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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

リアクション

  EJ社・内部


「気に食わんな。なにより、私はキメラの類が許せない」
 EJの本社に侵入したリデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)が不機嫌に吐き捨てる。
「人は、人のままで強くなれる。その可能性を奪う奴らには、制裁あるのみだ」
「私も許せんよ。望まぬ者を、自我亡き怪物に変じさせる悪逆無道どもめ」
 帝釈天 インドラ(たいしゃくてん・いんどら)もパートナーに呼応する。
 リデルは髪を解き、ダッフルコートで変装していた。インドラはジャンスカと白衣、さらにパートナーが着用しているサングラスを借りている。偽名も用意し、それぞれ『アルベール・ブルー』『ラハン・バレット』を名乗っていた。
 苛立つ彼女たちは、血清探しより、組織の破壊を優先していた。
「おまえたちの怒りは、十分に理解できるよ」
【隠形の術】を解いて、千返 かつみ(ちがえ・かつみ)が姿をあらわす。
 子供たちと似た境遇のLCを思うと、こみ上げる怒りは耐え難い。
「こんなふざけた連中は殴り飛ばしてやりたいが、俺は血清探しを優せ……」
「おい! なんだ貴様らは!」
 彼のセリフを遮るように、背後から男の怒声が聞こえた。EJ社の警備隊である。
 かつみは忍びの術を持つが、敢えて姿を見せたまま挑発した。
「ここまで来なよ。追いつけるものならね」
「貴様……待て!」
「鬼さんこちらってね。まあこいつらは、鬼にも劣る下衆野郎だけどな!」
 囮役として、かつみは建物内を逃げ回っていく。その隙に、リデル、インドラの両者は、気を取られた警備隊を殴り倒していった。



 彼らの動きが、内部での陽動作戦になっている間。
 他の契約者たちは警備室を制圧していた。
「あたしは子供をいたぶる大人を後腐れなく殺せる。死にたくなかったら、血清がどこか吐くのよ」
 捕えた従業員を尋問するのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。売春され、傷めつけられた過去を持つ彼女は、子供たちを貶めたEJ社が許せない。
「情報を漏らすなら、死を選ぶさ」
「なっ……」
 囚われの従業員は、隠していた毒薬を飲み込み、息絶えた。
 EJ社の情報管理は徹底している。社員には全員、奥歯に毒を仕込ませてあるのだ。
 悔しそうに死体を叩きつけるセレンを見て、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は危惧する。セレンは忌まわしい記憶から、犯人に残虐な行為を働くのではないか――。
「気持ちはわかるけど、冷静にね」
「わかってるわ。毒を仕込んでいるのは予想外だったけど……むやみに殺したりもしない」
 それを聞いて、ほっとするセレアナ。彼女はローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)を振り返ると、厳かに告げた。
「では、はじめましょう」
「そうね」
 ローザマリアはエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)に命じ、セレアナと共に【情報攪乱】を発動させる。
 社内には、『施設は国軍によって制圧された』という偽の情報が流れた。
 作戦の発案者はローザマリアだ。狙いは、重要な証人の確保にある。
 偽の情報に慌て、いち早く脱出しようとする者ほど、機密事項を握っている可能性が高い。
 脱出者を逃さないよう、施設の周りは殊舟艇作戦群『Seal’s』が囲んでいる。
「さあ。網にかかるのは誰かしら」
 ローザマリアは、EJ社の全域をモニタで監視していた。


「血清がどんなものかわからないけど……。保存なら普通、冷凍するか、遠心分離器にかけておくはずだよ」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が、医学知識に基づいて発言する。
「あたしも、血清なら“温度が一定に保たれている場所”にあると思う」
 パートナーの『銃型HC弐式』を見ながら、セレンが言う。そこに映っているのは、ダウンロードしたEJ社の見取り図だ。
 四階建てのEJ本社。部屋数は全部で100以上ある。ひとつひとつ探していたら間に合わない。
 だからセレンは、“室内を低温に保てる設備”が整っている場所を絞り込んでいたのだ。

「駄目だ。それだけじゃ足りない」
 合流した玖純 飛都(くすみ・ひさと)が告げる。彼は持ち前の探索系スキルを総動員し、“生体反応がある場所”を重点的に探していた。
 ふたつの条件を合わせると、候補の部屋はひとつに絞られる。
 だが、なぜ彼は“生体反応”調べていたのか。
 周囲の疑問を感じ取ったのだろう。飛都は皆を見回しながら告げる。
「血清は、生物に毒素を注入し、抗体を作ることで出来るんだ」
 飛都の説明に、ローズが応じた。
「それはそうだけど……。じゃあ、まさか……!」
「ああ。戦闘に向かない子が、生きた培養槽として使われている。そう考えて間違いないだろう」

 生きた子供が、培養槽。
 彼の発言を聞いた一行は、弾けるように、候補の部屋へと駆け出していく。



「今のところ、脱出を図るものはいないようね」
 警備室のモニタで、ローザは施設全体を監視する。
 あとは罠にかかる獲物を待つだけだったが――。
「貴様ら! こんなところで何をしている!」
 別の場所で待機していた警備隊が、彼女たちのもとへ、次々と押し寄せてくる。
 ローザは鬱陶しそうに立ち上がりながら、窓の外をちらりと見た。
「陽動……もっと頑張ってよね」