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天下無双・超決戦!

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三章 パワードスーツの限界に挑む男と女たち


 三船 敬一(みふね・けいいち)白河 淋(しらかわ・りん)コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)は自身が開発したパワードスーツをトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)に着てもらいデータを取ろうとしていた。
「三船大尉、このパワードスーツのコンセプトは……?」
 トマスの質問に敬一が答える。
「ある一点に特化しない。でしょうか。既存のパワードスーツを総ての点を改修することで、より柔軟なパワードスーツを目指し、また、ただ既存部分の進化させるだけではなく、新たな機能を付け加えることで、より多様な運用を可能にしました」
 敬一の説明に淋とコンスタンティヌスが続いた。
「人と同じサイズという点はイコンと相対した際PSにとって大きな利点となるので、現行機と同じサイズSSを維持しています」
「限定的ではあるが、飛行能力も付与している。恒久的な飛行機能の搭載は、安定した飛行の為には軽量化が必要な可能性があり、搭乗者の安全を確保を優先し、飛行能力は超跳躍と連動してブースターとワイヤークローを使っての三次元的な動きに留めている。カタフラクトの後継機……ならば、名はアーコントポウライと言った所か」
 説明を聞きながらトマスは一つ一つの説明に頷いてみせる。
「……なるほど、性能の方は分かりました。それでは、今から性能実験に移ります」
「よろしくお願いします。合戦終了後にデータを集めて今後の改善に努めるつもりです。あと、これを」
 敬一が渡してきたのは何やらごつい見た目をしたシャベルだった。
「これは?」
「今回は専用装備を用いた土木作業の結果に注目し、パワードスーツをを戦闘工兵として扱えるかどうか確認してもらいたいのです。それはメーザーヴァイヴレーションシャベル。
シャベルの刃の部分を高速振動させることで、掘削作業の簡易化を目指して開発された装備です。パワードスーツのテストと合わせて使ってください」
「了解です」
 トマス、テノーリオ、ミカエラはそれぞれMVシャベルを受け取るとそれぞれ、高く跳躍して滑空するように飛行してみせる。それに続くようにトマスの歩兵も後に続いた。
「トマス、それでこれからどうするんだ?」
「今回は工作がメインなんだ。このシャベルを使って塹壕と落とし穴でも掘るさ」
「ふふふ、シャベル捌きにはちょっと自信があってよ? ……何故って、教導団の俸給は高くないんですもの。バイトにだっていくし……建築現場は、時給がいいのよ!!」
 ミカエラに愚痴のような何かを聞かされながら三人は目標地点に到達し、一万の歩兵と共に巨大な塹壕と落とし穴を掘り始める。
「すごいな……地面がまるでプリンみたいだ。ガンガン掘れるぞ」
 テノーリオはMVシャベルを地面に突き立てると、面白いようにシャベルは地面へと突き刺さり、あっさりと掘り返せてしまう。
「シュミレーター内での作業・戦闘であっても、手になじむ武器の方がいいわね。
そういう意味でも、このMVシャベルは……シャベルは……なんてお馴染なのかしら」
 ミカエラは何故か泣きそうになっていた。
「さあ、迅速に作業を終えて敵を誘い込むぞ! ラストスパートだ!」
 トマスは檄を飛ばすと無双モードを発動し一気に穴を掘り進め、やがてクレーターのような巨大落とし穴が完成した。
 穴に板を渡し、布を被せて土を浅く盛りカムフラージュを施す。
「よし、歩兵は待機、俺とテノーリオ、ミカエラは敵を誘い込むぞ!」
 トマスは二人を連れて戦地へと赴くと、
「敵が出たぞ! 殲滅しろ!」
 あっという間に敵の兵士に補足され、数千の兵士が流れを変えてトマス達に向かってくる。トマス達は回れ右して来た道を戻っていくと、兵士達は追撃を開始した。
「よし、飛ぶぞ!」
 トマスの合図で三人は高く跳躍すると、滑空で空を走る。兵士達は目標を見失わないように空を見上げ、足下への注意がおろそかになり──容易く兵士達は穴へと転落していった。
 反応が遅れたせいで、兵士達は次々と穴に飛び込んでいき追いかけてきた兵士達は全員穴へとハマってしまった。
「飛行能力と落とし穴……以外と良い組み合わせかも知れないな」
「この戦果を一度三船大尉に報告しよう。きっと喜んでくれるはずだ。その後はフィアーカー・バルを装備して比較テストをするぞ」
 トマスの言葉にテノーリオとミカエラは頷き、三人は無傷の兵士を連れて敬一の所へと凱旋した。


 ベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)は八脚と六脚のパワードスーツの外殻を作り、ベネティア・ヴィルトコーゲル(べねてぃあ・びるとこーげる)が動力を作った作品がようやくテストの段階にまで至り火天 アンタレス(かてんの・あんたれす)レオパルド・クマ(れおぱるど・くま)がテストパイロットとして魔改造に等しいパワードスーツに袖を通した。
「それで……このパワードスーツはどういう性能なんだ?」
 六脚のパワードスーツを装備したアンタレスが訊ねると、ベスティアとベネティアは揃って胸を張った。
「そんなこと、聞く必要は無いにょ」
「いや、テストパイロットが性能知らないのはおかしかろ」
「私たちの作ったものに失敗はないにょろ〜」
 二人は質問に答えずに自信満々の顔をしていると、二人に代わって伯 慶(はく・けい)が説明に入った。
「アンタレスさんが装備したパワードスーツは『チャスジハエトリ』と呼称される六脚型のパワードスーツです。コンセプトは多脚機動戦車型ですので、装備も1対型の4連装タイプ、20ミリ口径の弾体を電磁力で射出するリニアガンとなっています。タンデム式機晶リアクター・ジェネレーターセット・システムを採用し、直列2基装備によるリアクターとジェネレーターの設計を行い、付加が掛かれば不足EN分を必要な回路で供給しあうシステムで、瞬間的にストークのツインリアクターを凌駕できる……はずです」
「はずってなんだ?」
「あくまで計算上のことですので、実際にツインリアクターを凌駕できるかは分からない。ということです」
「つまり、暴れてデータを取って検証すればええんじゃろ」
「その通りです」
「それじゃあ、わしのパワードスーツの性能はどうなっとるんじゃ?」
 八脚型のパワードスーツを着ているレオパルドが訊ねると、水晶森 デモンズヘッド(すいしょうもりの・でもんずへっど)が代わりに答えた。
「八脚の通称『アシダカ』じゃ。こちらぁ六脚と違い並列2基装備のリアクターで質の高いENの安定供給を目指した安全性第一商品。大型サイズのパワードスーツで従来型と比較して二回り以上も大きゅぅ作られとる。その分キャパシティもあり、デフォルト兵装は二連装リニアキャノンか前肢の顎下に1対4連装20ミリ口径リニアガンを選択できるようになっとるぞ」
「性能が分かったらさっさと行くにょ」
「行ってらっしゃいにょろ〜」
 最後にベスティアとベネティアが締めて、アンタレスとレオパルドは戦場へと赴く。多脚のパワードスーツはそれだけで兵士達の目に止まり、その異形さに恐怖を顔に浮かべていた。
「まあ、当然の反応じゃのぉ……じゃが、悪いが手加減せんぞ!」
 アンタレスはどっしりと六脚を開き、リニアガンを構えると兵士に向けて容赦なくぶっ放した。
 青白い閃光が発射され、兵士達は為す術もなく次々となぎ倒されていく。
「くそ……! なら、こっちから先に仕留めてやる!」
 兵士達はアンタレスの砲撃をかいくぐり、レオパルドに切るかかる。
「甘いぞ!」
 アンタレスは即座に八脚を押し曲げると、その伸縮を利用して高く跳躍し兵士の斬撃を回避する。
「ふむ……色物な見た目をしとるが性能は本物んようじゃ。……ほいじゃぁ、今度は武器の性能を見るとしよう」
 レオパルドがそう言って出したのはアンタレスのそれより一回り小さい二連装リニアキャノンを構えて斬りかかった兵士に発射する。ぎゃっ! と短い悲鳴が聞こえて兵士は電磁砲で黒焦げになってその場に倒れた。
「すごい威力じゃのぉ……。それに、多脚も中々悪ぅない」
「感心するんはまだ早いぞ。新手じゃ」 
アンタレスが顎で指すと、まだまだ津波のように敵兵が向かってきていた。
「これなら、たっぷりとデータが取れそうだ」
「ああ、なら……あんなぁらが泣いて喜ぶまでデータをとり続けるとしようぜ!」
 二人は互いに武器を構え多脚を駆り、敵陣へと突っ込んでいった。


「さあ、黙ってこれを着ろ」
 三船 甲斐(みふね・かい)は嬉しそうに自作したパワードスーツの技術を運用したフライシャッツを取り出し、
「うん、分かった着る着る!」
カル・カルカー(かる・かるかー)が二つ返事でOKを出し、横にいた夏侯 惇(かこう・とん)が目を丸くする。
「なんかしらんが、見るからにあやしい連中のバクチのようなテストに……つきあうのか、カル坊よ」
「うん。細かい事はよくわからないけど…エンジニアとしてプロの人達がやってる事なんだから、きっと大丈夫さ」
「そうとも、きっと大丈夫だ」
 甲斐が何故か希望的観測を述べる。その笑みには人を不安にかき立てる何かがあるように惇は感じていたが、カルがやると言っている以上なにも言えない。
「こやつらの技術を、新しいパワードスーツを、信用していいものかどうか……花に聞いてみるとするか。……信用できる、信用できない、信用できる、信用できない……」
 現実逃避をする惇を横目に鳴神 裁(なるかみ・さい)は武器となった黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)を携え、カルの肩を叩く。彼女も甲斐の技術を流用して改造されたソレンジャイを身にまとっているのだ。
「それじゃあ、行こうか」
「おう!」
 カルと裁が戦場に向かう。すると──二人の足は突然異形と化した。
 それは表面に毛を生やし、獣のようなフォルムとなり地面を蹴った二人はその場から消え、十歩ほど先の地点に出現すると、そのまま人間とは思えぬスピードで駆けていった。
「すごいよこのパワードスーツ! まるで自分の身体じゃないみたい!」
「敵が目の前で感心してる場合じゃないよ!」
 二人はあっと言う間に敵へと接近してしまい、まともに武器さえ構えていなかった。
 カルは足を踏ん張らせて敵の前で止まりながら咄嗟に拳を突き出すと──拳が牙のように変形し、敵に食らいついた。
「おお! すごいねぇ、それじゃあボクもやってみようかな!」
 裁は姿勢を低くしながら速度を落とさず敵兵の間をすり抜けるようにしながら両手の爪を鋭く伸ばし、敵を切り裂き道の後ろに血道が出来る。
「この……!」
 兵士は何とか一太刀浴びせようと裁に向けて刀を振るう。
「よ、っと」
 だが裁の両足は蛙のように変貌すると膝を思い切り曲げて兵士達の頭を飛び越すほどの大ジャンプを見せる。
「ならば、こいつだ!」
 切り損ねた兵士は続いてカルに向けて刀を振り下ろす。
「わわっ!」
 こちらは対応に遅れて両腕を前に出すが、カルの腕はまるで亀の甲羅のような模様を浮かべて白刃を受け止めてしまった。
 それを遠くで見ていた惇が甲斐の胸ぐらを掴んだ。
「カル坊になにしくさった!!」
 甲斐は得意げにパワードスーツの説明をする。
「試作機をベースに生体ユニットに武装細胞と防護細胞とナノマシンを混ぜ、環境適応能力の向上を図った。赤の女王理論からとって『赤の女王細胞』と言ったところだ。そして、最大の特徴は身体を現存・架空の動植物の器官を発現させての力の行使や、硬質化させての殴打や武器化しての斬撃などができるようにした」
 説明し終えると、甲斐は猿渡 剛利(さわたり・たけとし)を見た。
「さあ、次のモルモット。さっさと行くんだ」
「誰がモルモットだー!」
 剛利が叫ぶと甲斐は怪訝そうな顔をする。
「なんだ、そんなに嫌なのか? でも、ちょっとくらいはテストに協力してくれてもいいとは思わないか?」
「全然思わないよ!」
「なんだ、そんなに嫌なのか? でも、ちょっとくらいはテストに協力してくれてもいいとは思わないか?」
「甲斐の手がけた物なんぞいやな予感しか……」
「なんだ、そんなに嫌なのか? でも、ちょっとくらいはテストに協力してくれてもいいとは思わないか?」
「あれ? 無限ループしてる?」
「なんだ、そんなに嫌なのか? でも、ちょっとくらいはテストに協力してくれてもいいとは思わないか?」
「わ、分かったよ! 協力するからやめてくれ! 目が怖い!」
「そうか。そう言うと信じていたよ」
「よくそんなことが言えるな……」
 剛利はしぶしぶとクラッシャーズを装着する。
「まあ……適当にやって負ければいいか」
「何か言ったか?」
「別に? それじゃあ……全力でやるぞー!」
 やけくそ気味にそう言うと剛利は無双モードを発動し、敵に向かって突撃を仕掛ける。その姿を見て、不満そうな顔をしたのは佐倉 薫(さくら・かおる)だった。
「こりゃゴリ! おぬしが大将なのじゃから無茶するでないわ!」
 薫は叫び、無双モードを発動させて剛利を追う。
 遠くでとはいえ甲斐が見ている手前、棒立ちで倒されるわけにもいかず剛利は敵を打ち倒しながらわざとらしく隙を見せる。
「隙有りっ!」
 敵兵は剛利が作った隙に嬉々として刀を振り下ろすが、
「危ない!」
 薫が敵兵の斬撃を受け止め、切り返し敵兵を打ち倒してしまう。
「ゴリ! 油断するでないわ!」
「あ、ああ……悪い」
 剛利は複雑な表情を浮かべる。
「次が来るぞ! 背中はわしに任せておけ!」
「お、おう……」
 剛利は浮かない返事を返し、薫に背中を預けた。
「それで、あたしたちはどうするの?」
 残ったエメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)に訊ねた。
「ちょっと、試したいことがあるの。ユニオンリングは持ってるわね?」
「ええ、これで合体しようってのは分かるけど……それだけ?」
「まさか、ちゃんと考えてあるわ。ドール。こっちに来なさい」
 アリスはドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を呼びつける。ドールはBMI搭載したSサイズの装着型イコンを装備していた。
「なんですか……アリスさん」
「ちょっと、モルモットになってね☆」
 アリスはそう言うと、ユニオンリングを使ってエメラダと合体した。
「さて、この状態であなたを装着すればどれだけの力が出せるかしらね」
 エメラダと合体したアリスはそう言うと、ニッコリと微笑みドールは苦笑いを浮かべる。
「アリスさん、また無茶なことを……まあ、やれと言われたらやりますけど」
 ドールはブツブツ言いながら、魔鎧となりアリスに装備される。一種の重ね着のような状態でアリスは敵陣へと切り込んだ。
「まずはBMIが機能するか確認しないとね」
 アリスは呟きながらエメラダの能力であるサンダークラップとパイロキネシスを発動した。
 稲妻が敵兵を貫き、空気中に発生した炎に飲み込まれるのを見てアリスはご満悦の表情。
「良い感じだわ。超能力戦闘が出来るならとりあえず及第点ね。……さあ、まだまだ敵は沢山いるわ……もっと戦って性能のデータを残さないと」
 独りごちながらアリスはニヤリと笑い、向かってくる敵に向かって再びサンダークラップを仕掛けた。