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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第10章 虚構の嘲り

 太壱らが祭壇を襲撃していた頃、真宵とテスタメントが待機するスイーツショップには、一向に黒フードの者たちが侵入してくる気配はなかった。
「はぁ、暇すぎるわ…」
「こんな時こそ、スイーツを食べるチャンスなのですよ」
 拳を握り目を輝かせるテスタメントに対して、真宵が一瞬で“却下”と言う。
「あら気配が離れていくわ。何で来ないのよ!」
 侵入されることがないなら店を荒らされる心配がないのだが、それはそれで暇だった。
「やや、テスタメントの携帯に電話がっ」
「メールじゃないのね?」
 どこかのエリアも話すほどの時間ができてしまったのか。
 それともすでに、今回の任務が終息してしまったかと肩を落とした。
「真宵、北都さんから連絡が!」
「はいはい、どうせもう片付いたとかでしょ」
「いえ、黒フードの女が入り込んでしまったらしいのです!!」
 それは堂々と姿を見せ、神速スキルでエリドゥへ入ってしまったようだ。
「これって…。テスタメント、黙って」
 突然、大地の宝石が輝きを見せたことに驚き、気配探知に全精神を集中させた。
「魔性だけの気配だわ」
「強制憑依されていないってことですよね?」
「えぇ…」
 アークソウルは鈍い色合いの反応を見せておらず、重なったような気配の動きでもない。
 しかもその反応は1つであり、相手が何者か真宵にもすぐ分かるほどだった。
「ねー、お店閉まってるけど閉店なの?」
 目深にフードを被った女が、馴れ馴れしく声をかけてきた。
 閉じているドアから入ってきたという時点で、物質的な体を持たない者だ。
「祓魔師って客に挨拶もしないわけ?」
「あらぁ〜ごめんなさい、気づいてたけどスルーしてたわ」
 仕方なく返事してやったと、わざとらしく真宵が言う。
「ここで降伏してプリンのある生活か抵抗してプリンの無い生活。好きな方を選ぶといいのです。降伏すればプリンパーティーですよ?」
「いいじゃない、パーティー。楽しそう♪」
「でしたら…!」
「けど、やだ。世界中のプリン集めたいもんっ」
 食べるよりも収集を優先するディアボロスは、降伏なんかしてやらないと言い放つ。
「(やばいわね、町に残ってる人に連絡しなきゃ)」
 気配探知に集中しつつ、手元で携帯のボタンを操作する。
「何さ。客が来たっていうのに、そんなのいじるなんて失礼じゃないか」
 神速で真宵へ詰め寄り、顔を近づける。
「ん〜、健康的な肌の色だね。でもさぁ…もっと色白のほうがモテルかもよ?」
 クスッと笑いかけウィンクしてみせる。
「なっ…大きなお世話よ」
「そうかなぁ?じゃあさ、その手見てごらんよ」
「手がどうしたって…」
 携帯を持っている手を指差され、そこへ目を落とした真宵は言葉を失いそうになった。
「わたくしに何をしたの!」
 エターナルソウルの加速をかけてディアボロスから離れ、キッと相手を睨みつけた。
「えぇー親切でしてあげたのに、ひどいなぁ〜」
「よくもこんな…!!」
 人としての肌の色が、いつの間にやら死人のような青白い色へと変わっている。
「随分と余裕そうですね、テスタメントたちをなめないでくださいっ」
 アウトオブ眼中扱いされていたテスタメントは、哀切の章のページを開きディアボロスを指差す。
「あららいいのかなぁ?大切なパートナまで巻き添えになっちゃうかもよ。ただでさえ今は、回復したらばったり倒れちゃうっていうのに♪」
「なんですって!?」
「落ち着いてください真宵。半分、嘘なのですよ」
 パートナーがアンデット化されたのは本当なのだろうが、魔道具による術に巻き込まれて傷つくということは嘘。
 授業でも散々学んできたテスタメントにとっては初歩的な知識だった。
「ちぇ、騙されないか」
「(どこまで通じるか分かりませんけど、真宵が離れるくらいの隙なら…っ)」
 ディアボロスへ光の嵐を放ったのと同時に、パートナーは時の宝石の力でカウンターへ駆けていく。
「真宵、皆さんに連絡を!」
「分かってるわよ」
 手早くメールをうちこみ、いっせい送信する。
「ぇえー、そんなことしちゃったら皆きちゃうじゃん。遊べないし、プリン買えなくなっちゃう」
「あなたみたいなやつに食べさせるプリンはありませんっ」
「むぅ〜残念。そろそろテスカトリポカのほうに戻ろうかなぁ、おかしなやつが狙ってくるかもだし」
「また赤い髪の子供を狙う気ですかっ」
「ん、それもいいけどさベースのほうだねぇ。…もし狙ったりしてたら、いじめたくなっちゃう♪」
 去り際にそうテスタメントの耳元で囁き、スーツショップから出て行く。
「おや、砂嵐のほうへ帰るってことでしょうか。あ、真宵…大丈夫なのですか?」
「そんなわけ…、あら元に戻ったわ」
「アンデット化は一時の効果みたいですね」
 呪いではなかったらしく、真宵は人間的な肌の色に戻っていた。
「まだ砂嵐に留まっている人がいるはずよ、連絡しなきゃ」
「そうでしたね!」
 テスタメントはディアボロスが砂嵐のほうへ戻ると、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)とグラキエスへメールを送った。



「町と砂嵐の奥、どっちも心配ね」
 全速力で箒を飛ばせば砂嵐の先か町、どちらかへ合流することは可能かもしれない。
 けれどここを手薄にしてしまえば、エアリエルを取り込んだボコールを逃す確立が高くなる。
 しかし、やつらが町へ攻め込み襲撃しているという情報もある。
 失敗のリスクを考えれば、町の人は最悪切り捨てるしか…と考えかけた。
 だが、それでいいのか、と自分に問いかけた。
 結論からして“いいわけがない”と、かぶりを振り不適に笑う。
「今、離れるのは得策じゃないわ」
「ですが、元々どちらにも加勢出来るよう、此処に留まったのでしょう」
「そのつもりだったわ。けど、アタシたちは待機するべきよ」
「何故です」
「エアリエルを取り込んだ術者の全てが無力化されたワケじゃない。砂嵐をもう一度強化されたら、突っ込んでった連中の退路が塞がれるわ。今、ここをフリーにするのは不味い」
 赤のテスカトリポカの保護したことで、中にいる仲間たちは相当疲弊しているに違いない。
 今離れてしまえば、連中の反撃を受けて何をされるか分からないからだ。
「この場所を手薄には出来ない。他所に助けて貰うワケにもいかないでしょ。…皆。自分の考えで、自分のやるべき事を、やるべき場所でちゃんと頑張ってるわ。アタシは、信じる」
 予想しえないグラルダの言葉に、いつも無表情だったシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は表情を崩して目を見開く。
「まさか貴女の口からその様な言葉が飛び出すとは…」
「特に、おかしなことは言ってないけど?」
 押し殺すように笑うシィシャに対し、顔をムスッとさせた。
「シィシャ付いて来い」
 グラルダの命令を耳にしたシィシャは、笑いを止めて無表情に頷く。
「アタシたちが囮になる」
「それは危険では?」
 2人だけで囮行動するのは、的になるのも同然のようだと中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)が言う。
「やるべきことは、ここから退避させるだけじゃない」
「まぁ、そうですが…」
「戦力が無尽蔵じゃ無いのは、こっちもあっちも同じ。分散させれば個々の負担は軽くなるわ」
「分かりましたわ。でも、私もサポートさせてくださいな」
「えぇ、ありがとう」
 グラルダは口元の端を持ち上げて小さく笑みを向ける。
「綾瀬…まさか、中に突っ込むんじゃないわよね?」
 突入されたら装着している自分が真っ先に裂かれてしまう危機感を覚え、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)はおそるおそる声をかけた。
「さぁ、どうしましょうか?」
「こんな時に冗談はやめて、綾瀬!」
「ふふっ、あなたが怯えるようなことはいたしませんわ。クリストファー様、呪い対策のほうはお願いしますね」
「もちろん分かっているよ」
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は不機嫌そうなクローリスの頭を撫でながら言う。
「もうひと頑張りしてもらえると嬉しいな」
「あんた、能力使い過ぎよ。うちが帰還しちゃっても知らないからね」
「心配してくれているのかな?」
「ば、ばかっ。そんなわけないじゃないの!」
 それが本音だったが口にされてしまい、顔を真っ赤にしてぷんぷん怒る。
「いっとくけど、おにーちゃん。仕方なくやってあげるんだからねっ」
 ツンツンした態度を取りつつもクリストファーを願いを聞き入れる。
 可愛らしいステップで踊り、薄いピンク色に輝く粒を散らせ香りを広げていく。
「グラルダ、携帯が鳴っています」
「メールの着信ね、町の担当からだわ」
 緊急のために常時電源を入れていたグラルダは、テスタメンからのメールを読む。
 “エリドゥに姿を見せたディアボロスが、ベースの元へ戻って行きました”という内容だった。
「皆、ディアボロスが砂嵐のほうへ戻ってくると連絡があったわ」
「対峙することになるのか?」
「いえ、ベースがあるところだから、ここまで来るとは思えない」
 外側の担当の自分たちのほうへやってくるのかと言う和輝にかぶりを振る。
「かなり困ったことになりそうだな」
「なぜ?アタシたちが相手するわけじゃないわ」
「実はそのベースを取りに行ってしまったやつらがいる。彼らとディアボロスの対峙は避けられないだろうな」
「アタシたちの最大の目的は赤い髪の子供の保護、町の人の安全だったはず。ここを手薄にしてまでは行けない」
「だろうな。だが、彼らを追ってボコールも出てくるはずだ」
「えぇ、その相手くらいなら…」
 どのみち黒フードの連中を退去させる目的があるのだからと承諾した。
「けど、今はいない相手よりも、いるやつを優先するべき。…シィシャ」
「了解しました」
 こくりと頷いたシィシャは砂の動きを見て祓魔銃を撃つ。
「まずは哀切の章を通す準備ね」
 硬い魔法防御を突破しなければ、緩和されて効き目が悪い。
 グラルダは裁きの章を唱えて酸の雨でひっぺがす。
「アタシを狙ってこい」
「ちょこまかとうぜぇえ」
 トゲを打ちつけてやろうとするが、瞬間的に加速してかわされてしまう。
「(ポイントの支援があれば、裁きの章は的確にうちやすい。次は祓魔のほうを)」
 取り込まれた魔性がボコールの意思に勝つには、器のほうのガードを下げてやればよいかと考え、続け様に離脱させる段階へと入った。
 基本形態である光の波を使い、どこまで届くか試す。
 祓魔の輝きが消え、狙ったはずの相手の嘲り笑う声が聞こえる。
 どうやら哀切の章のほうはまだ、裁きの章を手して使い始めた頃と同じ距離感しかないようだ。
「使い続けている人とは、さすがに差があるか」
 大蜘蛛の背に乗り控えているリオンが易々と仕留めてしまい、使い始めた者と手馴れた者の差を納得するしかなかった。