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腐り落ちる肉の宴

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■ 死者達の宴 【5】 ■



 死者たるアンデッドが溢れる公園内、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は破名の姿に気づき、高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)と共に駆け寄った。
「クロフォードさん!」
 護衛にと呼び寄せた従者の親衛隊員とダリルに守られている破名はそちらに顔を向けた。
「ねーじゅおねーちゃん!」
 いつぞやの魔法少女にフェオルの顔が輝いた。現在進行形で孤児院の魔法少女ブームは続いている。
 気づいた破名はこれ幸いにと地面に片膝をつけ、ネージュとフェオルの目線が同じになるように高さを揃えた。
「こんにちはフェオルちゃん。泣いちゃったの? だよね。怖いもんね」
「うん。こわかった。でもね、ふぇおるもうなかないんだ」
「そうなの?」
「うん。くろふぉーどがしにそうなかおしてるから!」
 幼子の指摘にネージュは思わずと破名を見た。視線を受けて、破名はなんとも複雑な表情だ。確かにその顔は蒼く、ネージュはダリルを見仰ぐ。周囲を警戒しながら破名の経過に注意していたダリルは、ネージュに大丈夫だと頷きで返した。
 ルカルカが被害者救出に向かった後、ダリルは単刀直入に破名に問うた。
「何か気になる事でもあるのか。それとも体に不調でも?」と。
 返ってきたのは意外にも、「少し驚いている。ただそれだけだ。まさか、こんな事態に衝撃を受けるとは思わなかった、というだけのな。男に心配されるほどの事でもない。なんだ俺はそんなに女みたいだったか?」という、軽口めいたものだった。
 虚勢を張っているのかと逆に勘ぐってしまったが、フェオルが守られている安心感に安定するに比例して破名も、顔色は変わらないが落ち着き始めた事に気づいてダリルはそれ以上突っ込むことを止めた。
 どんな誤魔化しも通用しないと厳しい目で接したものの破名は本当に状況に対して驚き戸惑っていただけだったのかと思う。実際状況が知れるにつれ紫色の目からは動揺の色が消えていた。
 破名の腕からフェオルは身を乗り出した。
「こんにちは! おねえちゃんもまほうしょうじょ?」
「フェオル」
 窘める破名に水穂は失礼ではないですよと首を振って示し、ネージュの横まで歩き進めるとフェロウに目線を合わせた。
「こんにちはですわ。私は高天原水穂といいますの。魔法少女ではないですが巫女ですわ」
「みこ?」
 破名と二人顔を見合わせるフェオルに、水穂は頷く。簡単に巫女の説明をする水穂の話を聞いて破名は自然とネージュを見た。
「うん。でね、力になれないかなって」
「何故? こんなにも頼もしいのに?」
「え?」
「フェオルが笑った。俺ではこうはいかない」
 言外に助かったとの破名の真意を汲み取ったのか、言葉のまま受け取ったのか、ネージュは安堵したように胸を撫で下ろす。
 と、安全地帯に向かって突っ込んでくる気配が在った。
「とりあえず五人連れてきたよ!」
 仲良く手を繋いで駆け込んできた美羽は公園の中の安全地帯への到着を告げる。
「聞けよクロフォード、この女達強かったんだぜ! 化物ばこう、こうッ、こうやってだな!」
 超ミニスカ格闘王の称号が伊達ではない美羽と、それをサポートするベアトリーチェの活躍を再現しようと身振り手振りを交え興奮気味に語る子供の頭に破名は片手を置いた。
「ここに居たんだ」
 再会を静かに見ていた美羽の頭上がサッと陰った。幼き神獣の子の上からエースは地上に居る面々に向かって声を掛ける。
 エースは地面に降り立ち、子供を保護者の元へと連れて行く。途中パートナーを見れば、メシエはダリルと二人情報交換にか会話を始めていた。
「今回の件、何か心当たりはない?」
 破名に聞いてみたが彼は首を横に振った。エースは低く唸る。そして、子供達の人数が足りない事に気づいた。エースの呟きに事情を知っている美羽が答える。
「じゃぁ、助けにいかないと。 ……メシエ」
「あたしも次の子を探してくる!」
 孤児院の子供以外にも被害者はいる。公園のあちらこちらで助けを呼ぶ声が響き渡っている。安全が確保されているからと悠長に見つけられない首謀者について言及している時間は無い。
 救助活動は早ければ早いほど多くの者を救うのだ。
 戦えない者が六人増えて、救助ではなく警護に残ったネージュと水穂はダリルから教えてもらった情報を頼りに自分達が今何ができるかと模索していた。
「うん。普通、死霊を退治するには、火炎によってその身体を焼き払うのが最良といわれているけれど、落ち葉一杯の公園ではへたに死霊を焼くわけにはいかないね」
 可燃性の一番高いだろう落ち葉が見当たらない噴水付近なら可能かもしれないが、守ると決めた場所が少々条件的に不利であった。ここは落ち葉が多いし木々もある。
「浄化の札はどうでしょうか? 神聖な力を呼び出して邪な力を退かせるバニッシュも有効であるといいのですけど」
 どこまで通用するかわからないが、退けることはできるかもしれない。
「そうだね。闇属性だったら効きそうかも。火は最後の防衛手段に取っておくとして、そうすると……」
 アンデットに邪を払う力が使えないか、浄化の札を取り出しながら提案する水穂に、互いの手段の中から組み合わせで何が一番良いのかネージュは問題解決の糸口を探そうと頭をフル回転させた。
「クロフォード」
 ネージュ達の登場にご機嫌になっているフェオルと話をしていた破名は自分を呼ぶ声に振り返った。
 振り返って表情を硬くした破名に夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は追従してくる草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)に視線を流し、自分は踵を返すと追いかけてきた死者達に向かってアンデットは退けと悪霊退散を叫び、スワファル・ラーメ(すわふぁる・らーめ)と共に死者の接近を阻む。
「ひさしいの」
「ああ」
 ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)を伴い羽純は声をかけた。
「騒ぎが近くで起きたと駆けつけてみれば……どうにも良く解らぬが、アンデットが人を攫っておるようじゃな?」
「そう、……みたいだ」
「なんだ歯切れが悪いの?」
「子供達とはぐれてしまって」
「自ら行かぬのか?」
「情けないことに体がうまく動かない」
「そうか? ふむ。 ……術者が近くに居るかと思うたがそんな話も入ってないようじゃな」
 これだけの契約者が居て、それぞれ迅速に事態に対処しているのに、情報が一つも一新されてないのを見てとり羽純はブリジットと顔を見合わせた。
 ブリジットが自分の胸に片手を置いた。
「では、ワタシが術者とおぼしきものが居ないか探してみるとしましょう。現場の対処は三人にお任せしたいのですが」
 この手の手段を用いる様なモノの目的など早々に潰しておくに越したことはない。人数がいるのだから並行して犯人探しをしようとブリジットは提案する。
「ふむ……わかった」
 了解と頷く羽純にブリジットは会釈をするように頭を下げた。
 襲い掛かってくる死者に奮闘する甚五郎達に視線を向けた羽純は、手数をこなした方が能率が良いかと判断を下し、手助けに召喚獣を呼べるか確認する。
「では、妾達は殲滅に従事することにしよう」
 そして、宣言すると甚五郎達の方へと駆けて行った。
「ワタシも失礼します」
 律儀に場を離れる事を伝えたブリジットの姿が隠形の術で大気に解けるように消えた。
 ブリジットは公園の見える位置にある建物を中心に上空から首謀者らしき人物を探したが、中々見つからない。