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涙の娘よ、竜哭に眠れ

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涙の娘よ、竜哭に眠れ
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  第3章 竜哭の滝


 愛を告白すれば滝があふれる。
 そんな噂がある崖の前で、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)は今日も元気に暴走していた。
「ビバ・インモラルッ! やばい…………やばいわっ! 少女とドラゴンの恋だなんて! まさに獣(じゅう)か……」
「種族を超えた愛と言ってくださいね」
“ん”まで言わせずに、クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)が遮った。
「ところで、レオーナ様。今日は地球から、ゲストをお呼びしているんですよね」
「うん! 私の女王様だよ!」
「はあ……」
 クレアは、ため息まじりに応えた。パートナーの言う『女王様』が、国家における地位ではなく、SM的な意味であることにすぐ気付ける自分がもどかしい。

「いったい何なのよ。わたくしをこんなところに呼び出して」
 そうぼやきながら、ふたりに近づいてくるのは、綾小路院ヶ崎 麗華であった。

――ここで、彼女を知らない人のために、ちょっと説明させていただこう。
 麗華とは、日本の財閥『綾小路院ヶ崎家』の娘だ。彼女は、別の財閥『西園寺家』の娘、沙耶をライバル視している。
 沙耶は、血を媒体にした占いで、市場の動向を読み、着実に資産を増やしていた。それに嫉妬した麗華が、沙耶を誘拐し、彼女の血を使って占いをしようと企んだのだ。
 しかし麗華は、手違いによって、レオーナの汚れた血を手に入れてしまった。それに気づかないまま占いを施して、保有する株価は大暴落した。
 というエピソードがある。


「こんにちは! あたし、レオーナ!」
「自己紹介はいいわ。それより、用件を教えてちょうだい」
 麗華は、自前の鉄扇をぱたぱたと煽ぎながら言った。
「今日はね。血の縁がある麗華お姉さまに、お願いがあって呼んだの!」
「血の縁?」
 その言葉に、麗華の動きが止まる。怪訝そうな顔でレオーナの顔を見つめていた。
「そういえば貴女。わたくしが沙耶を誘拐したときにもいたわよね。まさか、あの血は……」
「ああ、麗華様! あそこに白いカラスが!」
 クレアが話を逸らすために、テキトーな場所を指さした。
「えっ……。ちょっと、どこなのよ。霧が濃くて、なにも見えないじゃない」

 麗華はだんだん不機嫌になっていた。
「もしかして、わたくしはからかわれているのかしら」
 すっかり拗ねてしまった麗華が、怒って帰ろうとしたとき。
「待って。麗華お姉さま」
 すぅっと、深く息を吸い込んで。
 レオーナが、いま。
 愛を叫んだ。
「私……麗華お姉さまに…………縛られて! 鞭打たれて! ヒールで踏まれたいぃぃぃぃぃ……!」
 それは限りなく欲望に近い、欲望だった。

「きつく縛っていいからね」
 満面の笑みで、レオーナはロープを差し出す。
「……まあ。人が悶える姿を見るのは、嫌いじゃないわ」
 満更でもなさそうに、麗華は差し出されたロープを受け取った。
「じゃあ。いくわよ」

 ここから先は、全年齢PBWでは描写が不可能なので、ふたりのセリフを抜粋するだけに留めさせていただく。


「あん! もっとぉぉ! もっと強くぅぅぅ!」
「オーホッホ! オーホッホッホ!」
「麗華お姉さまぁぁ! 麗華お姉さまぁぁぁぁぁ!!」


――もはや欲望以外の何ものでもないように思えるが、本人が愛と主張するのなら、それもひとつの愛なのだろう。
「ああ……。愛って、なんでしたっけ……」
 クレアは思わず、天を仰いでいた。