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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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■捜査の基本は足 〜被害者への聞き込み〜
 ――空京にある、とある病院。ここにやってきたのは遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)の二人だった。二人がここへやってきたのには理由があり、通り魔事件で被害に遭った人から事情を聞こうと思ったためである。
「自宅療養の人の聞き込みや、証拠品の『サイコメトリ』のほうはルカルカたちにお願いしたから……私たちはこっちの聞き込み、頑張ろう!」
「ああ、そうだな」
 ほぼ同じ考えで動く予定だったらしいルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の二人と連携を取り合い、自宅療養の被害者への聞き込みや証拠品への『サイコメトリ』はルカルカたちに託したようだ。
 ひとまず受付へ赴き、面会可能な被害者に面会できないか尋ねる。……ややあって、どうやら今の時間は一人なら大丈夫そうであった。
 すぐさまその被害者の病室へ移動する歌菜と羽純。病室を訪れると、そこには腹部に大怪我を負った被害者がベッドに横たわっていた。
「……話は聞いてるよ。通り魔事件の事情聴取だっけか。覚えてることなら何でも話そう、すぐに解決してもらいたいしね」
「ありがとうございます。それでさっそくなんですけど、襲われた状況のことを話してもらえませんか?」
 状況が状況だろう、歌菜は丁寧な感じで被害者に聞き込みを開始する。まずは襲われた時の状況を聞くと……そこからとある事実が判明した。
「――あの時は二人とも酔っててね。ヒラニプラ裏通りの居酒屋からそれぞれ家に帰ろうとした時に襲われたんだ。周囲はとても暗かったけど、犯人の顔は見えなくはなかったよ。で、襲われた直後に『お前らは機械を直せるか?』と問われた。私のほうはからっきしだったが、連れのほうは機晶工学を学んでた機工士だったんだけど……あいつ、驚いてたよ。『な、なんで君がこんなことを……!?』ってね」
 どうやら、この被害者は誘拐された4人の機工士の一人と当時一緒にいた人だったようだ。そして、話を聞く限りその機工士はクルスと知り合いだったらしい。
「その機工士のこと、もう少し聞かせてもらえませんか?」
 元々、この聞き込みが終わった後に誘拐された機工士たちの来歴を調べようとしていたので、これは渡りに船と思い、歌菜はそのことについても尋ねる。
「あいつのことかい? さっきも言ったが機晶工学を学んでてな、確か……デイブレイカー事件だっけか。その事件の被害者だっていう機晶姫のメンテナンスを担当してたよ。なんだか物を知らなすぎて危なっかしい奴なんだ、ってぼやいてたなぁ」
 どうやら、クルスと顔見知りの機工士で間違いなさそうだ。歌菜たちはそのことを記録してから、再び襲われた状況のことを聞いていく。その過程で、目撃者が撮った犯人の写真を見せると、被害者は何度もうなずいて同じ姿であったことを肯定した。
「そうだそうだ、こいつらだよ。連れが驚いてたのはこっちの甲冑じゃないほうだな。――で、あんまりにも怖くてお互いに正しいことを言ったら、俺は甲冑の持ってた大斧でバサーって腹部斬られて、連れは大斧の柄でガツンとやられて……さすがにそれ以上は覚えてないな、気を失ったからさ」
「そうですか……あ、最後に一ついいですか? ――犯人に殺意はありました?」
「殺意? ……どうだろうな。思えば、俺への攻撃もどっちかといえば人払いのような感じでもあったように思えたし……少なくとも、殺すようならば今頃俺はこの世にいないんじゃないかねぇ」

 ――ちょうどその頃、ルカルカとダリルの二人も自宅療養中である別の被害者から話を聞いているところであった。
「……傷は深いが、死に至るほどではないな。言うならば――深いかすり傷、といったところか」
 被害者の傷を『ゴッドブレス』で治療しつつ、医者として見る傷の見立てを説明していた。それによれば、どうやら深い傷ではあるものの致死性には程遠い、という旨であった。
「とはいえ、当たり所が悪かったら大事になってたかもな。……よし、治療完了っと」
「ダリル、ありがと。それじゃあ……何か思い出せたこと、ありませんか?」
 ダリルと入れ替わり、ルカルカが被害者へ聞き込みを開始する。何か思い当たることはないか、当時持っていた物などはないか……など。そしてそこから、犯人が『こいつは外れか……黙らせておけ』と、甲冑鎧へ話していたこと。そしてその甲冑鎧はまったくもって喋らなかったことが判明した。
「……『サイコメトリ』でもだいたい同じ、か。わかりました、ご協力感謝します!」
 被害者が当時持っていたバッグを『サイコメトリ』したが、だいたいは証言と同じであった。これ以上は情報は得られそうにないと感じたルカルカたちは、協力感謝の礼を伝えてから被害者宅を後にしていく。
 その足で向かった先は空京警察の証拠品保管室。ここには事件の証拠品が保管されており、連続通り魔事件で回収された現場の証拠品も保管されていた。
「さて、と。何かいい情報があればいいんだけど」
 保管されているいくつかの証拠品をテーブルの上に並べ、一つずつ丁寧に『サイコメトリ』していくルカルカ。しかし、そのビジョンに映ったのは現場で襲撃された瞬間のものがほとんどであった。
「でも、現場のほとんどで使われてた武器は両刃の大斧みたいね。……となると、モニカへの容疑は少しは薄くなるかも」
 モニカが使っている得物は槍のはずなので、得物が違うということは犯人としての可能性も薄くなる、とルカルカは考えているようだ。
「そうだといいんだが。そういえば、犯行場所のほうもだいぶまとめ終ったらしくてな、さっき資料班から連絡が来てたから取ってきたぞ」
 そう言うと、ダリルは資料室から預かってきた犯行場所をまとめた地図をルカルカに差し出す。それを見ながら、ここ最近はヒラニプラでの犯行が多くなったという資料班側の見解を伝えていった。
「……間違いなさそうね。よし、この周辺を色々と洗ってみよう。車を使ってたかどうかはわからないけど、その辺りも調べて……なんとかして、犯人のより詳しい顔を突き止めないと!」
 更なる目撃情報や有力な証拠を得るために、ルカルカたちは保管室を後にする。そしてその道中……。
「いざ捕まえるとなったら、やっぱりおとり捜査になるのか?」
「そうなるかな。有能な機工士を攫わせる現場で現行犯逮捕すれば一発でしょ」
「ふむ。しかしそうなるとおとり捜査に協力してくれる“有能な機工士”を探す必要が出てくるんだが……」
 じーっ……。そんな擬音が聞こえてきそうな、ルカルカの視線がダリルに突き刺さる。
「……俺か」
 はぁ、とため息をつくほかなかった。

 一方、歌菜と羽純の二人は《聖邪龍ケイオスブレードドラゴン》を駆って聞き込みに東奔西走していた。
 被害者……特に誘拐された機工士たちの関係者を当たり、性別や年齢などのあらゆる情報をかき集めていく。そしてそれによれば、やはり機工士の内の一人はここ最近の仕事としてクルスのメンテナンス作業に参加していたことが確定的となった。
 しかし、目立つ点はそのことのみで、資料室からの情報もあってほぼ無作為に連れ去られているのも明らかになってしまった。
「むー、共通点がわかれば次に狙われそうな人に目星を付けて、こっそり護衛したりできたんだけどなー……」
「そう甘くないってことだ。……代わりに色々と情報が集まっただろ?」
 残念そうにしながらも、得た情報を《手型HC弐式・N『歌菜専用』》に記録、他の候補生と情報共有するために送信している歌菜の頭をポンポンと軽く叩く羽純。
「そうね……何とかして真犯人を見つけ出さないと!」
 デイブレイカー事件を通じて知り合いになったクルスの無実を証明するため、そして何より特殊9課候補生として事件の早期解決をせんとするため。歌菜はグッと拳を握って犯人逮捕に全力を注ぐことを誓う。
 しかし時は既に夕暮れ。歌菜たちは捜査報告をするため、まずは一度空京警察へと戻ることにしたのであった……。