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第五章 最終ホール


「最終ホールになりました。グリーンが孤島に浮かんだパー4」
「一打で乗せるのは難しいから刻むのが普通だね。肝心なのは二打目かな」
「ところで、先ほど妨害工作が行われたとの情報がはいってきましたが」
「うーん、今更じゃないかな。寧ろ、人間ゴルフしてる時点でルール無用だよね」
「……この人はっ!」
「い、痛いっ!」
「ボールをしてる人はもっと痛いんですよ!」
 顔を引っ張られるジャンボ。流石の泪も堪忍袋の緒が切れてしまった。
「最後のホールです! みなさん、無事に帰ってきてください!」

―――――

 本気勝負。
 選手たちは全身全霊を傾けた。
 セレアナ組。
「これで最後よ」
「うぅ、足とお尻が痛いわ……」
「後一投、我慢して」
「早くお風呂に入りたいわ……」
「文句を言わないで。後で私が綺麗に洗ってあげるから」
「ホントッ!? セレアナ、早く投げて!」
「……はあぁ」
 終始呆れていたセレアナ。最後をバーディーで締める。
 最初の躓きが無ければ、もっと上位に食い込んでいただろう。
 聡組と耀助組。
「聡さん、こいつをどう思いますか?」
 耀助は聡にりきの必殺技『まっはぱんち』を見せる。
「すごく……無意味だ」
「……ですよねぇ」
「選んだのは両方とも主人公格なはずなんだけどな……」
「オレたち、運が無かったですね……」
 最終ホールをパーで終えた両名はがっくりと肩を落とした。
 広明組。
「ちっ、くまだにとって最悪だったぜ……」
 孤島故に、手前で刻むと崖下に落下してしまい、グリーンに乗せても障害物がなくまた落下。移動のための吊り橋を使おうかと考えたが、OB(アウトオブバウンズ)の位置で、その計画はおじゃんとなってしまった。
 そうして、二度のウォーターハザードを経て、ダブルボギー(+2)でホールアウトしたのだ。
「最後で完全に失敗したぜ……まあ、楽しめたからよしとするか」
 ペトラ組。
「ポチさん、だいじょーぶ?」
「な、何を言っているんですかっ、だ、大丈夫ですっ!」
 鼻息荒くいきがって見せるが、カップの中で蹲っていては強がりだとわかってしまう。
 二投目、ポチは放られた空中で【ディメンジョンサイト】【ポイントシフト】を使い、距離計算、飛距離伸ばし、コントロールと行ったが、体勢が定まらずグリーン上に落下。それは意地と【犬之闘気】で何とか耐え忍ぶことはできた。
 しかし、次のバーディーパットのカップインで競技終了がわかると全身から力が抜けてしまった。もう立って歩くこともままならない。
「無理しちゃだめだよー」
 ペトラが豆柴を胸に抱えると、
「ポチさん、おつかれさまー」
「ぺ、ペトラちゃん……」
「あら、いい雰囲気ね」
「ポチ、よく頑張りました! ね、マスター?」
「ま、よくやったんじゃないか? 俺も溜飲が少し下がったぜ」
「一人と一匹の今後に期待だね」
 観客から思い思いの感想が聞かれた。
 ルカルカ組。
 運が良かった。
 一言で表せばそうなるけれど、ここまでできているのは彼女自身の実力が人を凌駕しているからでもある。
「これが最後だもんね」
 ルカの【投げの極意】【神降ろし】とりゅういちの『旋風脚』で、なんと一投でグリーンへと乗せたのだ。
 その後は難なくイーグルを奪取。
「これでジュースをゲットだね!」
 聡と耀助は更に肩を落とすしかなかった。
 荒神組。
 良くも悪くも勝負に勝ちに来た二人。最後はバーディーで終わらせた。
「アルベール、お前は大丈夫か?」
「はい、【吸精幻夜】をさせていただきましたので」
「俺も今のうちに【肉体の完成】を使っておくか」
 最終ホールまで混戦していた。もしかしたら次があるかもしれない。全快まではいかなくとも、回復できる余剰分は多いに越したことはない。
「あ、【脚力強化シューズ】のスイッチを入れ忘れていたぜ」
 ただ、少し抜けていた。
 美羽組。
「気絶させたのは間違いだったかな」
 スキル三回の制約。
 手持ち最後の【サイコキネシス】を使い、結果はパーセーブ。
 もし、キロスが起きていて、ボールとして協力してくれていたなら、違った結果になっていたかもしれない。
 意識の飛んでいたキロスに使える機会は訪れなかった。
「これでお仕舞かぁ。でもうん、結構楽しめたね!」
「キロスさん……お疲れ様でした。すぐに傷の手当てをしますね」
 それでもキロスが最後までボールでいられたのは、ベアトリーチェの三回の【ヒール】のおかげだろう。

 最終順位は、

1位タイ −4  ルカルカ・ルー
         神崎 荒神
3位   −3  小鳥遊 美羽
4位   −2  完全魔動人形 ペトラ
5位タイ +1  セレアナ・ミアキス
         山葉 聡
         仁科 耀助
8位   +2  長曽禰 広明
棄権       コルセア・レキシントン

 1位が二人。
 優勝はプレーオフへと持ち越された。


 プレーオフは四番ホールを使ったドラコンに決まった。
 ルールは単純。
 より遠くへボールを飛ばした方の勝ちだ。
「どっちが先に投げる?」
 ルカが荒神に尋ねるが、そこへ申し訳なさそうに泪が口を挟んだ。
「大変申し訳ないです。途中に中断があったせいで時間が押してきているから同時に、と主催者側からの意向です」
 頭を下げる泪に、ルカも荒神も文句は言わなかった。
「それじゃとっとと始めるか。アルベール」
「はい、主」
「あ、その前に」
 位置へ着こうとする二人へ、ルカは【仙人の豆】を渡す。
「これは?」
「次の一投で決まるんだし、正々堂々、全力で勝負したいじゃない?」
 いいよね、と主催に尋ねると、OKの返事が返ってきた。
 少しだけ胸が痛んだ荒神。なればこそ、ここでは策略なしの勝負に興じる。
「悪かったな。全力でいかせてもらう」
 何故か過去形だった言葉に首を傾げたルカだが、全力でぶつかり合える事に喜んだ。
「それじゃ行くよ、りゅういち!」
「アルベール、いくぜ!」
『とぉーーーりゃーーー!!!』
 同時に投げられた二人。
 勝敗を決めたのは、【肉体の完成】でいつも以上に回復した体力と、忘れられていた【脚力強化シューズ】だった。
「負けちゃったか」
「まっ俺に任せればざっとこんなもんだぜ」
「おめでとうございます、主」
「おめでとう、ルカも楽しかったよ!」
 二人は硬い握手を交わす。
 優勝者は神崎荒神に決まった。