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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

リアクション

  ニルヴァーナ市外


 ニルヴァーナの視察に来ていた金鋭峰の前に、突如現れた異形の少年。
 剣を抜く鋭峰を、随行していたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が遮った。
「団長! 剣をしまってください! ――私が、あなたの剣なのですから」
 ルカは、異形の少年に向き合う。
「貴方は何者!? 何の狙いがあって団長を襲うの?」
「殺ス……殺ス……」
 呪詛のようにつぶやく少年を見て、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も身構える。
「話が通じる相手じゃなさそうだ。力尽くでいくぞ」
「任せて!」
 ルカが【ショックウエーブ】で少年を弾き飛ばす。鋭峰には指一本触れさせないという気迫が、空気を切り裂いていく。
 続けざまルカは、鋭峰を抱えて【ポイントシフト】。戦線から距離をとった。
 ふたりの移動を見届けたダリルは、【アブソリュート・ゼロ】で鋭峰の前に氷壁を張る。
「この襲撃、初手でミスれば次は無い。出直して来い」

 睨むダリルの横から、カル・カルカー(かる・かるかー)が一歩踏み出した。
 目の前の少年について、たいむちゃんから送られてきた情報。わかっていることは少ないが、それを読んだカルには、ひとつだけ確かなことがあった。
「……落ち着いて聞いてほしい。僕は知っているんだ。よくわからないまま、世界に独り、ぽぉんと投げ出された時の不安を」
 少年の前に立ちはだかり、カルは説得する。
「だから……助けたい」
 孤児だったカルは、境遇の似た少年を放っておけない。なんとしても彼の心をときほぐし、狂わせているものを癒そうとする。
「金団長も、お手を出されないでください。彼を押さえるなら僕たちで十分です」
「さよう。金団長のお手を煩わせる様では、教導団の名折れになろうよ」
 夏侯 惇(かこう・とん)も武器を構えて見据える。
 ふと、惇の片目が疼いた。戦場で失ったもうひとつの眼。自ら納得した戦いの果てでさえ、肉体の損傷には怒りがこみ上げてくる。
 望みもせず、玩具のように身体を弄ばれた屈辱は、痛いほど理解できた。

「あなたは傷ついている。せめて、身体の傷だけでも治癒させてください」
 ジョン・オーク(じょん・おーく)が、少年に【ヒール】をかけた。
「おい。何をやっている」
 ダリルが、ジョンに詰め寄っていく。
「襲撃者を癒すとは解せないな」
「理解できなくても、構いませんよ」
 にっこりと微笑んでみせた。ジョンの目的は、EJ社の打破にある。決して少年を害することではなかった。

「言ってみれば、この子も被害者なんだよな」
 ドリル・ホール(どりる・ほーる)は罰が悪そうに頭をかいた。団長を襲った罪は深いが、情状酌量の余地はあるだろう。
 ドリルは少年の前に立つと、無防備に両腕を広げた。
「もやもやがたまってる子供に、おもいきりぶつかられてやる。それも大人のおせっかいさ」
 自分の胸をドンッと叩いてつづける。
「遠慮はいらねぇ。全力でぶつかってこいよ」
「殺ス……殺ス……!」
 狂気のままに、少年は襲いかかった。剣と化した両腕でドリルを切り刻む。噴き上げる血しぶきのなか、巨大な触肢で挟み込み、毒を持つ尾で突き刺した。
「……恨みつらみを吐き出して、ちぃっとは落ち着いたかい?」
 満身創痍になったドリルが白い歯をこぼす。猛攻を浴びたドリルは瀕死寸前だったが、少年に向けた微笑みは、どこまでも清々しかった。

 ジョンが、傷だらけのドリルに【ヒール】をかけている間。
 カルはもう一度、説得を試みる。
「ねえ、君っ! 壊されたからって、壊れちゃだめだ!」
「ウゥゥ……アアァァァ……」
「たとえ心がバラバラになっても! 一つ一つ、かけらを拾い集めて、元に戻していこう。僕は、君に破滅してほしくないんだ!」
「ウウウゥゥゥゥ……アアアアアアアアッ!」
 悲痛な叫びを上げて、少年はその場にうずくまる。心が、取り戻されようとしていた。
 だが――。


「はっ! こいつぁ、おもしれぇ事になってんなぁ」
 白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が、大剣を抜きながら歩み寄る。
「金の野郎をぶっ殺すチャンスじゃねぇか!」
「そこぉの少年は、有意義な実験のぉ成功の鍵! 渡しはしませぇん!」
 ゼブル・ナウレィージ(ぜぶる・なうれぃーじ)も近づきながら、常軌を逸した笑い声をあげた。
 迫り来る彼らの異様な哄笑が、再び、少年を狂気へと蝕んでいく。