|
|
リアクション
★ ★ ★
「それでは、引き渡しの書類は、以上です。マニュアル等は、まあ、ブラックボックスの部分も多いので、詳細はメインコンピュータのデータベースを参照してください」
グレン・ドミトリーが、必要な書類を源鉄心に渡した。実際、引き渡しは昨日のうちに行われており、これは最終手続きだ。
「一応、初期起動まで、説明します」
そう言うと、ニルス・マイトナーとフレロビ・マイトナーが、源鉄心につきそって翠花へむかった。
「それにしてもねえ」
さすがに、翠花の予想外の塗装に、ちょっとフレロビ・マイトナーが苦笑する。シミュレーションの大会で見てはいたものの、現物を見せられるとさすがに違和感を覚える。
「いや、姉さん、外よりも中の方が……」
一歩、翠花の中に入ったとたん、ニルス・マイトナーが絶句した。
デュランドール・ロンバスの中では、あふれかえるほどのミニいこにゃの群れが、イコン倉庫のほとんどや、甲板やあちこちの部屋の床に土を敷き詰め、りっぱなスイカを栽培している。一日で実がなるはずもないので、わざわざ実のなったスイカの苗を運び込んで、スイカ畑を作ったらしい。長距離航海の艦には、艦内に乗組員用のプラントがあることもあるが、これでは翠花は某アワビ要塞なみのブラントである。
「遅かったじゃない、早く翠花を起動して、わたくしに操縦させてほしいのですわ」
スイカ畑の中で待ち構えていたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、源鉄心を急かした。
「操縦ったって、イコナは本物は操縦できないだろうが」
「わたくしがもらった要塞ですのに……、わたくしの物ですのに……」
「だめだ」
以前の大会は、バーチャルなシミュレーターであったし、小ババ様AIによって誰でも操縦できるようになっていた。だが、本物は話が違う。本当に、仲間をミサイル代わりに発射されたのではたまったものではない。その点は、たっぷりと源鉄心がイコナ・ユア・クックブックに説教したのだが、はたして、どれだけ反省していることやら。
当然、艦長は源鉄心である。
「さすがに、ブリッジは無事だったらしい」
ここまでスイカ畑にされてはたまらなかったと、源鉄心がほっと安堵した。
とはいえ、あちこちにイコナ・ユア・クックブックの手下のミニいこにゃがいて、今にもスイッチ類を触りそうで怖い。
「大丈夫うさ。変な動きをひとつでもしてみるうさ……。大事なスイカがどうなるか、すぐに分かるうさ!」
イコナ・ユア・クックブックを牽制するように、ティー・ティー(てぃー・てぃー)が言った。
いつの間にか、ティー・ティーの手下のミニうさティーたちが、しっかりとミニいこにゃたちにはりついて監視している。
「いやぁ、にぎやかでござるな」
ブリッジにいたスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)が、のほほんとそんなミニミニ軍団の睨み合いを見ながら言った。
「おいおい、いるのなら、事前になんとかしておいてくれてもいいだろうが」
「だが、断る!」
源鉄心の言葉に、スープ・ストーンが即答した。
「別に、拙者がいなくとも、この艦は動くでござろうに」
「まあ、そうですが……」
スープ・ストーンの言葉に、もう早くこの場から立ち去りたいとばかりにニルス・マイトナーが言った。
「とにかく、システムを起動しましょうよ」
そう言うと、フレロビ・マイトナーがメインコンソールに、起動キーを差し込んだ。とたんに、メインエンジンが動きだし、艦内が補助照明から本来の明るさを取り戻した。
「さすがに、新品はいいな」
動きだした翠花に、感慨深く源鉄心が言った。
艦内の状況を、次々にモニターに映し出していく。
「ああああっ!! 何をしているのですわ!!」
そこに映し出された光景に、イコナ・ユア・クックブックが悲鳴をあげた。
ミニうさティーたちが、本来人質、いや、スイカ質であるはずのスイカをしゃりしゃりと食べ始めていたのだ。
「おのれ、大切なスイカ畑を、ミニいこにゃたち、お馬鹿うさぎたちを排除するのですわ!」
「ふふふふ、そうはさせないうさ。大切なスイカがどうなっても……」
「すでに食べてるじゃありませんくわあ」
意味がないと、イコナ・ユア・クックブックが叫んだ。
たちまち、ブリッジをも含めて、ミニいこにゃ対ミニうさティーたちの戦いとなる。
だが、スイカを食べたせいか、若干、ミニうさティーたちの方が優勢であった。
「ええと、それで、実機でのフィールドカタパルトの発生手順はですね……」
「うんうん」
もう、関わっているとろくなことにはならないので、源鉄心とニルス・マイトナーたちは、無視して翠花の操船方法の説明会を開いている。
「こうなったら、サラダ、サラダはいませんの?」
形勢不利と悟ったイコナ・ユア・クックブックが、炎雷龍スパーキングブレードドラゴンのサラダを探した。ところが、当のサラダは、ボーやレガートと共に、バクバクとスイカを食べている最中であった。
「裏切り者〜」
イコナ・ユア・クックブックが、絶句する。
「大勢は決したうさ。これ以上抵抗するなら、こううさ」
そう言うと、ティー・ティーが、いつの間に持ち出していたのか、イコナ・ユア・クックブックの本体である魔道書をガジガジと囓り始めた。
「うーん、ももあひでひゅうひゃあ……もぐゅもぎゅ……」
「はうあっ!」
さすがに、これにはイコナ・ユア・クックブックがあまりのショックで気絶する。それは、いきなり頭から一囓りにされたような感覚だろう。物理的なダメージではなく、精神的なダメージが絶大だ。
「いいかげんにしろ。そろそろ怒るぞ」
さすがに、源鉄心がティー・ティーの頭をコツンとやって魔道書を取りあげた。
『怒るぞー、怒るぞー……、怒るぞ……、怒るぞー……』
源鉄心の言葉の最後の部分が、散弾エコーつきで艦内に放送される。さすがに、戦いって意味にミニ軍団がきゃーっと悲鳴をあげてどこかに逃げて行ってしまった。
「大変ですね」
「まあ、いつものことなんで……」
同情するように言うニルス・マイトナーに、源鉄心が溜め息とともに答えた。