨大生物に目を見張った。
 高さ3メートル、筋肉が目立つ人狼だった。
 ただ、その目つきなどから、凶暴さ、威厳さを感じる。
「おまえたちが、トラップをいたるところにしかけてくれたのか」
「喋った!?」
 思わず霜月が驚きの声をあげる。
 今までの人狼は全て、狼のようなうなり声しか上げなかった。
 しかし、こいつは低い、うなるような声で、言葉を喋ったのだった。
「トラップ……昌毅さんたちの……」
 マリアはHCでの情報共有を思い出す。
「おまえたちのトラップのおかげでだいぶケガした……ユルサンゾ」
「まずいのだ!! みんな離れるのだ!!」
 薫は突然大声を上げる。
 かすかに人狼の手で何かが光ったのが見えたのだった。
「くっ、間に合え!」
 霜月は歯を食いしばりながら、”闇黒死球”を発動させる。
 巨大人狼に黒い塊がぶつかったとおもうと、その動きは突然固まった。
「ウウ……なにをやった……にんげん…………」
 巨大人狼の手がゆっくりと開かれると、少年は地面に向かって落ちていく。
「今のうちに少年を助けます!!」
 霜月は素早く少年の方へと向かうと、落ちていく少年を抱きかかえた。
 思わぬ光景に全員が安堵する。が、

「ニンゲン……ニンゲンユルさない……ユルサナイ!!」
「なっ! 闇黒死球を無視して動くのか!?」
「これは……まずいかもしれないね」
 巨大人狼がゆっくりとゆっくりと動き出す。
 マリアはこの機会を逃したくはなかった。
「今のうちに指輪をーー」
「マリアさん、下がるのだ!」
 薫の止める声が響き、慌ててマリアは後ろに下がる。
 ゆっくりと光りが指輪に集まっていく。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ」
 マリアの前で、真っ赤な光が広がった。