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リアクション
第二章 エグゼクティブ・ジャイナ
セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は東側のルートから、軍事組織『エグゼクティブ・ジャイナ』の施設に侵入していた。
八紘零が引き起こした一連の事件について、過去の経緯、および新たな情報を見つけるための個人調査だ。
「この侵入口が開いたのも、他の契約者が騒動を起こしているおかげか……」
普段なら完全に閉鎖されている場所なので、敵の気配らしきものはほとんど感じられない。
「さて。鬼の居ぬ間になんとやらじゃ。今のうちにあれやこれやと調べてみるかのぉ」
なにやら老練な口調でつぶやいたのは玉藻 御前(たまも・ごぜん)。彼女のとなりには、摩訶不思議な招き猫生物マネキ・ング(まねき・んぐ)が、勝手知ったるが如くにあたりの機材をいじりまわしていた。
「フフフ……【エグゼクティブ・ジャイナ】か。ここには前々から来ようと思っていたのだよ……。かつて拷問器具のギフト研究をしていたとは聞いているが、我の研究と比べれば足元にも及ばない……。フフフ……」
『ナゾ究明』を使って施設を漁りまわるマネキ。妄言をまき散らすフリーダムなパートナーに、若干の不安を覚えるセリスであったが、情報収集にはいちおう信頼をおいていた。
「まあとりあえず、マネキは放っておくとしてだ。俺たちもなにか探してみるか」
彼ら三人はそれぞれ手分けして、調査の開始にのりだした。
「――地図から消えた島、【拷問島】。はて。昔はそのような名前だったかのぉ」
玉藻は古い記憶をひっぱりだすように、こめかみの辺りをトントンと叩いていたが、やがてあきらめたように首を振った。
「とにかく、過去の経緯がもっと知りたいのぉ」
そうつぶやく彼女のもとに、セレスとマネキが、収集した情報をもってくる。玉藻はすかさず『エセンシャルリーディング』で要点をまとめていった。
「半年ほど前に、エグゼクティブ・ジャイナによって【蠱毒計画】が行われた――。この実験は、蟲に改造した子供たちを地下室へ閉じ込め、最後の一人になるまで殺し合いをさせる――というものじゃった」
「ずいぶんヒドいことするな」
と嘆くセリスに、
「なぁに。しょせん八紘零とやらもアワビ以下の存在よ……」
と、斜め上な発言を返すマネキ。
「さて、この【蠱毒計画】じゃが。真の目的は、生き残った子供を覚醒させて、ニルヴァーナ創世学園にある『ファーストクイーンのクリスタルを強奪』することにあった。けっきょく実験は失敗したので、零は部下に児童施設を襲わせ、その隙にクリスタルの情報だけを盗んだらしいがの」
「どうして八紘零は、クリスタルを欲しがったんだ?」
「それはまだわからんのだよ」
玉藻が肩をすくめてみせた。世界の在り方を知るという彼女であっても、わからないことはあるのだ。
「まあ、なにはともあれじゃ。クイーンのクリスタルを使って、八紘零が良からぬことを企んでいるのはたしかじゃの」
「その良からぬことってのが、【アポカリプスの開闢】か――」
パラミタを征服せんとする零の野望。
アポカリプスの開闢と名づけられた計画とは、いったい何なのだろうか。
「ほう……。クイーンのクリスタルか……。なるほどな」
「マネキ、なにかわかったのか?」
「……クイーンのクリスタルがあれば、アワビの養殖がはかどるのだよ……」
マネキは相変わらず、謎のアワビ押しをつづけていた。
「この施設にも、アワビの養殖におあつらえ向きな研究浴槽がある……。あっぱれ。アワビギフトの量産の暁には、いっそこいつで……フフフ……」
はたして、なにがマネキをそこまでアワビに駆り立てるのか。
八紘零の野望も謎に満ちているが、マネキがアワビにこだわる理由も、大いなる謎であった。
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