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リアクション
■ 魔女 神隠し【2】 ■
シェリエ! と、呼び捨てだったりお姉さまとかだったり呼称は別々だったが一斉に叫ばれて、シェリエはハッとした。
振り返るとホールを埋め尽くさんばかりの死者達。
トラップらしいものは触らなかった。侵入を知らせるようなこともしていない。それなのに、音もなく出現させるあたりこちらの侵入に館の主は気づいているらしい。
やはり、何もしないわけでは、ないようである。
気づかれているなら身を潜めている必要性も無いかと、シェリエは杖を振り炎の聖霊を呼びだそうとしたが、強い抵抗を受けて発動出現まで至らない。
「どういう、事?」
何か魔法を阻むものが仕組まれているのか。
「イルミンスールの三姉妹が窮地なら、ここはライバルたる僕らの出番ってわけで」
こちらの三姉妹も同行していたことを忘れては困ると、「話は聞きましたよ!」とこの救出に参加を名乗りでた湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は、遮断されているのは魔法か違う何かかと思案するシェリエの前に立った。
久しぶりに顔を合わせた時に、
「シェリエさん、久しぶりー! ピンチって聞いて助けに来たよ!」と無邪気に挨拶していたエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)は凶司に呼ばれ、「OK!」とユナイトソードを二本とも引き抜き、共鳴し合う片手剣の柄をそれぞれの手で握る。
「姉や妹のことは他人事じゃないし、ここは協力するわよ」と、共感していた次女のディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)はプラウドシールドを持った。冷徹な性格を乗せる眼差しを細め、警戒に緊張昂ぶらせ、指示を待つ。
「また物騒な連中が動いているみたいねん……」と感想を抱いたセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)は「珈琲おいしかったし、カフェが閉店しないように頑張らせてもらおうかしらん?」と陽気に呟くと凶司と二人、アンデッド相手ならと手持ち武装の動作を確認するついでにと、リボルバー銃の銃口を死者に向けた。
容赦なく引かれたトリガーにガン・オブ・フロンティアの銃声が一階に響き渡る。
最前列のゾンビの右肩を吹っ飛ばしたセラフは銃器は問題ないと判断を下し、シェリエに視線を流す。
「それじゃ、ディオニウスとネフィリム姉妹の共同作業といきましょうかぁ?」
真・転経杖を両手に握る、美しき怪盗のメイガスは頷きで返した。
「囲まれるのだけは避けろ。手薄な場所から狙って戦力の分断を図れ」
「了解。っと!」
凶司の指示に先陣を切ったのは小柄な体格ながら二本のユナイトソードを振り回すエクスであった。エクスの一歩目の衝撃を受けて床がギシリと重く鳴った。
ラヴェイジャーの剣技、極まればその光景は当然というものなのだろうか。的確に刺し込まれる刃の切っ先が軌跡を残す度、移動手段を失くしたゾンビ達が重心を崩し次々と倒れていく。
「エクス、もうちょっと周り見なさい!」
エクスのアナイアレーションを運良く逃れることが出来たゾンビに向かってディミーアは走った。
「私も突っ込むわ! セラフ姉さん、シェリ、援護して!」
拳を構え、走るディミーア。嵐の道を作るエクスに追従しディミーアは取りこぼしへの掃討と、死角からの不意打ちに対応すべく妹と足並みを揃える。
「増えてるように感じるわねん」
「減ってないな」
セラフの言葉に凶司は頷く。電子ゴーグルの位置を直し、ふむと唸った。減っていないということは増えているということで。しかし、どこから増えているのか検討が付かない。侵入をバレているとしたらこれが館の主のやり方なのだ。まるで水攻めを受けている感じがして不愉快である。
「皆、足を狙え。動かなくさせるだけでいい。できるだけ体力を温存させろ」
指示を飛ばす凶司にディミーアが答えた。披露するのは裸拳。狙うは敵の無効化。拳で殴り、盾で叩く。セラフの援護射撃に足止めされるゾンビの群れに突っ込み、薙ぎ倒し、少しでも数を減らすのだ。
でなければ、退路は絶たれて、出口の無い地下に追い詰められる。閉所での数の暴力は、侮れない。背後を取られたのは正直痛かった。
「リョージュくんッ」
一瞬にしてホラー映画に迷い込んだような大量の死者に忍は反射的にパートナーを呼ぶ。トレーネの為に怖い思いの一つや二つと唇を噛み締めるが、予想もしていない突発的な状況に対応するのがやっとだった。最古の銃を持つ手がそのトリガーを探す。
シェリエの魔法不発を目撃していたリョージュは「火が使えねえだと?」と訝しみ、ハッと息を吐き捨てた。
「だが、俺の魂の炎までは消せねえぜ!」
そちらがその気なら、こちらも好きにさせてもらおう。
「ゾンビだって心はあるだろう?」
熱きパフォーマ・リョージュ・ムテンは、ゾンビの群れに向かって、その胸に向かって、そのど真ん中を射抜いてやると人差し指を空気を裂く勢いで指し、向けた。
「俺の歌を聴け!」
そしてそのまま酔いしれろ!
全て終わるまで!
そこは遮蔽物が無い広い玄関ホール。
歌声はどこまでも響き、反響を繰り返し、最後は誰の心に訴えるか。
「ゾンビだろうと何だろうと」
拳を握り、舞華は雷霆の拳に昂ぶる力を足先に集中させた。
「汚い手でシェリエお姉さまに触らせないわよ!」
滅殺美脚の脚技で片っ端から蹴り倒しながら、舞華はシェリエの壁として死者達を迎え撃つ!
「減ったか?」
ホールを埋め尽くして数えることはできないが、体感、という意味で感想を求めてきた凶司にセラフは、ええ、と頷きで答える。
「弾切れなら嬉しいんだけどねん。でも、数が多いわぁ」
ガン・オブ・フロンティアからヘビーマシンピストルへと持ち替えるセラフ。
「いや、実際減ったな」
戦況を眺め、自分の発言を同じ言葉で重ねることで凶司は確信を得る。
「でも侵入に気づかれていることには変わり無い……と、すると。時間が無い、だな」
侵入者に対しての排除システムがどういうのかわからない以上、次の手が読めない。モンスターが減ったからといって油断が出来ないのだ。倍の数で来られたら押し負ける可能性もある。
ちらりと流された視線に気づき、セラフはいつもの陽気さで凶司にウィンクする。
凶司は後方でゾンビと相対しているシェリエに顔を向けた。
「ここはコレ言う時ですかね。シェリエさん、ここは任せて先行ってください」
ならば、次が来る前に目的を果たすのが前向きと言えるだろう。
「僕らはここを始末してから追いかけますから。それが出来なかったら帰ってくるまで食い止めます」
先に行けと言われてシェリエは一瞬だけ躊躇いを見せるも、行く者と残る者を瞬時に選び取った凶司に「わかったわ」と了承する。
「貸し一つですね。ちゃんと返しにきてください」
冗談めいた凶司に「そうね」とシェリエは笑い、「任せるわ」と預けた。
防衛線の死守と退路の確保。任せられて、凶司は計算に戦術を弾き出す。
「セラフ!」
「いつでもいいわよぉ」
セラフは周囲に煙幕も張れる便利な化粧品――煙幕ファンデーションを取り出して、左右に振ってみせた。
煙幕の紗幕を利用し、こちらの動きを悟らせないのと撹乱の一石二鳥を狙う。
煙幕と同時に地下へと通じる階段を駆け下りるシェリエ率いる一行は、上モノと違った石造りの百八十度曲線階段を駆け降りていった。
踊り場を五つ数えて契約者達は階段の終わりに到達した。
それほど地下深くという環境ではないらしい。ならこのまま勢いで誘拐された魔女達を救出しようと狭くないまっすぐと伸びた地下通路を走る。
も、その足はすぐに止まった。
先頭を行くシェリエと大鋸の背中越しに見えるのは小さなシルエット。
照明の魔法で明るく照らされる通路の奥で、その小柄な影は待っていた。
待ち受けるように構えていた。
既に、戦闘態勢で、契約者に向かって石床を蹴り、疾走する――!
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