First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
「どうやら命拾いしたようだな。不整形外科医よ」
青ざめたままの外科医に話しかけたのは、ドクター・ハデスである。
「自らが改造した被験者に嫉妬するとは、科学者の風上にも置けぬ。マッドサイエンティストたるもの、自分の実験体に対しては最後まで責任を取るものであろう! ……だが。その改造技術を失うのは実に惜しい」
彼のパートナーであるペルセポネも、真剣な眼差しで訴える。
「私も昔、手術で病気を治してもらったから分かります。患者を治して幸せにできるお医者様が、どれだけ素晴らしい存在か。貴女も、それだけの腕を持っているのですから、もっと大勢の人を救うためにその技術を活かしてくださいっ! その力が貴方にはあるはずです!」
「うむ。まさにそのとおりだ。――どうだね、不整形外科医よ。せっかくだから、我がオリュンポスに……」
ハデスが言いかけた、その時。
「あれー!? そこにいるの、マイケルじゃないか!?」
背後から、少年の声が聞こえてきた。振り返ってみると、《蠱毒計画》で実験体のひとりだったアリー・アル=アトラシュが立っている。
「やっぱり! 君は、マイケル・ストレンジラブじゃないか!」
「人違いだ」
親しみを込めて駆け寄るアリーに、デスストーカーはそっぽを向きながら応える。
「マイケルなど知らない。――僕は、秘密結社オリュンポスの、怪人デスストーカーだ!」
きっぱりと、彼はそう言い切った。
謎の少年・怪人デスストーカー。彼の正体は、未知のヴェールに包まれている。
不整形外科医との戦いを、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が物陰から見据えていた。
「あの程度でリア充爆弾? ふっ……笑止であります」
肩をすくめながら、吹雪はニヤリと笑った。
彼女の隣には、パートナーのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)、そして《蠱毒計画》の時に救出した少年、墓場 喜多郎がいる。
パラミタヒキガエルに改造されていた喜多郎は、吹雪たちの活躍によって人間の姿に戻ることができた。そこまでは良かったのだが、どのみち元の顔も、ヒキガエルに似ているのだった。
ぎょろりと大きな目を見つめながら、吹雪は彼に告げる。
「喜多郎はきっとこちら側――非リア充の人間になるであります」
と、なにげに酷いことを言う。
ふてくされた喜多郎は頬をふくらませたが、そのせいでますますヒキガエルに似てしまった。
「いいでありますか、喜多郎。非リア充として生き抜くために、瘡蓋のレプリカをたくさん集めるであります」
「どうしてそんなことをするんだ?」
「こいつをたくさん集めて……『汚い爆弾』を作成するであります!」
吹雪は、放射能兵器を作る夢をあきらめていなかった。レプリカとはいえ大量に集めれば、本物に匹敵する威力があるはずだ。
やはり教導団員とは思えない危険な思想を抱きつつ、彼女はテロの喜びを熱く語っていた。
『リア充爆発しろ』とはわりとよく聞く言葉だが、核兵器まで使って爆発を企てるのは、さすがに吹雪くらいのものだろう。
「やれやれ」
コルセアが呆れたようにため息を吐く。
「喜多郎くん。何があっても、あーなってはいけないのよ」
道を踏み外してしまったパートナーの二の舞いにならないよう、彼女は喜多郎に忠告した。
しかし、その喜多郎はというと。
羨望の眼差しで、吹雪を見つめているではないか。
「吹雪ねーさん……。かっこいい……」
「ちょ! 喜多郎くん、気を確かに!」
コルセアの声は、もう喜多郎にはとどいていなかった。彼は熱心な顔つきで、うんうんと頷きながら、吹雪の演説に聞き入っている。
「現実を知れば解るはずであります。リア充はすべからく爆発すべし――。それがこの世界の真理であります!」
「そうだそうだ!」
リア充爆発スベシ。リア充爆発スベシ。
喜多郎は、熱に浮かされたようにその言葉を繰り返していた。
「どうしてこうなるのよ……」
コルセアが呆れ返るなか。
小さなテロリストが、ここに誕生したのである。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last