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スーパーマスターNPC大戦!

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【辰と巳って、どっちも細長い生き物だから何となく似てるよね】

 卯アッシュへのハグを諦めたルカルカが、辰アッシュと呼ぶべき量産型雑魚の一体にドラゴンす―プレックスを仕掛けようとしたが、今回も公衆トイレに足を運ぼうとしていたラインキルドに前を横切られ、何となく成功したのか失敗したのかよく分からない結果に陥っている。

   ロイヤルガード・ルカルカは、犠牲になったのだ。

 それはまぁ良いとして(良いのか?)、辰アッシュに対抗すべく乗り出してきたラブ・リトル(らぶ・りとる)は、相手がヒップホッパー気取りのアッシュだからということなのだろうか、ダブついたTシャツとゆったり目のジーパン、更には帽子をやや斜め気味の位置で目深に被り、いつものアイドル姿からは想像出来ない程の、見事なヒップホッパースタイルで登場していた。
「YO! ハーティオン下がってな! 今日のあたしはアイドルじゃなくてラッパー! あのドラゴン野郎にアッパー! 挨拶代わりにブチかますぜバディ!」
 最早すっかりラッパーなラブ・リトルだが、彼女にいわれるまでもなく、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は辰アッシュに対して、某国営放送の時代劇に出ていたような面構えだのいいながら、ラインキルドの亜空間に引きずり込まれてしまっていた。
 さて、ラブ・リトルは存在感が急に薄くなっていったコア・ハーティオンのことなどすっかり眼中にはなく、ひたすら目の前の辰アッシュに対してのみ、ギラギラした集中力を叩きつけていた。
「YO! YO! YO! そこのドラゴン!  戦う前にオーディエンス! 盛り上げないと失格? やるこた簡単! ラップバトル! YO! HO! 行くぞ! YO!」
「おいでYO嬢ちゃん! いつでも来なYO! 俺たちゃサイコー! 至ってサイキョー! アイドルなんかにゃ負けやしねーYO!」
 ラブ・リトルと辰アッシュの当人同士は、ラップバトルで物凄く盛り上がっているようであったが、傍から見ればどっちもどっちで、やっぱりウザい(特に辰アッシュの方が)。
「あんたが本物? それなら勝負だ! 応えないと駄目でしょ! 行くぞお前ら用意は良いか? SAY! Go!」
 すっかりノリノリで、ラブ・リトルが戦端を切った。
 ラップを知らない一般人にしてみれば、このふたりが何をやっているのか分からないだろう。
 行殺亜空間に呑みこまれたコア・ハーティオンも、全く理解出来ていないひとりだったが、行殺されてしまった者のことなど、ここでは放っておいて宜しい。
 ともあれ、ラブ・リトルは辰アッシュ相手に互角のラップバトルを繰り広げている。
 オーディエンスはことごとく辰アッシュか卯アッシュか、或いは巳アッシュぐらいしか居ないのだが、ラブ・リトルはここがアウェーであるかどうかなど、端から気にしちゃいない。
「ニセモノ? ホンモノ? どっちでもいいぜ! 俺らただ魂込めて声出すだけ! ソウルから出した声なら! ウザかろうが響きゃOK! これがあたしのソウルの声! お前はどうだ? YO! HO!」
 ラブ・リトルのマシンガン・ラップは、辰アッシュのスタイリッシュ・ラップを圧倒しつつあった。
 矢張り、ウザさで勝負の辰アッシュでは、ソウルに響く声は出せなかったようだ。
 それでもラブ・リトルは、何故か辰アッシュが辰アッシュであるというただそれだけの理由で、もうすっかり満足してしまっている。
 ラップ勝負を終え、明らかにラブ・リトルの圧勝に終わった筈なのに、何故か彼女は満足げな笑みを湛えて曰く。
「……やるじゃないの、辰アッシュ。あたしが認めてあげるわ。あんたが本物のアッシュよ!」
 別に辰アッシュも巳アッシュも、そして卯アッシュもそうなのだが、彼らは己が本物のアッシュなどとはひと言たりとも主張していなかった。
 にも関わらず、ラブ・リトルは独断と偏見とラッパーとしてのソウルだけで、辰アッシュを勝手に本物だと認定してしまったのである。
 もしここに、コア・ハーティオンが居れば即座に待ったをかけただろうが、生憎今の彼は、ラインキルドの亜空間の中ですっかり存在感を消されてしまっていた。

 但し、心配は要らない。
 この後、ラブ・リトルとラップバトルを繰り広げた辰アッシュ達は、調子に乗って更にラップバトルを他の一般市民に仕掛けようとしたところで、何気に横断歩道を渡ろうとしていたラインキルドの亜空間に呑みこまれてしまい、ことごとく返り討ちに遭ってしまっていた。


     * * *


 また別の一角。

「むっ、蛸の気配が消えた……彼(ラインキルド)と遭遇したであります!」
「……相変わらず、扱いが酷いわね」
 イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)をラインキルド接近警告用の『坑道のカナリア』として配置していた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、案の定、イングラハムがラインキルドと接触して存在感を100%消されてしまったことで、ラインキルドの接近方角と距離を正確に計測していた。
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が『扱いが酷い』とイングラハムに同情していたのも、無理からぬ話であろう。
 ともあれ、ラインキルドの亜空間を免れる術を用意していた吹雪は、これで心置きなく巳アッシュとの対戦に臨めるというものである。
「非リア充エターナル解放同盟の盟主たるラインキルド殿へは是非とも、ご挨拶に伺いたいところではありますが、今はまだ存在感を消されてしまう訳にはいかないであります」
 今回吹雪は、巳アッシュに対して並々ならぬ決意を秘めて臨んでいる。
「アッシュ如きが『蛇』を名乗るなど、生意気であります!」
「……そういう自分は、蛇関連の称号なんて何も持ってないくせに」
 コルセアの冷静なツッコミは敢えて右か左へスルー。それが吹雪クォリティ。
 さて、吹雪の巳アッシュへの対策はずばり、段ボール箱であった。
 吹雪の心の友である段ボール箱を活用しての、練りに練られた作戦である。
「ふっふふふ。蛇を名乗って特殊部隊を気取るなら、段ボール箱を無視出来る筈はないであります」
 それはそれで、道理であった。
 吹雪はそこら中から掻き集めてきた段ボール箱を、巳アッシュ出現地域のあちこちに配置し、いわばスネークホイホイとして罠を仕掛けていた。
「それにしても、今回はいつもみたいに爆弾は使わないのね。流石に、街中で爆弾は拙いってこと、分かってきたようね」
 コルセアが段ボール箱の配置を終えて待機場所に引き返してきた吹雪に、感心したような笑みを見せた。
 ところが、吹雪は。
「爆破なんかしたら、我が心の友ら(段ボール箱)が、吹き飛んでしまうであります!」
「そっちかい!」
 コルセアは思いっ切り吹雪の頭をぶん殴ったが、吹雪は殴られたことよりも、巳アッシュが蛇を名乗っているウザさにはらわたが煮えくり返っている様子で、憤懣やるかたなしの表情を大通りに向けている。
 それから程無くして、吹雪が配置した段ボール箱に次々と巳アッシュが潜り込んでゆく光景が、双眼鏡越しに展開されていくのを、吹雪は満足げに眺めていた。
「思った通りであります。所詮奴らは蛇気取りの素人。ただウザいだけが取り柄の無能集団であります!」
 吹雪は笑いが止まらないといった様子であったが、しかしただ笑っているだけでは事態は好転しない。
 あらかた巳アッシュが段ボール箱内に潜り込んだことを確認すると、吹雪はコルセアとふたりで通りへと飛び出していき、片っ端から梱包作業へと入る。
 哀れ、巳アッシュ達は自らの習性を利用されて、あっという間に宅急便引き取り荷物へと早変わりしてしまったのだ。
「では早速、やつらを即日配達でイルミンスールに送りつけてやるであります」
 いうが早いか、吹雪は空京のローカル配達便に電話をかけ、集めた段ボール箱(中身は巳アッシュ)の群れを集配担当に引き渡した。
 ちなみに、これら全ての段ボール箱には天地注意もワレモノ注意も記されていない。
 要は、どんなに乱暴に扱っても大丈夫だ、という意志表示であった。
 吹雪とコルセアは、巳アッシュ入りの段ボール箱の群れが集配車によって運ばれていくのを、呑気な顔で眺めていた。
「何だか、随分あっさりと片付いちゃったわね」
「所詮はアッシュであります。手間取る方が、どうかしているのであります」
 しかし吹雪はこの時、ひとつ大きなミスをしていたことに、まだ気づいていなかった。

 イルミンスールに即日配達された巳アッシュ入りの大量の段ボール箱は、着払いで配達された為、片っ端から受け取り拒否を喰らってしまった。
 どこの誰とも知られぬ輩から正体不明の荷物を送りつけられて、わざわざ銭を出してまで受け取るような酔狂な輩は、まず居ないだろう。
 でも心配は要らない。
 巳アッシュの群れはこの時既に、段ボール箱の中でひとり残らず干からびてミイラと化していた。
 ボス猫から遠くへ離れ過ぎると、もうその時点で彼らは生きられなくなってしまっていたのだ。

「さぁ、後はボスを仕留めるばかりであります! しかし、青狸でありますか。富士額の鼠なら、即射殺が許されたのに」
 物凄く権利関係のやばそうな台詞を吐きながら、吹雪は踵を返した。
 特に、ボスたる猫アッシュとの戦いに臨む前に於いては、吹雪はある注意事項を胸に秘めていた。
「青狸が道具を出す前に攻撃してはいけないであります。それは、マナー違反というものであります」
 ところが、吹雪のそんな注意を他のコントラクターに開陳する機会が、遂に持てなかった。


     * * *


 卯アッシュ、辰アッシュ、巳アッシュとの戦いを終えたコントラクター達は、いよいよ決戦の舞台へとコマを進めようとしていた。
 ところが、誰ひとりとしてボス猫アッシュとの戦いに臨めた者は居なかった。
 というのも、このボス猫アッシュに挑もうとした者の中にラインキルドの姿もあり、意気揚々と対ボス猫アッシュ戦に臨もうとした者達が片っ端から存在感を一瞬で掻き消されてしまい、自分がボス猫アッシュと戦ったのかどうかさえも、よく分からないという有様に陥ってしまったのである。




 行殺、完了。