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彼と彼の事情

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彼と彼の事情

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◆ハロウィン・カーニバル開催!◆

『ほら、挨拶を』
 父親に背中を叩かれて、思わず一歩前に出た。目の前には自分と同じくらいの子どもがいて、緊張している自分よりもさらに緊張した面持ちで立っていた。
 何度も密かに練習した自己紹介を頭で繰り返す。隣にいた友が、震える手を舐めてくれた。
 応えるように手に力を入れて、まっすぐに顔を上げる。

『俺、ジヴォートって言うんだ! お前……じゃなかった。君は?』

 練習とは違う言葉が出てきて、父親にも睨まれて、慌てて言い直す。
(本当なら『僕はジヴォートです。よろしくお願いします』だったのに……あー、嫌われたかな)
 内心びびりつつ、相手の様子を伺う。
 初めて見た自分と同じ年の子どもは、びっくりした様子でこちらを見ていた。だけどすぐ、どこか安堵したような顔になった。
『ぼ、僕はドブーツ・ライキです。え、えっと……』
 がっちがちの声で、彼の父親の影に隠れながら告げたドブーツは、ちらと隣の友を見た。
『そっちの君は、なんていうのかな?』
 友へと真っ直ぐに向けられた目と声。俺や周囲に尋ねるのでない態度に、友は首輪についた名札をドブーツに見えるよう首をそらした。
 嬉しそうな友の姿を見て、思ったんだ。

(こいつとは仲良くなれそうだ)

 そんな――そう。直感は正しくて。
 いつもどこでも一緒だったわけじゃない。むしろ一緒にいない時間の方が多かったけど、俺たちは仲良くなれた。
 あいつが来ると判った日はいつだって楽しみで、あの日も――

『フハハハ! トリック・オア・トリートだ!』
 そんな――そう。高笑いが聞こえて……あれ?

『おいっ! 何ぼけっとしてるんだ。逃げないと怪人アクヤ・クノに全身タイツにさせられるぞ!』
『お、おう?』
 通りすがりの男に声をかけられ、成り行きで逃げる……んん?

『はーはっはっは! 我のたこ焼きを食らうがいい』
『なんてこった! タコヤ・キスキー星人まで出てくるなんて! これは彼らを呼ばなくては、ほら、お前も一緒に』
『た、たこ? 呼ぶって』

『せーのっ! 助けてー! 『活きのよい食材料理人’S(ハンターズ)!』
『呼ばれて飛び出てばばんばん! よおし、やろうどもー、かかれー!』
『おおおっ姐さーん!』


「って、なんのことだよ!

 ジヴォート・ノスキーダ(じぼーと・のすきーだ)が目を開けると、プレジ・クオーレ(ぷれじ・くおーれ)が不思議な顔で(サングラスに覆われているがジヴォートには分かった)彼を見た。
「ジヴォート様? どうかされましたか?」
「あ……いや、なんでもない」
 額を押さえて頭を振る。どうも妙な夢を見たらしい。
「お、起きたかジヴォート。もうすぐアガルタに着くぞ。ほら、看板が見えるぞ……また派手な色になっているなぁ」
 彼の父、イキモ・ノスキーダが子どものようにわくわくした顔で指をさす方角には、たしかに派手な看板が見えた。オレンジと黒のハロウィンカラーともいえる色合いの看板には、まだ見えないが恐らくそれらしい絵柄でも描いてあるのだろう。
 ジヴォートはそれを見ながら、口を動かした。声には出さず、ただ無言で呟く。

「ハロウィン、か」

 そっと閉じたまぶたの奥で、懐かしい姿が見えた。