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腐り落ちる肉の宴

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■ 死者達の宴 【4】 ■



「うわー、ゾンビとスケルトンが一杯で、まるでホラーゲームだね、歳兄ぃ」
 陽気に状況に対して感想を述べる一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)土方 歳三(ひじかた・としぞう)は、
「呑気な事言ってる場合じゃねーだろ、総司」
と、窘めた。
 次から次へ際限を知らないの尋常じゃない増え方は、無限湧きという言葉を思い起こされて現実感の無さに辟易する。
 パラミタのどこにこれだけの量の死者を保管できる施設がどれだけあるだろうか。そしてその施設を保有する機関がどれだけこんなふざけて愚かな騒動を起こそうとするだろうか。
 個人の悪戯と捉えれば規模が大きすぎるし、テロだろうかと考えれば人を攫う意味がわからない。
 大きなものを投げ込んだらしい盛大な水音が聞こえた。人の悲鳴がそこで途切れた。
 見えなくてもゾンビに連れられた人が噴水に投げ込まれたらしいのがわかる。
 噴水付近は本当に死者達が多く近づけないが、極稀に出来る隙間から見えるのは助けを求めて水の中から伸ばされる手だった。
「あの水、警戒するべきだろう」
 水音が聞こえる度に悲鳴が消える。噴水の方から逃げてくる人も居ないし、抵抗している様子も伺えない。
 そもそも発生源は噴水だ。あの水がただの水に見えなくなる。
 冷水や低温に対する耐性をつけるアイスプロテクトが体を包んだのに気づいて総司は歳三を見た。
「今連れられた連中がゾンビになってるとは思わないが、今居る奴らをこれ以上連行されないよう死者共の相手をするぞ!」
 いくつかのスキルを試しつつスケルトンに応戦していた総司は頷いた。
「『生きた人間を集めてできること』ってなんだろう。あまり良い考えは浮かばないけどね」
「わからん。だが、碌でもないことだろうことは容易に想像がつく」
 歳三の面打ちにスケルトンの頭蓋が割れた。
 頭蓋に描かれた呪が物理的に崩れるとスケルトンが再生せれず全ての骨を地面に落として沈黙するのに気づいて、これが弱点かと発見した。
「こんな事件を引き起こした人って誰なんだろう?」
「さぁな」
 歳三の返答は短い。
 犯人探しより先にやらねばならいことがある。
「ちんたらしてられないな。広くて数も多いが、目に見える範囲の奴らは一気に殲滅していくぞ」
「スピード勝負って奴かな、歳兄ぃ」
「ああ。行けるな? 総司」
「もちろん!」
 スケルトンは頭部への渾身の面打ち、ゾンビは周囲の契約者達の様子を伺うとどうやら頭を落とすか足をもげばどうにかなるらしい。そして全体的に炎系には高ダメージが与えられるようだ。対処がわかれば量は致命的と思えるほどの脅威にならない。
 可燃性が低い場所を探しながら歳三は総司に目配せした。
 石畳が敷かれている公園の中心、つまり噴水のある方へと最終的に集め纏めて殲滅させようと二人は囲い込みに二手に別れた。



「エース!」
 呼ばれたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が振り向くとベンチの下から男の子が顔を出した。叫んだことで気づかれたのか子供の足を掴んでベンチの下から引っ張りだそうとしたゾンビをエバーグリーンで成長させた芝生で絡ませ、手出しできないようにさせて引き離し、子供を確保する。見覚えのある右手のリストバンド。孤児院『系譜』の子供だ。
「エース!」
「名前覚えてくれてたの?」
「うん。あれ、クロフォードは?」
 きょろきょろと左右を確かめ、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)に気付き「こんにちは」と小さく会釈した。
「クロフォードも居るのかい?」
「でもはぐれちゃった。こういう時はすぐに来てくれるのに」
 系譜の子供達は迷子になったことがない。有事の際は常に保護者が駆けつけて来てくれた。だから今度もすぐに見つけてくれると信じ隠れていたのに、迎えに来てくれたのは想像とは違った人だった。それでも、助けてくれたのが知っている人でよかったと男の子は笑う。
「君は強いね」
「へへッ」
 恐れず身を隠し事態の成り行きを冷静に見ていた事に対して褒められて子供は得意げである。
「エース」
 悠長に立ち話はできないとのメシエの忠言を受けてエースは頷いた。
「クロフォードを探そう」
 保護者の元に子供を返すのが一番とエースは六枚の翼にふさふさした体毛に包まれた子犬や幼きドラゴンを思わせるような外見の幼き神獣の子を呼び寄せるとその背に男の子を乗せた。エースとメシエも飛び乗り、死者に捕まらないうちにと空を駆ける。
「ねぇ、あの人何やってるの?」
 空に浮いて丁度いいかと集中に入ったメシエに気付き子供が首を傾げた。
「危害を及ぼそうとしている人を探してるんだよ」
 ディテクトエビルで襲撃者を警戒しながら、その範囲を広めて騒動を引き起こした首謀者を探すが少しだけ空に舞っただけでは気配の欠片一つ探し出せない様で、メシエの目を閉じた表情は厳しいままだった。
「危害ってこの化け物?」
「それもあるし、それを喚び出した人も、かな。見つけられるといいんだけど」
 それでも何となくこの死者達と以前相対しているような気がして、心あたりにエースの顔は少しだけ曇った。



 たこ焼きを買ってくれたお客さんを連れて行くゾンビに、噴水が見える頃にやっと追いついた姫星は幻槍モノケロスを手に掴むとその足目掛けて突きを放った。
 地面に縫い止まれと言わんばかりの槍の貫通を受けて、ゾンビがもんどり打って地面に転がった。それに巻き込まれて同じく地面と盛大なキスをしたお客さんを姫星はその腕を掴んでゾンビから引き抜き離す。
「逃げてください」
 恐怖に青い顔をしているお客さんに伝え、武器を回収すると、起き上がろうとするゾンビにトドメと槍を突き立てた。
 沈黙を確認し、ほっと息を吐きだした姫星の肩をぽんと叩く人物が居た。「ひゃわ」と驚いて振り返った星姫は両手を振り上げて絶叫する。
「――って、何だ墓守姫さんか」
 肩を叩いた姿勢のまま頷いた呪われた共同墓場の 死者を統べる墓守姫(のろわれたきょうどうぼちの・ししゃをすべるはかもりひめ)に姫星は「驚かさないでくださいよ」と毎回毎回死者を統べる墓守姫の外見に口から心臓が飛び出さんばかりに驚嘆する自分を落ち着かせるようにぽつりと呟いた。
「あの死者達……随分と弄られたようね」
 姫星の文句を流すというより耳に入らなかったのか、死者を統べる墓守姫は見仰ぐように噴水の方から溢れてくる死者達の群れを眺めた。
「何者か知らないけれど、死者を蔑ろにして……許せないわ!」
 隠しもしない真逆の思想を眼前に披露されて、不愉快も極まり、怒りすら覚える。
 死霊術師らしく死者をコントロールしようともそれは難しいかと判断を下した。こちらからの接触を許す隙間が無いだけでも術者が遊びで行っていないことを如実に語っていて、半端な手出しは逆に致命的な何かになりかねない。ならばいっそ全て潰す覚悟で征かねば。
「力尽くは不本意だけど……供養はしてあげるわ。さぁ――」
 それは、きっと仕方ない事。割り切って、息を吸った死者を統べる墓守姫は、カッと両目を見開いた。
「静まりなさい!!」
 アボミネーションの威圧を放って叫んだ死者を統べる墓守姫に死者達が、ぞわっと反応した。
 死者達の視線を一身に浴びて、死者を統べる墓守姫は地面を蹴る!