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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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■特殊9課 おとり捜査線
 ――ヒラニプラの裏通り。この裏通りは最後に機工士が誘拐された事件現場である。
 この現場近くへやってきたのはザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)新風 颯馬(にいかぜ・そうま)、そして別目的で同行してきたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)だった。
「送ってもらってありがとう。あとはこっちだけでなんとかなります」
 そう礼を述べるローザマリアであるが……その姿はいつものローザマリアではなく、《スパイマスクα》や《パーティマスク【バーバヤーガ】》によって知的で優しげな老婦人に変装していた。
 ……さかのぼること数日前、特殊9課候補生を加えた捜査を開始したその日からそういった変装をし、覆面捜査をしていたローザマリアは空京大学へと向かっていた。
 とある市民団体の代表という肩書を持って大学のキャンパスへ入ったローザマリアは、そこである調査のボランティアを募る。調査内容は“街角のアンケート集計、並びに街頭の監視カメラの死角で写真を一枚撮って、アンケートと一緒に送付する”こと。そして実際に捜査している内容は伏せている。……つまり、学生たちに無意識的に捜査協力してもらったのである。
 特に重要なのが送付してもらった写真のほうであり、ローザマリアはフィーグムンドと共にそれをまとめ上げ、地図に記入。通り魔事件の発生した各現場と照らし合わせ、それらを一つの線で結び合わせてルートを形成していった。
 そしてそのルートに合わせて巡回を行い、犯人を見つけ出す……というのが、今回のローザマリアとフィーグムンドの作戦である。
「なぁに、こっちも現場検証するつもりだったからのう。そのついでじゃ」
 現場検証をするザーフィアの付添いとして、運転手を務めた颯馬がそう言葉にする。付添い、とはいっても『殺気看破』『未来予知』で周囲警戒は怠らない。ちなみに現在、周囲に危険はないようだ。
「こちらの仕込みも完了したし、あとは針に獲物が掛かるのを待つだけか」
 スーツ姿に身を包み、こちらも準備完了と言わんばかりの雰囲気を出すフィーグムンド。ちょうど先ほどまで、架空ながらも本格的なウェブページを開設していたところであった。そのウェブページはというと……。
「――さ、行きましょうか。死者が出てからじゃ全て手遅れ、今の内に手を打たないとね」
 物陰から、ローザマリアが改めて姿を現す。先ほどまでの老婦人姿から打って変わって、《パーティマスク【バーバヤーガ】》を外して《スパイマスクα》の容貌を持った、設備メンテナンス業者(研修生のネーム付)の姿へと変装していた。フィーグムンドの立ち上げた架空ウェブページは、その設備メンテナンス業のものである。ちなみに、スーツ姿のフィーグムンドはローザマリア(機工士変装仕様)の上司という立ち回りらしい。
 形成したルートを機工士(とその上司)として動き回り、犯人の襲撃を待つ。ローザマリアとフィーグムンドによるそんなおとり捜査が開始されることとなった。そして、ザーフィアと颯馬はそれを見送っていく。
「複数の現場を回るとは、元気じゃのう。……それで、わしらは他の現場を調べんでいいのかの?」
「――燕馬が言うには、機工士が攫われた現場以外は“ついで”の犯行現場だろうからいいみたい。時間が経ってるから『サイコメトリ』も期待薄だろうし……それに、今回の事件にデイブレイカー事件が絡んでるなら、善意の契約者が調べてくれるだろう、だってさ」
 燕馬が言っていたことを思い出しながら、ザーフィアは『セキュリティ』技能を駆使して現場を検証する。颯馬にも協力してもらい、ここを通る人間をどういう風に襲うのかを中心に様々な角度からの検証を行っていく。
「うーん、意識のない人間をいかにして連れ去ったんだろう。普通に連れ去るんだとしたら、絶対にすぐ見つかると思うんだよね」
 ザーフィアの言うように、裏通りとはいえそこを出てしまえば人通りの多い道にぶつかってしまう。そうなれば人を抱えて通りに出てしまうとすぐに発見されてしまうだろう。
 いかにして見つからずに人を運び出せるのか。その検証を続けていく内に、とある一つの可能性が出てきた。
「……あれかな、人ひとりが入るくらいの何かに入れて運んだのかもしれないのかも」
「ふむ、ありえない話じゃないの」
 確かに人ひとりを運ぶのならば何かに入れてそれごと運んでしまえば問題はない。大きな甲冑鎧の相方が運ぶ役になれば、ある程度重くても気にはならないだろう。
「可能性の一つにすぎないんだけどね。――ん、あれって燕馬と一緒の班の……」
 新たな検証を開始しようとしたその時、ザーフィアの視界にある人物の姿が映る。その人物は燕馬と共に資料班に振り分けられていた牡丹であった。そのやや後方には牡丹のパートナーであるレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)の姿も見受けられる。
 ……どうやら牡丹は、自らおとり捜査役として立候補したようだ。自身が技術者であるため適役であろうと考えたらしく、その雰囲気はやる気に満ち溢れている。
 そして牡丹の後方を移動中のレナリィの手には《メモリープロジェクター》があった。どうやらそれで牡丹やその周囲の映像を記録し、いつでも情報を送信できるよう準備しているようだ。
「……各々でおとり捜査、ってところじゃの。うまくいけばいいんじゃがのぅ……」
 颯馬の言葉にザーフィアも同意を示す。そして、こちらも負けていられない、とばかりに検証を再開していくのであった。