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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第9章 黒のテスカトリポカ Story1

「タイチのお母さん、祭壇の周り…かなりいるみたいですよ」
 セリシアはアークソウルで気配の数を数えて樹に知らせる。
 簡易の寝起きする程度のテントのようなものの影に隠れ、不可視の者の動向を探る。
「うーむ…、やはりか」
 それなりの覚悟はしていたが、彼女の表情の険しさから想定すると、無闇に突っ込むのは危険のようだ。
「エキノ、香水を作る事はできるか?」
「はいです!皆様にお配りいたします!あね様やおね兄様も、こちらにいらしてください!」
 血の情報で樹の考えも随時読み取れるエキノは、すぐに必要になるはずだと判断して、彼らが策を練っている間に作っていた。
「ありがとう、エキノくん。それと樹ちゃん、多分台座や地形に関しては、僕たちの通常スキルが通用するはずだからね。ガンガンぶっ壊して掻っ攫うという手も使えるはずだよ」
「騒がしいバカ息子が適任だろう」
「(ひでぇなお袋)」
 口答えするなと睨まれ、言葉を飲み込んだ。
「タイチ、苺ドロップ…って勝手にとらないで」
「じゅふをづがえなぐふぁいみがねーふぇ(術を使えなくちゃ意味がねーぜ)!」
「静かにしろバカ共」
「(最悪、タイチのせいでわたしまで…)」
 勝手にドロップを取った太壱だけが悪く、セシリアに罪はなく不満そうな顔をする。
「太壱さんだけ囮では、敵に囲まれた後の救出が困難になります。なので、私とマスターもそのお手伝いをします。グラキエスさんたちは、その間に黒い髪の子供を回収していただくということでよろしいのですよね?」
「一番危険な部分を担当させてしまって悪い…」
「いえ、確立を上げるならそのほうがよいですから」
「だが蒼学の赤髪たちがアレを回収すれば、やつらにすぐ気づかれるはずだ。私と他の者は、その背後を狙うやつらを叩く。それまでは、何があったとしても待機しろ」
 どれだけ囮の仲間を痛めつけらようとも、助けに出てしまえば全て失敗に終わる。
 心苦しくとも怒りをぶつけたくとも耐えろと告げた。
「これは見捨てるわけじゃない。捨て駒という扱いでもないからな」
「いくらなんでも、お袋がそこまでひでぇーことするなんて思ってないって」
「他の者と組む時も同様だ。これから先…静かに動かねばならん時が、いくつもあるだろうからな。いいか…何があっても仲間を信じろ」
「分かってるぜ。だからこそ、1人じゃ戦えないってこともな。よっしゃ、行くぜ!」
「では行って参ります」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は小さく頭を下げ、太壱の後に続く。
「僕の白の衝撃、樹ちゃんにも使えればよかったのにな」
「所持者本人しか使えないよう、カスタマイズされているのだから無理だな。気持ちだけ受け取っておく。私たちはあの物置のところへ隠れていよう」
 囮が出た先には誰かいるだろうと、やつらは探りに来る。
 ならば、速やかに他の物陰へ移動するしかあるまいと考え、体勢を低くし駆ける。
 物置とは名ばかりで、乱雑に物資が置かれた場所だったが、キレイに整頓された上等なものなどあるはずもない。
 樹たちにとっては雑だろうが、身を隠せればなんでもよかった。
「アイデア術だがな、本格的な戦闘になるまでは不要だ。理由は分かるな?」
「その発動時間だけで、さらに敵が寄ってきちゃうってことだよね」
「正解。私たちが砂嵐から出れば、やつらも追ってくるだろうが。まだ外で待機している仲間がいる。自動的にボコールは彼らに任せてしまう方向だな…」
「逃走したり、町を襲ったりしないか監視しているはずだよ」
「ふむ…」
 囮の太壱たちが暴れても、一番厄介な虚構の魔性はまだ姿を見せない。
 セシリアとヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)の様子からして近くにはいないようだ。
 エアリエルは取り込まれているのだから、魔性単体の反応があれば気づきやすい。
「(このままやつが戻らず回収できればよいが…)」
 いない相手ばかり気にしても仕方ないはずなのだが、なぜだか妙な胸騒ぎが止まらなかった。



「フレイ、白の衝撃で引き寄せろ」
「はい、マスター」
 章を使う余力を温存するべく、白の衝撃による雷を落としボコールたちの注意を向ける。
「たいして効いてないなぁー?」
「フンッ、勝手に言ってやがれ」
 小ばかにしたように言う彼らを、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が鼻で笑い飛ばす。
「そんなにモノをぶっ壊したいっていうなら、俺もやってみっかな!」
 黒のテスカトリポカの周りは当然の如くボコールが囲んでいる。
 だったら遠くからぶち壊してやればよいかと、天のいかずちで祭壇を粉々に砕く。
「ああーー!!てめぇ、何しやがるんだっ」
「悔しかったらこっち来いよ」
「ばぁーか、簡単に離れると思ってんのかぁ?」
「ま、そーだろうな」
 戦いは避けられないのも想定内で、袖から取り出した香水を使い、裁きの章を開く。
「(姿を隠しやがったか)」
 位置を教えてもらおうとベルクを見上げる。
 エアリエルを強制憑依させた不可視相手では、通常スキルはまるで効果がない。
 かといって何もしてやらなければ、彼はただの的扱い。
 それでは見捨てているのも同然。
 フレンディスの白の衝撃による術なら、まだ少しの精神力で行使できるかと考える。
「指示する場所に落とせフレイ」
「了解です、マスター」
 ベルクに抱えられながら指示された気配の元へ聖なる雷を落とす。
 太壱はそれに合わせ、酸の雨を降らせ注意を向ける。
「なめんじゃねぇ、このやろうがぁあ」
 突然の襲撃者に怒り狂ったボコールは太壱をホールドしてやる。
「ちぃっクローリスかよ、だったら刻んでやるぜぇえ」
「マジかッ。うぉああぁああーー!!」
 間近からではエアスライサーを避けられず、風の刃の餌食となり血飛沫を散らす。
「タイチ…!」
「行くな小娘。おそらく相手はかなりの至近距離にいただろう。お前がいたところで、同じことだ」
 樹は飛び出そうとするセリシアの腕を掴み、かぶりを振って静止する。
「―…まだだ、こんなところでくたばっていられっかよ!」
 口に溜まった血を吐き捨て、勝ち誇るボコールたちへ眩い閃光を降り注がせる。
「グラキエス様、今のうちです」
 崩れた祭壇へ向うなら今しかないと、エルデネストが小声で告げた。
 小さく頷いたグラキエスは、さらりと撫でて音を立てた。
 音に反応した黒狼が、影からひょっこり顔を出す。
「スカー、祭壇のところにいる黒い髪の子供を口の中で保護するんだ。絶対に食べるなよ」
 黒狼は主人の命令に従い、崩れた祭壇の傍に落ちている幼い子供を目掛けて駆けていく。
 大口を開けて確保すると、太壱たちに気を取られていた連中がいっせいに振り返った。
「あーーー、泥棒っ!!」
 砂嵐の外へ向うグラキエスたちを神速で追いかける。
「きみたちに言われたくないなぁ」
 白魔術の気を纏った章は時の宝石の恩恵を受け、黒フードたちの前に立ちはだかり光の鞭で打ちつける。
「タイチのお父さん、空から来ます!」
 目印変わりに、氷術で出作り出した氷の結晶をぶつけて章に教える。
「なんだろう、灰色の液体が…」
 セシリアが見つけたポイントを見上げると、スライムのように液状のものが足元へボタボタたれてきた。
 それはうねうねと動いていき、章の靴へ到達しようしていた。
「石化の魔法だわ!サボテン使いのダンナ、ぼーっとしないで下がりなさいよ」
 章の襟首を掴んで放り投げるように下がらせ、ペトリファイから遠ざけてやる。
「やーねぇ、気色悪いったらありゃしないわ」
 よじ登ろうとしては消滅していく石化の魔法を、不快そうに見下ろす。
「いやぁ、宝石の耐性っていいね」
「そりゃアンタたちを守るためにも必要だもの。アンタらに倒られたら基本、魔性祓いできないでしょ」
「おい、さっさと撤退するぞ!」
「そろそろいいかな。太壱君、外へ出るよ。全力で走って」
「かなりの怪我なのに無茶言うなよ…」
 回復してる暇も無く、にこやかに呼びかける章に言われ、全身を引きずるように走る。
「気味が悪いほどあっさりしているな」
「あらん、サボテン使いもなの?(アタシたちがやったことって、いつ来てもおかしくないことなのに、いったいどうして…)」
 いくつもの気配が追ってくるものの、最も厄介な相手が現れず拍子抜けしそうになりそれが逆に不気味だった。
 あれから虚構の魔性の目撃情報は誰からも無く、今どこにいるのかさえ分からない。
 ヴェルディーはペンダントを握り締め、アークソウルへ精神力を注ぐのをやめることができなかった。