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リアクション
★ ★ ★
「ええと……、それでは、行きますよ」
天御柱学院の闘技場で、富永 佐那(とみなが・さな)が、反対側のゲートから現れた鳴神 裁(なるかみ・さい)らしき物に言った。
確か、お互いに風を使う戦い方を極めた者同士として、それぞれの力量を確かめるためにも手合わせをしようと言ったはずなのだが。
富永佐那の装備は、キエーザ・アヴィオニカ・スーツの上にグラウスアヴァターラ・ベストを纏い、キーウィアヴァターラ・シューズとパラキートアヴァターラ・グラブを装着したものだ。また、周囲には、特殊力場を配置してある。
対する鳴神裁の方はと言えば、なんとも物々しい装備であった。
そもそも、今、富永佐那の前に立っているのは、鳴神裁であって鳴神裁ではない。鳴神裁とアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)がユニオンリングで合体したものだ。では、その過程を見てみよう。
「行くよ、アリス、融身(ユニオン)☆だよ」
「分かったわ、行くわよ、裁!」
互いの名を呼び合うと、鳴神裁とアリス・セカンドカラーがお互いの肩を組んだ。
「ブルー・アイズ・ストリーム!」
「レッド・アイズ・ストリーム!」
高らかに叫ぶと、赤い光を纏った風と、青い光を纏った風が、二人の身体をつつみ込むようにして吹き荒れた。混ざり合い、紫色に輝く光の渦が、二人の姿をその中へと隠していく。一糸纏わぬシルエットとなった二人の影が、一つに重なる。身をかがめたそのシルエットが、少しのけぞるようにしてのびをすると、足がのび、胸がふくらみ、幼く見えた体型が大人びたものへと変化する。
『おいで、金ちゃん、ブラックさん!』
「ゴールドです!」
呼ばれたドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が渦巻く竜巻の中へと吸い込まれていった。その姿が一瞬千々となり、次の瞬間、合体した鳴神セカンドカラーの裸身をつつむアンダースーツとなった。
続いて、黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)が変形しながら飛んできた。ふわりと漆黒の衣に変化すると、鳴神セカンドカラーの身体をつつみ込む。
『融身鳴神セカンドカラー!』
身体の周囲を回っていた器量が弾け飛び、中から鳴神裁とアリス・セカンドカラーの合体した姿が現れた。髪は黒から銀へのグラデーションに変わり、右目は青、左目は赤というオッドアイに変わっている。
『まだだよ。来い、ペガサスポーンG! 超高速モード!』
鳴神セカンドカラーの言葉と共に、ワールドメーカーとしての鳴神裁の集大成とも言えるペガサスポーンGが飛来して、鳴神セカンドカラーに装着された。翼持つ鎧として鳴神セカンドカラーの全身を被う。
『待たせたね、いろいろと準備があったんだよ』
富永佐那の前に出た鳴神セカンドカラーが、ちょっといいわけのように言った。確かに、思いっきりの重装備だ。そのほとんどは、移動速度の強化アイテムとなっている。その結果、もたらされたスピードは尋常ではない。もはや、パラミタの生物の限界を超えていた。それを軽減するために、更に防御アイテムを多数装備しているというてんこ盛り状態だ。
「いったい、一人で何人分のユニットなのよ……」
さすがに、富永佐那がちょっと呆れる。だが、古き懐かしき戦隊物のロボットの最終形態のようなてんこ盛りでも、見てくれはともかく、その能力は侮れない。
「それじゃあ、始めましょうか」
感覚を研ぎ澄まして周囲に風の触覚を広げると、富永佐那が言った。
『じゃあ、行くよ、ごにゃーぽ! って、アリスはそんなこと言わないんだもん。でも、今は一緒だし。とにかくごにゃーぽ!』
なんだか一人突っ込み漫才を行いつつ、鳴神セカンドカラーが突っ込んできた。黒子アヴァターラマーシャルアーツの攻撃モードのために、全身を青白いエネルギーフィールドがつつんでいる。
「速い!」
攻撃に移る一瞬の風の動きと、複数人分の殺気を感じて富永佐那が回避運動をとった。攻撃の瞬間さえ分かれば回避は可能だという作戦であったのだが、あくまでもそれは常識の範囲内でのことだ。あるいは、敵よりも自身の方が行動スピードが速いか、敵を行動予測できて先に行動したときのことだ。敵の攻撃パターンが分かったからといって、自身が敵を凌駕していなければ避けられるはずがない。しょせんは机上の空論である。
「くっ!」
富永佐那が鳴神セカンドカラーの攻撃を避けることができたのは、まったくの幸運であったと言ってもよかった。たまさか避けた方向がよかったのと、鳴神セカンドカラーの攻撃があまりに一直線であったので互いの起こす風が反発し合って軽く弾き飛ばされたからだ。
「一度避けてしまえば……」
周囲に戻ってきた特殊力場を足がかりにすると、富永佐那が空中高く飛びあがった。パラキートアヴァターラ・グラブで高密度に圧縮した空気弾を作りあげると、クルリと一回転してオーバーヘッドキックで鳴神セカンドカラーにむけて蹴り放つ。
闘技場の外壁ぎりぎりでやっと停止した鳴神セカンドカラーにむかって、圧搾空気弾が襲いかかった。もの凄い勢いで元の密度に戻る圧縮弾が、エアーボムとしてその場にあった物を容赦なく吹き飛ばす。
「やったか!?」
海京の人工島の表面に盛られた土を大きく抉った攻撃跡を見て、思わず富永佐那が死亡フラグの台詞を口にする。
だが、聖輪ジャガーナートを駆使した鳴神セカンドカラーは、間一髪で富永佐那の攻撃を避けていた。
「――無茶しないでください」
ドール・ゴールドが、鳴神セカンドカラーに注意した。グラビティコントロールで身体にかかるGを相殺しようとしたが、グラビティコントロールでの加速度はたかがしれている。燃えている家の火事をコップ一杯の水で消そうとしているようなものだ。結局、強靱的肉体とリジェネレーションでかろうじて身体を維持できたというところだ。
『敵の攻撃パターンは読めたよ。今度は外さない』
「――えっと、多分、今度はあの辺に駆けあがって攻撃してきます」
黒子アヴァターラマーシャルアーツが、行動予測をして富永佐那が駆けあがるであろう空中の位置を鳴神セカンドカラーに教えた。
予測通り、富永佐那が再度の攻撃のために空に駆けあがる。それよりも高く、鳴神セカンドカラーが飛びあがった。
「上をとられた!?」
鳴神セカンドカラーの身体が、頂点で一瞬だけ止まる。その瞬間、富永佐那が風術で自分の身体を弾き飛ばした。
高空から真一文字に富永佐那めがけて鳴神セカンドカラーが降下してきた。正確に、富永佐那の移動した地点を見極める。
『逃がさないんだから』
軌道修正して、富永佐那を地面に叩きつけようとする。ところが、あまりに鳴神セカンドカラーのスピードが速すぎた。軌道修正をする前に、富永佐那のそばを通りすぎてしまう。決して富永佐那が避けたわけではない、鳴神セカンドカラーが外したのだ。有り体に言えば、自爆である。
まさに、そのまま地面に激突した鳴神セカンドカラーが、地面に大穴を開けてめり込んだ。
「今だわ!」
そこへ、追い打ちをかけるように、富永佐那が圧縮空気弾を穴にむかって何発も叩き込んだ。
どんどんと激しい音がした後、突然、穴から水が噴き出してきた。
富永佐那や鳴神セカンドカラーたちは忘れていたが、海京があるのはポンツーン型の人工島である。大地があるように見えるが、それは箱形の浮遊ブロックの上に土が持ってあるだけであった。仮に、単一ブロックに浸水しても、人工島が沈むようなことはないが、穴が開けばその先は海である。
「まずい、やり過ぎたかしら……」
富永佐那の予感通り、海中から救助された鳴神セカンドカラーたちとともに、施設破損で天御柱学院から大目玉をくらうことになるのだった。
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