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変態紳士の野望

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変態紳士の野望

リアクション


プロローグ

「ふむ、予期せぬ援軍というのは嬉しいものだな」
 変態紳士は暗闇でラマン散布装置の周囲をメンテナンスしているコントラクターの姿を見て笑みを浮かべる。
「味方が増えた以上、ここを守るはずだった戦闘員は増員分だけヴァイシャリーに向かい様子を見てくるのだ! まだ服を着ている者には容赦するな!」
「はっ!」
 変態紳士の号令で部下たちは数人の小隊を編成して出て行ってしまう。
「さて……そろそろ騒ぎを聞きつけて誰かがここに来るだろう……どうなることやら」
 変態紳士は独りごちると楽しそうに高笑いを響かせた。



一章 突撃! 隣の秘密基地


 ネオンの光が目に痛い秘密基地の周囲にはこれでもかと言うほど裸の男たちが密集していた。
 小型飛空挺からその様子を見つめる相沢 洋(あいざわ・ひろし)相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)に声をかける。
「洋孝、降伏勧告だ」
「はいはい……」
 洋孝は渋々といった感じで降伏勧告を始める。元々変態相手の任務だと知っているので、なおさら洋孝の士気は低い。
「あー、えー、こちらは教導団でーす。ぶっちゃけ、変態どもに通告しまーす。どうでもいいですけど、武器捨てて投降しないと、去勢すると息巻いている猛者がいまーす。というか、こちらも状況次第では去勢しますよー。あーだりー」
 耳を掻きながら勧告すると、男たち空にも届くほど大声で笑い始めた。
「笑止! 我らは裸一貫にて捨てる武器も無ければ投降する意思も無い! いくら我らのシンボルを去勢したとて、我らの信念までは去勢できんぞ!」
 男がそう言うと周りの男たちは挑発をするように股間を強調したブリッジを見せつけた。
 大勢の人間がやるとなんでも凄い光景に見えるが、これに関しては不快の一言だろう。
「……ああ、なんで僕はあんな奴らに降伏を促してるんだろう……。じっちゃん、もういいよね?」
「ああ、これより攻撃を開始する」
「ふん、やれるものならやってみろ!」
 男たちはブリッジの体制のまま腰を左右に振ってみせる。
 その光景を見て、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)は無表情のまま目元をひくひくと痙攣させた。
「降伏の意思無しと判断しました。これより攻撃を開始します……教導団の新型兵器開発担当者に是非、小型核弾頭またはそれ相応の特殊弾頭の開発を要請したいですね……。町ごと吹き飛ばしたほうが掃除にはなると思いますが。以上」
 文句をつらつらと言いながら、エリスがヴォルケーノに積んでいたミサイルを雨のように降らせた。
「ぎゃああああああああああああああ!」
 裸の男たちには当然為す術は無く、爆発に巻き込まれて裸体が美しいと思われるポーズで宙を舞った。
「くそ、やられる瞬間まで不愉快だな。みと、援護を頼む。」
「了解です」
 乃木坂 みと(のぎさか・みと)が了承すると洋は小型飛空挺を地表に向けた。
「チャージ!」
 洋が叫ぶと小型飛空挺は出力を上げて全速力で地表に突っ込み、空中に身を投げ出すとパラソルチョコでゆっくりと降下した。
 それを援護するようにみとも氷術で敵を凍らせていく。
「ばっちゃん! 危ない!」
 洋孝が叫ぶ。
 空を飛ぶということは高度を上げるということ、高い場所に行けば障害物がない分、風はよく流れるのだ。
 必然として、それだけラマンウイルスも素早くみとに接近することが出来た。
「っ!」
 声をかけられて、みとは咄嗟に身を屈めるが肩をかすめたウイルスは服を溶かし、みとの白い肩を露出させた。
「きゃっ!?」
 下着まで一瞬で溶けてしまい、みとは慌てて胸を両腕で掻くし、洋は地上からそれを見上げて、牙を見せるように変態たちに向けて笑顔を見せた。
「やってくれたなてめえら……そんなに去勢されたきゃ望み通りにしてやるよ!」
 洋は叫ぶなり両手にラスターハンドガンを持って、変態たちの股間を狙い撃ち次々と沈めていった。
 地上から潜入しようとしていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はその乱闘に便乗した。
「生まれたままの姿の芸術作品はあるけど……そんな股間が張り切らせて何が生まれたままの姿よ!」
 説教と共にリカインの前蹴りが変態の股間に炸裂する。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!?」
 蹴られた変態は一瞬、恍惚とした表情を浮かべると一気に顔を青ざめさせて気を失ってしまう。
「さあ、いらっしゃい。生まれたままの姿でも醜いあなたたちなんて私が文字通り『潰して』あげる」
 クスリと笑みを浮かべるリカインに男たちは腰を引かせながら後ろに下がってしまう。
「ええい怯むな! 数で押し返せ!」
 変態たちは自分を鼓舞するように声を上げると、リカインに突っ込んでいく。
「まだ反省の色は見えないわね。それじゃあ、これならどう?」
 リカインは目を瞑って集中すると滅技・龍気砲で男たちを迎え撃った。
 鋭い光りは突っ込んできた男たちに直撃し、数十人を一斉にくの字に曲げると秘密基地の壁に叩き付けられてしまう。
「今ので半分くらいの力よ。さあ、まだやるの?」
「た、助けてくれ! 俺たちはノリで来ただけなんだ!」
「頼む、見逃してくれ!」
 その威力を見て、何人かが命乞いを始めるがリカインの目は養豚場のブタでも見るかのような残酷で冷たい目をしていた。
「すでに無関係なはずの人を多数巻き込んでいるんだから今更命乞いなんてしても……ねえ?」
 そう言ってリカインは跪く変態たちの顔を蹴り飛ばすと、そのまま周囲にいる変態たちを蹴散らしていった。


 洋たちとリカインが外で暴れていたおかげで他のコントラクターたちはなんとか秘密基地へと入ることが出来たが、中にもこれまたいっぱいの変態たちがおり、窓も開いていないためラマンがそこら中に充満していた。
 変態たちはシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の姿を見て、叫ぶように声を上げた。
「何故だ! なぜ貴様らの服は溶けないんだ!」
 変態たちはシリウスの身体を見つめる。
 サビクは風の鎧によってラマンのピンク色の霧を飛ばしているが、その飛ばされた霧はシリウスのペガサスの衣に直撃しているが全く溶ける様子が無い。
「何故だ! 何故貴様の服はウイルスで溶けない!」
 状況が理解できずに叫ぶ変態たちに対して、シリウスは余裕の笑みを浮かべる。
「確かに服は溶けてしまうみたいだな……だが、一つお前たちは勘違いをしている!」
「勘違い……?」
「お前たちはこれを服だと言ったが──これは鎧だ!」
「!?」
「服ではないから鎧は溶けないのだ!」
「!?」
 二重の衝撃。
 あんなふわふわして柔らかそうなものが鎧であることと、小学生みたいな揚げ足取りでその鎧が溶けていないという事実に変態たちは呆然と立ちすくんだ。
 そんな様子をみてサビクは呆れたようにため息をつきながら剣を抜きはなった。
「キミは何を言ってるんだ、って言ってやりたいけど……実際に溶けてないから仕方ないね。さあ、君たちも降伏するなら今だけ受け入れるよ?」
「やかましい! 溶けないのは霧の濃度が薄まっているせいだ! 貴様らを地下まで連行してその服を溶かしてくれるわ!」
 男たちは叫ぶとシリウスたちに向かって、がに股で突撃してくる。
「やれやれだな。よしサビク! お前の力を見せてやれ!」
「はいはい」
 サビクは身に秘めた畏れられし力を解放し、身体能力を上げるとその場にいた変態たちをあっという間に切り捨ててしまった。
「うん、裸の分殺さないように切るのは見誤りが無くていいね」
 サビクは解放した力を元に戻してそう言った。
「よし、それじゃあガンガン進んで散布装置を止めに行くぞ!」
 シリウスは勇みながらさっさと先に進んでいった。

 
 コントラクターたちが正面からの突破をしている一方で及川 翠(おいかわ・みどり)は反対側から潜入していた。
 潜入と言えば聞こえはいいが、ただ単純に近くを通りかかって建物が気になったから入ったというだけのことである。
 建物をずんずんと進んでいく翠の肩をミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が掴んだ。
「待ちなさい翠! 勝手に入っちゃダメでしょ?」
「でも、ここから変態さんの気配がするのー」
「なんで気配があって近づいちゃうの!? いいから帰ろう?」
 ミリアが説得していると、名古屋 宗園(なごや・そうえん)は廊下の先から漂ってきたピンクの霧を指さした。
「ねえ、あれは何かしら?」
「むぅ……怪しいの……やっぱりここには何かいるの」
「近づいてきますね」
 ミリアが指摘するようにピンクの霧はこちらにゆっくりと近づいていく。
 ミリアはすぐ近くまで霧が近づくと、最大限に手加減した風術を使って霧の進行方向を宗園に向けた。
「……なにをしてるの?」
「いや、なんとなく……」
 そんな会話をしていると、霧は宗園の腹をかすめていき服が溶けるとあっという間に白いお腹と下胸が顔を覗かせた。
「服が溶けた……! 翠、早くここから出て……」
「面白いのー。どんどん溶けていくのー」
 ミリアの心配をよそに翠は霧に自ら突撃して服をドロドロに溶かしており、ミリアは頭を抱えた。
 と、
「貴様ら! そこで何をしてる!」
 廊下の角から全裸の男たちが現れて、険しい表情でこちらに近づいてきた。
「わ! 本当に変態が出た!」
「やっぱりいたの。それなら全力で叩きつぶすの。サリアはフォローよろしくなの」
 翠はサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)に声をかける。
「了解だよ、援護は任せてね」
 サリアはギフトスナイパーライフルで左腕を変形させると、ファイアストームの弾丸を変態たちに向けて発砲した。
「ぎゃあああ!」
 被弾した変態は悲鳴を上げるが、燃えるものを着ていないため火だるまになるようなことは無かった。
「前衛は任せなさい」
「私も行くのー!」
 宗園の突撃に合わせて翠も突っ込んでいく。
 向かいからは男たちと共に大量の霧まで現れて、ミリアはため息をつく。
「まったく……それ以上服が溶けたらどうするのよ!」
 ミリアは風術の出力を上げて放出すると、霧はあっという間に押し戻されるが窓も開いていない廊下では霧が巡回するだけで、宗園の服があっという間に溶けて無くなり生まれたままの姿を晒してしまう。
「うおお……!」
 思わぬ光景に男たちは思わず宗園の肢体に見入るが、翠も宗園も動きを止めない。
 宗園は突撃した速度そのままにヒロイックアサルトを併用して、ライトブリンガーによる槍の一撃を見舞った。
 振り上げた槍が男の頭をぶっ叩き、その反動を利用するように右にいた変態を薙ぎ払う。
 宗園が無駄の舞踏のような攻撃を魅せるよこで、翠は龍騎士の槌を豪快にフルスイングしていた。
「変態さん、飛んでけなの!」
 槌のフルスイングの前では防御などなんの意味もなさず、変態たちはあっという間になぎ倒されてしまう。
「よし、お掃除完了なの。まだまだ変態はいる気がするから、もっと進むの!」
 そう言って、翠はさっさと先に進んでしまい、
「やれやれだわ……風邪ひかないかしら」
 あられもない姿を晒す宗園はため息をつきながら先に続いた。