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リアクション
山中。
「……山が何か騒がしいけど」
コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は妙にあちこち騒がしい事が気になるのか周囲を確認する。
「そんな事より素材採取をするでありますよ!」
騒ぎなんぞ何のその葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は金策のため貴重な素材採取に挑む気満々に先を歩く。
「そうね(嫌な予感がするから一応確認を入れてみよう)」
安心したいコルセアは歩きながら連絡を入れた。
コルセアが状況を確認している間、『トレジャーセンス』を有する吹雪はある素材の群生地を目指し、見事に辿り着いていた。
歓喜の声を上げるかと思いきや
「こ、これはどういう事でありますか!!」
上がったのは驚愕の声。
「やっぱり、騒ぎが起きていたわ……これは」
確認を終えたコルセアは改めて自分が立っている場所の状況を目に映した。
「全て枯れているでありますよ」
コルセアが感想を発するよりも早く吹雪の怒りが滲んだ言葉が出た。
「……そうね。もう素材としては使えそうにないし、この植物ここ限定な上に今日の夜にしか咲かない貴重な物だったわね」
『博識』を有するコルセアは生き残った植物が無い事を確認してから残念な報告をした。
「…………」
黙して報告を聞く吹雪。怒りの炎がばちばちと激しさを増す。騒ぎに巻き込まれた事をこの身で実感したからには黒亜を見逃す事など出来ない。台無しにされたのが限定植物となれば尚更である。
「吹雪?」
「……人の邪魔をした罪は重いであります」
様子を伺うコルセアには見向きもせず激怒中の吹雪は枯れた素材をにらみながら怒り一色の声を洩らした。
「もしかして」
ただならぬ吹雪の様子からコルセアはある一つの事が頭によぎった。
「罪を償わせるでありますよ!」
吹雪はそう言うなりきびすを翻し、素材を台無しにした黒亜に鉄槌を下すために動き始めた。
そんな吹雪の後ろ姿を見て
「……既視感のある展開になりそうな予感」
コルセアは溜息混じりにぽつりとつぶやいた。
そして、予期せず吹雪達は黒亜捜索に忙しくする事になった。
山中。
「山だからかな。普通の夜道よりも何か少し怖いね。羽純くん?」
妖怪達を守るために黒亜捜索に励む遠野 歌菜(とおの・かな)は光精の指輪で夜道を照らしつつ『超感覚』で黒亜の痕跡を探しながら隣に話しかけた。
しかし、聞き慣れた声は返って来ない。おかしいと思った歌菜はすぐさま隣を振り返った。
そして、
「……いない。さっきまで一緒にいたのに……どこかではぐれたのかな? でも道は一本だったはず」
いるはずの月崎 羽純(つきざき・はすみ)がいない事実に首を傾げた。
「羽純くん! 羽純くん!」
歌菜はすぐさま周囲に呼びかけるが当然返事は返って来ない。
「……どうしよう……私一人……」
改めて自分一人だと知った途端、歌菜は心細さで身体が震えだした。
しかし、ずっとそのまま突っ立てると思いきやパンと両頬を叩いて
「だめだめ私は魔法少女アイドル! こんな事で挫ける訳には行かないんだから。羽純くんを見つけて、騒ぎも収めてみせるんだから!」
気合いを入れ直し、表情を引き締めた。
「待っててね、羽純くん!」
歌菜は勢いよく駆けた。大切な羽純を捜し出すために。
一方、羽純。
「……いつの間にかさっきまでいた歌菜がいないな。はぐれるような要因はどこにもないはずだが」
夜道を提灯と光精の指輪で照らしつつ『ホークアイ』で視界を広く被害の痕跡を探していたはずがいつの間にか一人。歌菜と同じくここまでの道を振り返っていた。
「……色々考えるとこれは黒亜の魔法薬の影響とするのが妥当……それならいつまでもここに突っ立てる訳にはいかないな。歌菜を捜さなければ」
自分が置かれた状況を分析していた羽純はすぐに動いた。自分が被害に遭っているという事は一緒にいた歌菜も同じ状況だと容易に推測出来、少し心配だから。
「歌菜、歌菜」
羽純は周囲に呼びかけながら捜し歩いた。
互いの捜索を開始してしばらく後。
「……随分歩いたはずだが、いないな。まだ先か?」
羽純は前方を照らしながら念入りにはぐれた歌菜を捜し続けていた。
「!!」
突然、『殺気看破』を持つ羽純は付近からただならぬ気配を察知し、臨戦体勢を整えつつ顔を向けた。
そこにいたのは、
「妖怪……様子がおかしいな。魔法薬に侵されているのか」
黒亜の実験体となった獣系の妖怪だった。
「……来るか」
被害者である妖怪を傷付けずに対処しようとした時、付近から『ヒュプノスの声』が場を包み、妖怪の耳をくすぐった。
「……もしかして」
羽純は倒れ眠る妖怪を確認した後、歌声が聞こえた方向に顔を向けた。自分を助けたのが誰なのか羽純にはもう分かっている。
その先には
「羽純くん!!」
予想通り歌菜がいた。飛び出して来て羽純に駆け寄るなり再会出来た安堵の余り抱き付いた。
「無事だったんだな」
羽純は歌菜を見下ろしながら安堵に満ちた優しい言葉をかけた。
「うん。羽純くんを捜していたら妖怪を見付けて……その先に羽純くんがいて」
襲撃しようとする妖怪を発見し、止めようと動いた先に羽純がいたのだ。
「そうか。一人でよく頑張ったな」
羽純は笑みを口元に浮かべ、抱き付く歌菜の頭を撫でた。
再会を喜んだ後、二人は再び夫婦揃って仲良く黒亜捜索に戻った。
「……せっかく山に来たから温泉と鍋でほっこりするつもりだったのに」
エリザベートの招集で来たセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は提灯を見つめながら残念そうな声を上げた。
「仕方無いでしょ。このまま放置して妖怪が人間に不信感を持ったり最悪争いごとに発展でもしたら目も当てられないわよ」
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は至極正論をもってセレンフィリティを宥めた。
「まぁね。それに温泉に入る前のちょっとした運動と思えばちょうどいいかも」
気分屋のセレンフィリティはあっという間に声を弾ませ、黒亜捜索に気持ちを入れた。
「はいはい。とりあえず、目撃情報を集めて場所を絞り込みましょ」
相変わらずのいい加減さに呆れながらもセレアナも捜索に向く。
セレンフィリティは妖怪、『秘めたる可能性』を有するセレアナは『人の心、草の心』を用いて植物から情報を聞き出していく。
それにより集まった情報を元に
「……この周辺ね」
セレンフィリティが籠手型HC弐式・Pを使って山の中の地形をトレースしてそこから黒亜がいそうなポイントを絞っていく。
「ここからだと少し遠いわね」
セレアナも覗き込んで確認する。
その後、二人は情報を元に道を進んだ。何事も無く辿り着ける訳もなく手間の掛かる状況に陥る事になった。
ポイントを目指してからしばらく後。
「セレン、行き止まりだけど。道は正しいの?」
セレアナは道の無い前方に顔を向けたまま背後で籠手型HC弐式・Pを確認するセレンフィリティに訊ねた。
「……ん〜、おかしい。HCの表示じゃここは行き止まりじゃなかったはずなんだけど」
セレンフィリティは表示とにらめっこし、弱った声を上げるのだった。つまりは不測の事態。
「本当に?」
気になったセレアナは籠手型HC弐式・Pを覗き見た。
「でしょ?」
「そうね。何か嫌な予感がするわね。とりあえず、引き返して別の道に行くしかないわね」
困った声で同意を求めるセレンフィリティにセレアナはうなずいた。
二人は来た道を引き返し、遠回りになるが別の道を行く事にした。
しかし、再び
「……セレアナ、さっきと同じ状態なんだけど」
「セレン、やっぱり黒亜の……」
先程と同じ状態に陥るのだった。
迷うはずがないのに道に迷うこの状況についてセレアナが最後まで言葉にする前に
「火が消えた! もしかしてこれも?」
セレンフィリティは驚きの声を上げた。風もないのに提灯の火が消えたのだ。
「すぐに火を点けるわ」
セレアナは『パイロキネシス』で火を点けた。
「ありがとう。これでだいじょ……また消えた」
再び赤々と燃える提灯に安心するも束の間、再びセレンフィリティの提灯は消えてしまった。
今度はセレアナの提灯も消えた。
「……私のも消えたわ。これも黒亜によるものかもしれないわね。とりあえず、抜け出す手掛かりを探ってみるわ」
セレアナは消えた提灯片手にあちこちの植物から情報収集をする。
その結果
「やっぱり、ここも実験区域だったわ。道が多少獣道になるけど実験の影響を受けていない道があるみたいよ」
というものだった。影響を受けているのは道で脇の植物は無事だったのだ。
「獣道でも何でもいいから、さっさとここを抜け出すわよ」
大雑把なセレンフィリティは今の状態から抜け出せるならと深くは考えず、植物からの情報を頼りに歩き出した。
「えぇ。ついでに他の人にも知らせておくわね」
セレアナは他の捜索者にも知らせた。そのおかげで捜索者には被害は及ばず、解除係は無事に実験の影響を取り除く事が出来たという。セレンフィリティ達も足場が酷い獣道を通り実験の影響から抜け出す事が出来、捜索を続けた。
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