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機工士少女奮闘記

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機工士少女奮闘記

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「――過去、遺跡で発見された技術の傾向からすれば恐らく、軍事に関する施設であった可能性は高いそうだ」
「……頭が痛いですね」
 聞き込みに回っていた世 羅儀(せい・らぎ)の報告を聞いて、叶 白竜(よう・ぱいろん)はため息を吐いた。
 その言葉は面倒な問題に巻き込まれたという苦悩、ではなく、楽しげに調査団の先頭に立つ『代王殿』の姿に向けられた呟きだ。
「立場上はあまり無茶をしないでくださいと諌めるべき、かな?」
「理解していますよ。彼女がああいう人間だからこそシャンバラの契約者たちに支持されるのでしょう。我々にできるのはせめてものフォローに回ること。その意志と安全の調停役、といったところです……君は楽しそうですね?」
「はは、失礼。顔に出てたかい」
 羅儀からしてみれば、じゃじゃ馬な『りこっち』の在り方も、それに苦慮する白竜の姿にも、微笑ましさのようなおかしみを感じるものだった。
「……人間も機械も、他者に制御しきれない部分がある――だからこそ恐ろしくもあり、面白くもあるのですけれど」
 要人を警護する国軍の人間としては立場上あまり口にするべきではない白竜の呟きを、羅儀は口元を歪めつつ聞き流す。
「ただ、爆発や暴走などの危険な事態が起こるのは避けたいですね。教導団としての責任は果たさせてもらいます」
「ま、餅は餅屋だ。安全の確認さえ出来れば、後は街の機工士たちに任せて問題ないと思うぜ」
「『宝』の正体にも依りますが。悪用する者さえ現れなければ、必要以上に干渉するべきでもない、ですか」
 軍人が守るべきものは国であり、つまりそこに生きる人間たちである。
 白竜は何度目かになるため息を吐いて、調査を開始した。


     /


 目的となる巨大隔壁の存在する場所まで到達するのに、大した苦労はいらなかった。
 警備ロボの襲撃を警戒する必要はあったが、遺跡の構造を把握する手間が必要ない分、余計な手間を取らされることがない。
 これには、過去の調査団や機工士たちが集めた内部の情報が大きく寄与していた。
「にっしっし。まあこの程度のシステムなら俺様の頭脳をもってすれば容易いことさね」
 三船 甲斐(みふね・かい)はにやりと笑って情報端末を取り出すと、隔壁のロックに使用されている技術の解析を始める。
 リーナの集めた情報だけでも強引な開錠は可能かもしれない。
 しかし、電子的知識を修めたものとしては、表から裏まで舐めるように解析し尽くしたいところである。
 その姿をじとっとした目で睨みつつ、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)が声をかける。
「……で、俺は何をすれば良いんだ?」
「あー? ゴリ? ゴリは肉壁よろしく。施錠者とのプライドをかけた戦いを邪魔しないよーに」
「結局それかよ……まあ、やるけどさ」
 周囲を見渡せば、あちらこちらから駆動音が聞こえる。
 剛利はぶちぶちと文句を零しつつも、様々な武装、技能を駆使して自分の防御能力を高め、動き出した警備ロボたちの気を引き付ける。
 隔壁を解除させまいと殺到する警備ロボたちだが、鉄壁の防御によって立ちはだかる剛利の立ち回りによってそちらへの対処を優先せざるを得なくなる。
「ばっちこいやー!」
 警備ロボの装備は殺傷よりも制圧を目的としたものであり、致命傷を避ければよいというものではない。
 意識を刈り取られかねない一撃を受け流しつつ、剛利は一機たりとも通さない覚悟でもって挑む。
 回避しきれない一撃は、防護細胞によって体の一部を壁へと変化させることで無力化させた。
 自分の役割は少しでも時間を稼ぐこと。ならば体力の消耗にも気を使わなければならない。
「……ああ、貧乏クジだ」
 愚痴を口にしつつも、その瞳は鋭く周囲を見回している。

「まず必要なのは隔壁に使われている技術の解析、あとはセキュリティの内容も調べるべきですか」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は隔壁全体を探ってから調査すべき内容を口にして再確認する。
 自分に持てる知識と技術を総動員して、使用されている技術、セキュリティを把握することを考えた。
「ま、あたしに出来ることは無さそうだし、あっちの手伝いに入るわね」
 マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)はそう言って警備ロボたちを指し示す。
「ええ、お願いします。集中して作業しなければならないので、できる限り隔壁に近づけさせないでください」
「任せておいて。一機だって通さないわ」
 マリエッタは自身の身を固めつつ、襲い来る警備ロボたちに向けて扱える最大威力で光術を発動する。
 眩い光がロボたちの目、光学センサーを焼き潰し、その索敵能力を大幅に低下させる。
「――せッ!」
 さらに念力をもって動きを封じた上で、至近距離からヘビーマシンガンを叩き込んだ。
 トリガーが弾かれ、銃口が火を噴き、乱舞する銃弾が機体の脆い部分からねじ切る。
 主要な機構を破砕された警備ロボはその機能を停止させた。
「……ここまでして守ろうとするのですから、解除した後にもセキュリティが働く可能性が高いですね」
 戦うマリエッタの姿を背に、ゆかりは隔壁を開ける手段について考える。
 当然として、設置者も強引に突破されることも想定していただろう。
「ならば、セキュリティを無力化しつつ開放する方法を解析するまでです」
 電子的なもの、物理的なトラップも含めて。
 自分自身の目で隔壁の構造を確認し、ゆかりは全体的な機構の調査を務めるのだった。

「…………」
 堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)は黙々と隔壁の解除作業に協力していた。
 自分が機晶技術に関して経験不足であることは自覚している。
 だからこそ、街に住む技術者たちに頭を下げ、彼らの積み上げてきた知識を、刻んできた歴史の力を借りてここにいる。
 機晶技術のマニュアルを片手に、自分に出来ることを。
 同じく作業に従じている甲斐の手際からも、学べる部分は吸収しようと貪欲な姿勢でもって。
「凄いですね……参考になります」
 こちらもまた甲斐の持つ技術には学ぶことが多いのか、リーナが感嘆の声を上げる。
 甲斐が扱っているのはいわばオーバーテクノロジーであり、専門的な知識をもってしてもその全てを理解することは難しい。
 それでも機工士としての血がうずくのだろう。
 精一杯、自分に理解できることを学ぼうとしている姿に、一寿は共感のようなものを覚えた。
 僕も負けてはいられない。
 一寿はあくまで謙虚に、しかし目的意識を強く持って、自己の研鑽に励むのだった。
「おおう、小癪な。こーしてあーして……けけけ、丸裸にしてくれるわ」
 ……まあ。悪い影響は受けないように気を付けつつ。

 ヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)は、一寿の身を守るようにして立ち回る。
 現場にたどり着くまでの道のりでも、一寿の安全を優先して行動した。
 それが今回、我々のやるべきことであるのだから。
「俺の腕の見せ所だな」
 ダニー・ベイリー(だにー・べいりー)はそう口にすると、攻撃こそ最大の防御とばかりに警備ロボの集団に飛び込んで大立ち回りを演じる。
「破壊しつくさなくてもいいんですよ。一寿の仕事に支障が出なければそれでいいのですから」
「あいよ。ブチ壊すのは奴さんが動けなくなったあたりで止めとくぜ」
 話を聞いているのかいないのか。
 あまり前に出過ぎるようなら止める必要があるだろう。
「一寿、仕事する。仕事の邪魔する存在、排除」
 ランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)もまた武器を構え、襲い来る警備ロボに対し積極的に打って出る。
 機晶姫であるランダムにとって、同じく機晶技術によって作られた警備ロボの弱点はなんとなく分かるのだろう、効率的に一機、また一機と撃退していく。
 一寿への強い想いがそうさせるのだろうが……ヴォルフラムはできる限り一寿の傍を離れないように動きつつ、突出しがちな二人を諌めるためフォローに回る。
「――目的は防衛です。前に出過ぎれば不測の事態への対処が遅れかねません。近付いてくる敵に絞って倒しましょう」
 一寿を守る、という意図において、三人の意志は共通している。
 ダニーは不敵な笑みを浮かべ、ランダムは無表情のまま――しかし強く頷いて、防衛線を確立していった。
 絶妙なコンビネーションでもって、三人は警備ロボたちを確実に機能停止させていく。
 一寿たち、隔壁を解除しようと挑む技術者たちに近づこうとする敵対者は少しずつその数を減らしていた。