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ブラウニー達のサンタクロース業2023

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ブラウニー達のサンタクロース業2023
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リアクション

 早朝、ツァンダの雑貨「いさり火」。

「!!」
 ぱっと目覚めたソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)はむくりと上体を起こした。
 そして、
「ふふふふふ、思いついた、思いついたわ! 何でこの組み合わせが思いつかなかったのかしら!」
 ソランは口元に企みの笑みを浮かべ、歓喜に満ちた声を上げるのだった。起きて早々ブラウニーからの素晴らしい贈り物を受け取ったのだ。
「善は急げ、早速実験よ!」
 ソランは立ち上がるなり朝食を摂らずに地下の調合室に直行した。何度も頭の中で調合を繰り返しながら。
 そして、到着するなり、すぐさま頭の中の情報を形にするべく実験を始めた。
「効果は5時間で……ネズミでの実験も成功! これならいける、いけるぞぉぉぉぉ!!」
 調合室の扉の奥からは実験しながら上げるソランの荒れ狂う喜びの声が漏れまくっていた。

 朝。

「……どこに行ったんだ」
 起床したハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)はソランを起こそうと部屋に来たのだが、もぬけの殻で肩をすくめた。
「どこかに出掛けたのか」
 ハイコドは部屋の次に玄関を確認しに行き、
「靴はあるな……という事は家にはいるはずだが」
 靴を見て外出の線を消去し、ひたすら家中を捜し回った。
 そして、とうとう
「ぐへへへへへ、ついに完成よ」
 地下の調合室で何やら薬を完成させ怪しい笑い洩らす妻の背中を見つけた。
「あの怖い笑いに……完成させたって……もしかして……ソラ?」
 ハイコドは見当が付いていた。ソランが熱心に作るとしたら性転換薬か女体化薬しか無いと。
「……ふふふふ、レシピもメモった。あとは……飲んで効果をこの目で確かめるだけ」
 夫の声など耳に入っていないソランはレシピをメモった紙を確認後、液体の入ったグラスを片手に持つ。
「俺は……」
 嫌な予感にこの場から避難のため後退しようとするも
「ハコ、とうとう改良出来たわよ。外見だけじゃない、一瞬だけでもない完璧完全な性転換薬」
 くるりと振り向いたソランの顔には企みに満ちた爽やかな笑顔が輝いていた。ゆっくりとハイコドとの距離を詰めていく。
「ちょっ、寄るな、俺は飲まないぞ?」
 ソランから目を離さず、後退する。
「大丈夫よ、ハコ」
「いやいや、何が大丈夫なんだよ!!」
 ソランのにこやかさにハイコドは最上級の警戒。
「さぁ、ハコ……」
 ソランは『麒麟走りの術』で素速く移動したかと思ったら
「のみなさぁぁぁい!」
 ハイコドに近付き薬をぶち込もうとする。
「いやだぁぁぁぁぁ」
 ハイコドは必死に抵抗するが、野望に燃えるソランは強かった。
「!!」
 ハイコドは見事に飲まさせられた。
 そして、薬の効果で現れたのは
「成功して女の子になってるよボクー、性転換する時の全身が焼けるような独特の痛みも無いけどちゃんと戻れるよね?」
 左右の目の色が違う愛らしい狼な女の子。見ているだけで顔がゆるみ切り溶けてしまいそうなほどの威力。
「ハコぉ、もぅ、かわい過ぎぃ〜これだからハコの性転換はやめられないわー」
 やらかした本人は溢れる満足で表情を最高にゆるませていた。
「……ソラ、これ」
 ハイコドは再度戻れるか訊ねようと言葉を紡ごうすると
「大丈夫、大丈夫、今日中には戻るから」
 ソランは呑気な調子で答えた。もはや見えているのは狼な少女だけでそれ以外は遠く旅立っている。
「今日中に……って今日はシンク達の初めてのクリスマスなんだよ。なのに残る写真でボクが女の子なのはおかしいよー」
 堪らないハイコドは腹を立てて怒る。何せ我が子の初めてのクリスマスに父親が狼な少女とは子供が成長した時に写真を囲んで思い出話にするには悲しい。
「あぁあ、その怒った顔もかわいいぃ〜、もぅ、ハコったら〜」
 いくらハイコドが怒ってもソランには何の効果も無かった。逆に愛らしい怒り顔にご馳走様である。
「……ソラ」
 どうにもならない状況にハイコドは諦め、そのままクリスマスの準備をする事にした。
 ソランも地下から出て朝食を摂ったり子供達の世話をしたりと動き回った。

 朝のゴタゴタが落ち着いた頃
「クリスマスくらいは勉強はしなくていいか」
「夜までにクリスマスパーティーを整えないとね」
 何も知らぬ藍華 信(あいか・しん)ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)が起きて来た。
「あ、おはよう。お手伝いお願いするよー」
 触手で生成した腕を使って高い所の飾り付けをしながらハイコドは二人に手伝いを頼もうと声をかけた。
「!!」
 ハイコドの姿に信とニーナは勢いよく子供の世話をするソランの方に振り向いた。
「信にニーナ、おはよう。朝、凄い事があってね。組み合わせが突然閃いて薬の改良が出来たのよ!」
 ソランはこの上なく爽やかな笑顔で二人を迎えた。
「……(とうとう悪魔の薬を完成させたか……頭がいたい。改良が出来たと言う事は、生産が安定してしまったのか……とりあえず、こっちに火種が来ない事を願うしかないな)」
「……(ついにやりやがったわね)」
 信とニーナは渋い思いを抱きつつソランを見た。
「まさにクリスマスの奇跡よねー」
 ソランはケラケラと笑いながらハイコドの姿をじっと目で追いかけては眼福とばかりにニヤニヤと笑いをこぼしている。
「……はぁ(クリスマスの奇跡ってもーちょいマシな奇跡はなかったのかよ。双子ちゃんが成長するとか未来の悪いことを察知するとか。期末テストの答えが頭に閃くとか)」
 信は疲れたように溜息を吐いた。楽しいクリスマスが出だしからこうも疲れるとは思いもしていなかった。
「……ハコくん、大丈夫かしら」
 ニーナはハイコドが心配になり身体の具合とクリスマスの手伝いのために声をかけに行った。
「ハコくん、大丈夫? こんなに……かわいくなって」
 ニーナは気遣いげに可愛くなったハイコドに訊ねた。
「なんとか大丈夫だよー。今日中には戻るってソラが言ってたから」
 ハイコドは皿を並べながら空元気な笑みで答えた。その笑顔が健気でたまらない。
「そう……でもこんなに小さいし、髪は綺麗だし、尻尾はもふもふで」
 心打たれたニーナは思わずハイコドの髪や尻尾などに手を伸ばした。ハイコドの身長はニーナの言葉通り小さくなり150cmだった。それがますます可愛さを演出する。
「わうー、ニーナもやめてよぉ」
 ニーナに遊ばれたハイコドは少し手を止め、困り顔になった。
「……あぁ、ごめん」
 ニーナは謝ると同時に頭を撫で撫で。困り顔も可愛くてこっちが逆に困ってしまう。
「……ニーナ」
 頭を撫でられるハイコドは微妙な顔。
「ごめん……つい。でも義手は男の時のままでゴツイのね」
 ニーナははっとし急いで手を引っ込め、見覚えのある義手を話題にした。
「分からないけどそのまま。ニーナはソラと交代してシンクとコハクの世話をお願い」
 ハイコドは小首を傾げて答えた後、ニーナに子供を任せ仕事を続けた。
「分かったわ(ソラがはまるのも分かるわ。かわいくて柔らかくてこれは夢中になっちゃうもの。それにしてもハコくん、かわいい)」
 目の端に忙しく動き回るハコを捉えつつ、ニーナはソランと交代しに行った。自分も少し夢中になった事で内心ソランがはまる気持ちに納得していた。

 ソランと交代して子供達の世話を担当するニーナ。
「……ねぇ、双子ちゃん達、うさぎくんと遊んでいるけど大丈夫? ほら、噛まれたり……じゃなくて噛んじゃったりしないかしら? シンクが」
 兎部屋から出て来てしまったわたげうさぎと戯れる双子を心配する。特に獣人の男の子シンクを。
「兎を部屋に戻した方がいいねー」
 ハイコドは料理を作製しながら言った。
「分かったわ」
 そう言うなりニーナは子供達から兎を戻そうとするが、少しでも引き離すと子供達は泣いてしまう。
「……困ったわね」
 兎を子供達に戻し涙を止めたニーナは溜息を吐きながら作戦を考える。
 そして、
「ウサギのぬいぐるみはどうかしら」
 ぬいぐるみを使う事を思いつくなりすぐさま実行に移した。子供達は側に置かれたぬいぐるみ相手に遊び始めニーナの仕事はスムーズに進んだ。

「……信、受験勉強は大丈夫なの?」
 子供の世話を姉に任せたソランが高校受験真っ最中の信に訊ねた。
「あぁ、クリスマスくらい休んでもいいかと……受験には息抜きも必要だからな」
 信は飾り付けをしながら答えた。
「ふーん、せっかくだから信もどう? 気分転換になるかもよ」
 ソランは悪戯な笑みを浮かべつつ何気なく口にした。いつでも薬を作れるという余裕が奥に見え隠れ。
「いや、絶対に飲まないからな!!」
 火種が飛んで来る前に信は一目散に逃げた。
「あーあ」
 ソランは信の後ろ姿を見つつ少しつまらなさそうな声を上げた。それからソランは地下の調合室の片付けが終わっていない事を思い出し、そっちに行く事にした。

「おーい、次は何すればいい?」
 ソランから無事に逃亡を成功させた信は忙しそうなハイコドに仕事を貰いに行った。そこでニーナと交代して子供達の世話をする事になった。
 賑やかなせいか時間は朝から昼へと進む。当然途中、食事や休憩も挟みつつ。

 昼。

「コハクー、シンクー、お父さんだよ? 分かる?」
 娘と息子の世話をするハイコド。気になるのはこんな姿である自分を父だと認識してくれるかどうか。
「♪♪」
 可愛い双子の我が子は無邪気に笑うばかり。
「……分かって……るのかなぁ?」
 ハイコドは子供達の笑い顔に首を傾げる。笑顔は父と分かってなのか狼な女の子だと思ってなのか判断出来なかったからだ。泣かれるよりはいいかもしれないが。
「笑ってるからいいかな……ほら、クリスマスツリーだよーおおきいでしょ?」
 ハイコドは父親の認識云々を諦め、子供達を一人ずつ抱き上げ、クリスマスツリーを触らせる。飾りに興味をそそられたのか小さな手で触ったりしていた。

 そうこうしている内に時間は夕方となり、
「片付け終わったから手伝うよ」
 ソランが手伝いに来た。
 そのおかげかクリスマスパーティーの準備は更に進んだ。
 そして無事に完了し
「よーし、準備出来たねー! 後は夜になるのを待つだけ!」
 ハイコドは部屋を見渡し、抜かりがない事を確認した。
 その時、来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
「……誰か来たみたいだね。母さん達かな……はーい今行きまーす!」
 ハイコドは急いで来客を迎えに行った。

 今年のクリスマスは様々な意味で特別なクリスマスになった。