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リアクション
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、思い詰めた険しい表情を浮かべていた。ときおり口元を綻ばせるが、その笑みには陰惨な影が帯びている。
熾天使とドラゴンの噂を聞いたセレンは、初めのうちこそ胸をときめかせたものだった。
しかし、奴隷商人たちが現地で惨死したという情報を聞きつけた途端、淡い恋物語に彩られた彼女の胸は、黒く染まる。
昏い情念……。身を焼きつくすほどの、狂気に満ちた激しい怒りは、彼女の過去に起因していた。
売春組織によって、徹底的に犯され、奪われ、穢された幼い自分。
幼きセレンは、抵抗の術を知らなかった。囚われた彼女の肉を引き裂くようにして、男たちが次々と、体の中へ侵入していった。下腹部に澱む厭らしい劣情を吐き出すために。
押し殺していた記憶が、否応なくフラッシュバックする。セレンの理性はついに途切れ――。
気がついたら、長曽禰率いる探索隊として、アトラスの傷跡に立っていた。
奴隷商人たちが流した血に、その身が導かれたのかもしれない。
(セレンが、セレンでなくなっていく……)
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、変わりゆく恋人を痛ましく思った。
人身売買や、人体実験。それらのキーワードに、セレンは過敏なほど反応している。
そんなセレアナの不安は、的中した。
セレンが、拘束した構成員に向けて、一本のアンプルを突きつけていたのだ。
「これ、なんだかわかる? ……パラミタ住血吸虫よ」
パラミタ住血吸虫。血液を養分とする寄生虫で、最悪の場合は脳に巣食い、宿主を殺す。
「ちょっと、それはしまって」
セレアナが恋人を制した。代わりに、捕まえた構成員の胸ぐらをつかみ、殺意むき出しで尋問する。
「人身売買のルートを吐け!」
めったに声を荒げることのないセレアナだが、今回ばかりは例外だった。
尋問のためではない。恋人の手を、罪から守るためだ。
背後から、人の足音が近づいてくるのがわかった。セレアナの怒声を聞きつけて、仲間の構成員が襲撃に来たようだ。
「貴様ら! 隊長になにをし……」
駆けつけた構成員は、セレンに脳天を撃ちぬかれ、あっけなく絶命した。
割れた頭蓋から脳梁を垂れ流す死体を、セレアナは痛切な思いで見下ろす。
「ねえ、セレン。ここまでしなくたって……」
「こんなやつら、死んで当然なのよ」
「だからって……。こんなやり方はないんじゃない?」
セレアナが、すがるように問いかける。
恋人の反論を受けて、セレンはまたしても陰惨な笑みを浮かべながら、こう応えた。
「そうね――。もっと、苦しめてやればよかったわ」
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