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リアクション
海上都市ポセイドンにて、
源 鉄心(みなもと・てっしん)は現場に遅れて来た。
現場は古い演劇ホールだった。
中央に舞台を置いて扇状に広がる客席に天井の舞台装置が印象的だった。
「悪趣味な舞台装置ですわ」
イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の眼前、舞台の真上に吊り下げられたそれに評価を下した。
鉄柱とコンクリートをグチャグチャにかき混ぜて作られたグロテスクなボール。照明の電線を巻きつけてライトボールの貞操をなしてはいるが、まるでセンスが無い。天井の鉄骨が巻き付いていることでそれがようやく空中に静止している。
「これが特殊戦略兵器の効果なのでしょうか?」
ティー・ティー(てぃー・てぃー)の問に「どうかな」と曖昧に答える鉄心。
ナンセンスなオブジェに目をとられるのを無視して周りを確認する。周りもナンセンスだらけだった。割れたガラス、壁に埋まる客席、足場がむき出しに花開いたステージ、螺旋状に突き抜けた天井。どこまでも馬鹿馬鹿しい光景が周囲を覆っていた。
「あの馬鹿げた鉄の卵を割ったら黄身がでるでしょうか?」
スープ・ストーン(すーぷ・すとーん)を握りグリップからブレードを射出するイコナ。ろくでもないことになりそうなので鉄心が停めた。悪ふざけなので素直に辞める。
「なにか出てきたか?」
先に劇場に着ていた新風 燕馬(にいかぜ・えんま)に鉄心が尋ねる。
「何も出て来なかったことが出てきた……ってところかな」
「というと?」
「ここで被害者が出てないってこと。血痕が全くない。それもそうだ、閉鎖されたホールに人がいるわけがないし」
ザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)が付け加えて、
「だからこそ、軍も痕跡の発見が遅れたみたいだよ。被害者もなしに目撃者もいない。誰もいない劇場でひっそりと使われた戦略兵器。どんなモノだったらこんなことができるかわかんないけど、セキュリティもここじゃ効いてないし」
「まるで、兵器の使用だけが目的でここを選んだみたいですわ。軍の話ですと、使用されているという事実自体が知られるのすら怖いのかも。そうでないにしろ、軍が表立って動けなくなったのはこれが原因ですわ」
リューグナーが「くふくふ」と笑う。
どちらにせよ、場所選びと被害者も目撃者もいない惨状は故意的に兵器を使用した事を物語っている。軍を足止めする間に【ノース】への亡命を図る筋書きか。身を隠すのに立ち寄った場所で兵器が暴走した可能性もあるが、前者の説が有力か。
ティーが周りを見渡し言う。
「そう言えば、他にも来ていたはずですよね?」
「ああ、暗殺者の二人なら脱走者の痕跡を追って何処かに行ってしまった。彼女たちの追跡能力(トレースアビリティー)何か見つけられるかもだけど」
辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)、ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)のことだ。
現場を見回すイコナがぐったりとのこった客席に座ってエッグタルトを食べ始める。お腹が減ったのだろう。いや、面倒くさくなったのだ。
「ここの《サイコメトリー》はやってられないですわ……劇やライブやらの大衆のイメージが多すぎて一番最近の公演がまったく見れませんの!」
最後に行われた公演は兵器の実演会。乗員数は恐らく0――
「どうせだれも見てなかったんですわ」
「……本当にそうか?」
異を唱えるように鉄心が呟く。
この惨状はまるで誰かに見せびらかしていたかのように見える。
追跡を得意とするものにととって、相手が何処を歩いたのかを見分けるのはそう難しいことではない。それは暗殺には必須の能力(アビリティ)であり、背後から標的を狙うための重要な要素(ファクター)だ。
刹那はその劇場において足跡という重要な要素を手に入れていた。
ウサギの足跡。ラビットフット(ヒール)の形状は覚えた。今必要なのは連絡の入った目撃現場に急ぐことだ。
「でも、商業都市までだいぶかかりますよ? それこそ数百キロはあります」
ファンドラが言うが、刹那にとって距離は問題ではない。
「高い交通手段を使えば距離は問題ではないのじゃ。幸いに資金は軍の貸したこのAirPADとかいう機械のおかげで好きに使える。航空を使えば向こうまで2時間とかからないじゃろう」
海上都市にある空港に急ぐ。今は足跡を追う必要はない。追うのは向こうについてからだ。
「それで、向こうについたらやっぱりウサギを追いますか?」
「何を言うておる?」
刹那は否定し告げる。
「わらわが追うのは兵器の足跡に決まっておる」
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