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リアクション
VS タシガンの不整形外科医
セレスティアーナを襲撃した、リトル・ウーマン率いる不愉快な仲間たち。
食堂に現れた彼らのなかで、いち早く攻撃をしかけてきたのは、タシガンの不整形外科医だ。
「爆発しろ! リア充はひとり残らず爆発しろぉぉぉ!」
ルサンチマンをむき出しにしながら、カップルの頭蓋骨を改造した《リア充爆弾》を投げつけている。
「フハハハ! 我が名は、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)!」
世界征服を企む悪の秘密結社・オリュンポスの大幹部が、爆煙のなか、高笑いで宣戦布告した。
「多国籍企業ZEROだと? 我らオリュンポスを差し置いてパラミタ征服を目論むとは、片腹痛い! そこの不整形外科医よ。まずは貴様から倒してやろう!」
ハデスは【優れた指揮官】【士気高揚】を発動させ、オリュンポスの新たな仲間に指示を出す。
「さあ、怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)よ! お前の力を見せてやるがいい!」
「了解した、ドクターハデス。あの医者をターゲットと認識する」
怪人デスストーカー。
彼はハデスが2ヶ月ほど前に連れてきた、謎の少年だ。その本名は誰も知らない。
……一体、怪人デスストーカーとは何者なのだろうか!?
「我らがオリュンポスを前にして、逃げ出さないだけ評価しよう」
デスストーカーは、冷徹な声で告げた。
彼は改造手術の後遺症でしばらく言葉を失っていたが、やっと喋れるようになったようだ。手術の副作用により、ナチュラルハイな状態がつづいていたが、理性も取り戻したようである。
「この一撃を受けてみろっ!」
デスストーカーは毒針のついた尾――【オリュンポスニードル】で攻撃する。ハデスとの特訓により鍛えぬかれた尻尾が、不整形外科医に振り下ろされた!
――だが。
「ふふふ。どこを狙ってるんだい、サソリ少年」
「なっ、なにっ!?」
あっさりと、不整形外科医に攻撃をかわされている。
不整形外科医ごときに翻弄されるようでは、オリュンポスの一員として、まったくの力不足。これでは噛ませ犬にもなりはしない。
デスストーカーはまだまだ未熟であった。
「そんなバカな!? 僕の攻撃があたら…………ぐはぁぁぁ!」
焦燥しながら尻尾を振り乱す彼を、とつじょ異変が襲った。
ボンッ!
ボンッ!
なんと、彼の身体が爆発したのである。
「ぐわぁぁぁぁ!」
そう。デスストーカーは、かつて不整形外科医によって手術を施されたことがあったのだ!
「ああっ! マイケ……じゃなかった、怪人デスストーカー!?」
彼の戦いをハラハラしながら見守っていたペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が、あわてて駆け寄っていく。
「まさか、整形手術までしていたなんて……」
「……僕はなんだってするよ。ハデス様の理想に……近づける……なら……」
「マイケ……デスストーカーくん!」
くりっとした瞳を潤ませながら、ペルセポネは彼を抱きしめる。
「でも――。その身体が爆発したということは。あなたは今、幸せを感じているのですね」
「……うん。僕は、とても……幸せだよ……」
ゆっくりと瞳を閉じた少年を、ハデスが高笑いで祝福した。
「フハハハ! 素晴らしい覚悟だ、デスストーカーよ! オリュンポスに幸あらんことを!!」
「よぉし! あたしも不整形外科医をやっつけるよっ!」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、戦いの構えをとる。
「あたいらの敵はこいつかぁ……」
パートナーのイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)が、呆れた声でつぶやいた。
彼女に呼応したのか。ミルディアもまた、うんざりしたように告げる。
「そもそも、あたしは整形とか嫌いなんだよね。みんな素のままで味があるんだから、あんまりきにするものじゃないって、そんな感じがするよ」
「というかさ。整形外科っていうのは、美容外科とは別のものじゃなかったっけ? ……ま、こまけぇことはきにすんな! ってことだよね♪」
そう言ってイシュタンは、不整形外科医に向けて身構えた。
「本気でいくからね! 戦う以上、全力で殺らなきゃ失礼でしょ!」
そして、魔力を込めた拳で殴りかかった。
不整形外科が《リア充爆弾》を投げつけたが、イシュタンは避けない。
「多少の傷なんか気にしないもん。思いっきり遊んじゃうよ♪」
攻撃100:防御0
の割合で、イシュタンは不整形外科医を殴りつづける。
ミルディアも、まさに『全速全開!』とばかりに攻撃を畳み掛けていった。
「あんたが傷つけた女の子の痛みは、こんなもんじゃないんだからね!」
「そうだよ。そんなもんでおしまいなんて言わないよね? 気絶なんかさせないんだから♪」
彼女たちは、ボコボコに殴っては【ヒール】。ボコボコに殴っては『薬草茶』。を繰り返していた。これもすべて、不整形外科医が気を失わないようにである。
もともと醜かった不整形外科医の顔は、もはや人とは思えないほどに変形していた。
「……本当に不愉快。どいつもこいつも好き勝手な実験ばかり……。いいわよ、あたしもあんたで好き勝手に実験してあげる」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、陰惨な笑みを浮かべた。
《蠱毒計画》にはじまる一連の事件。それらをきっかけにして、彼女の心には、昏い狂気が目覚めている。
あの日以来、恋人は完全に変わってしまった。セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は裂けるような胸の苦しみを感じていた。
『人身売買』や『人体実験』といったキーワードが絡むたび、セレンの表情は変わる。口元を残虐に歪め、瞳には狂気を宿らせるのだ。
――違う。私が好きなのは、こんなセレンじゃない。陽気で、怠惰で、いい加減。でも……そんな彼女を、愛していたのに。
ミルディアたちは殴るのに飽き、不整形外科医を地面に投げ捨てた。顔はめちゃくちゃに変形していたが、それも自業自得というものだろう。
不整形外科医を見下ろして、セレンはこんなことを口走る。
「ねえ、セレアナ。こいつをいちばん惨たらしく殺す方法が次から次に浮かんできて、楽しくて仕方ないの。あはは」
「……セレン。いい加減にして!」
セレアナは思わず、恋人の頬をぶった。
一瞬、ハッとした表情を浮かべたセレンだったが、またすぐに、陰惨な顔つきに戻ってしまう。もうセレアナの声すら届かないのだろうか。彼女は【シュヴァルツ】【ヴァイス】を抜くと、不整形外科医の手足に銃弾を撃ち込んだ。
立ち上がることができなくなった敵にむけて、セレンは『パラミタ住血吸虫入りアンプル』を突きつける。
宿主を死に至らしめることもある寄生虫。不整形外科医の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「可笑しいわね。子供たちを蟲に改造してきたあんたたちが、寄生虫ごときに怯えるわけ?」
くすくすと笑いながら、寄生虫をアンプルから注射器に移す。
「ひいぃっ!」
思わず、不整形外科医から嗚咽が漏れた。
「あたしはね。そんな鶏のゲップみたいな答えを聞きたいんじゃないの。――言いなさいよ。八紘零やら核爆弾ガールズやら人体実験やら。あんたが知ってることを全部」
「私は……なにも知らないっ! 本当よ! リア充を爆発させられるって聞いたから……仲間になっただけ……」
「そっか。じゃあ、あんたにもう用はないわ」
発狂寸前になる不整形外科医へ、セレンは注射器を近づけていく。
「や……やめてぇぇぇ! パラミタ住血吸虫だけは……許してぇぇぇぇぇ!」
しかし。
注射針は外科医の腕から逸れ、そのまま地面に突き刺さった。
「お願い。もうやめて。セレン……」
セレアナが雷術を放ち、恋人を気絶させたのだ。
注射器を握ったまま昏倒するパートナーを、セレアナは抱き上げる。
「いつものあなたに、戻ってほしい……」
彼女の青い瞳からは涙があふれ、恋人の身体を濡らしていく。まるで恋人の忌まわしい記憶を洗い流そうとするように、セレアナはさめざめと泣き続けた。
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