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煌めきの災禍(後編)

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煌めきの災禍(後編)

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【1章】緊急招集


――封印の洞窟最深部。
 冷気の渦巻く真っ暗な部屋の中で、武器と武器がぶつかり合う音、そして喧騒が響いている。
 その混乱の中を、車椅子を押したソーン・レナンディが逃げるように駆けて行った。
 部屋に残された契約者たちの中ですぐさまその異変に気付いたのは、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を身に纏った中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)だった。
 綾瀬は携帯電話を取り出すと、迷うことなく連絡先を選び出す。相手が通話口に出たのは、3コール後のことであった。


 一方フラワーリングでは、いつもと変わらぬ日常の風景が広がっていた。違うことといえば、族長のハーヴィ・マーニと教師のソーンが共に集落を留守にしていること位だ。
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は自分たちが建てた宿泊施設の名前を決めるため、妖精たちから話を聞いているところだった。集落の名が晴れて「フラワーリング」に決定したので、周辺で最もよく見られる花の名前を宿に付けようと考えたのだ。
「一番咲いてるお花? うーん……今の時期は水仙とかプリムラとかスノードロップとか……学校の周りには小さくて可愛いお花がいっぱい咲いてるよ」
「元々自生してるのはスミレやクローバー、タンポポなんかが多いかなぁ。集落内には薔薇やミモザも植えてあるから、時期が来たらそれを見ながら皆でお茶するのが好きなんだー」
 暑い所の植物でなければ、割と何でもありらしい。
「うーむ、決めかねるであります……とりあえず名前は後で考えるとして、先に建築再開といくでありますか」
 次に造るのは浴場だ。本当なら温泉でも掘りあてたいところではあるのだが、人手も限られていることだし、今回は近くの水源から水を引いて来ることにする。
「あ、私も行くわよ」
 一人で水源地に向かおうとする吹雪に、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が声を掛けた。吹雪のことだから、水のついでに何か変なものまで引っ張って来かねない。今回こそ余計なものを作らせないために、コルセアはパートナーの行動をしっかり監視するつもりである。
 しかし幸いにも作業は順調に進み、コルセアの心配は杞憂に終わるかと思われた。
「やはり風呂上りに腰に手を当ててコーヒー牛乳は欠かせないであります。あとマッサージ機も置かねば……様式美は大事であります」
「コーヒー牛乳だのマッサージ機だの、なぜあそこまで余計なことにこだわるのかしら……ん?」
 吹雪の動きが妙だ。人目を気にするようにコソコソと、浴場に何かを取り付けている。
「何よ、それは」
「修行用の滝を作るであります。こう、上から下にお湯を落とす構造に……」
 却下、と言ってコルセアは、吹雪が取りつけようとしていた装置を撤去する。よく見ると浴槽の中にも妙な突起物が仕掛けられていたので、ついでにそれも外しておいた。
「ああ! せっかく間欠泉みたくお湯が噴き出す様にしようと思ったのに、であります!」
「そんな必要がどこにあるのよ……」
 呆れたようにそう言いながらも、コルセアは悔しがる吹雪を見て満足げに笑った。


 常闇 夜月(とこやみ・よづき)はといえば、着々と自警団の詰め所を建てる準備を進めているところであった。
 詰め所に設置するものは大方決定済みだ。自警団員が装備を置いておくロッカーに、体を休めるためのテーブルとイス。夜月は出来る限り団員が中でリラックスできるような詰め所にしたいと考えていた。
というのも自警団の構成員が大らかな妖精たちであるとはいえ、まがいなりにも武力を取り扱う以上、内部での摩擦が懸念されるからだ。それを緩和するためには、コミュニケーションを取る場が必要だと夜月は思った。そのため、詰め所の内部には談話室も作る予定である。
 夜月が妖精たちと共に建築用の資材を運んでいると、ちょうど森の奥へ向かおうとしていたブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が建設現場の前を通りかかった。
「あら、これから洞窟へいらっしゃるのですか?」
「ああ。おまえたちは自警団だったな。くれぐれも不審者には用心してくれ」
 詰め所建設の指揮をとっている夜月に対し、ブルーズは至極真面目な口調でそう言った。そしてそこに集う数人の妖精たちに向かって、「それから」と言葉を繋ぐ。
「見慣れぬ者が向こう側から来た場合、族長が大切にしている物に心当たりがあれば、それを移動させて守ってくれないか」
 森の奥に続く道を指してそう言うブルーズの言葉は、妖精たちにはいまいちピンと来なかったらしい。互いに顔を見合わせて首をかしげている。
「族長の大切なものって、お茶菓子とか?」
「いや、茶菓子ではないが……とりあえず見当のつく者は頼む」
 長くハーヴィと共に暮らしている妖精たちの中になら、大切な物の隠し場所を知っている者がいるかも知れないとブルーズは考えていたが、この様子だとあまり期待は出来ないようだ。集落の妖精たちの中には封印の洞窟の存在すら知らない者もいるらしいから、もしかしたらハーヴィは妖精たちに深刻な話をするのを避けて来たのかも知れない。
 ブルーズは自警団員たちに対し再度不審者への注意を促してから、集落を後にした。


「――分かった。すぐにわらわも向かおう」
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は携帯を切ると、急ぎ足でとあるログハウスに向かった。
 洋服店『フェアリームーン』。その中では現在、刹那のパートナーであるアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)イブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)と共に手作りの洋服を売るべく準備を進めている最中である。
「あれ? せっちゃん、どうしたの?」
 深刻な表情で店に飛び込んできた刹那を見て、アルミナは不思議そうに尋ねた。
「たった今、中願寺から連絡が入ってのぅ。洞窟でちと面倒事が起きたらしいんで、行って来ようと思うんじゃが……」
 刹那は「共に来てくれ」と言いかけて、開店準備中の室内を見回す。『フェアリームーン』の開業を楽しみにしているアルミナの作業を中断させるのは心苦しい。何より、彼女を荒事に巻き込むのは気が引けた。
「分かった。せっちゃんの頼みならがんばって手伝うよ」
 しかしアルミナはそんな刹那の思いを知ってか知らずか、作業の手を止めて快く誘いに乗る。
 刹那は何だか申し訳ないような気持ちになったが、それ以上は何も言わずアルミナ、イブを連れてログハウスを出た。
 封印の洞窟へは、森の奥へと続く道を辿らなくてはならない。
 道が獣道となり、すぐにそれさえも途切れて森に飲まれる。低木をかき分けながら進んでいると、ふいに何者かの気配がして刹那は後ろを振り返った。
「何じゃ。紫月ではないか」
 そこに居たのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)とパートナーのリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)。話を聞いてみると、どうやら目的地は刹那たち三人と同じであるらしい。
「あー、せっちゃんも綾瀬から? ん、なら今回は共同戦線と行きますか!」
 最初から、唯斗の意図するところは極めてシンプルであった。真っ直ぐ行って、ぶっ飛ばす。そして『煌めきの災禍』を取り戻す。至極単純明快で分かり易い行動目標である。
 木々の密度が幾ばくか薄い場所に出ると、唯斗はリーズが連れて来た「聖邪龍ケイオスブレードドラゴン」に同乗して先を急ごうとする。
 しかし刹那はそんな彼らに「まあ待て」と制止を加え、彼女の従者であるニンジャの卵に斥候役を命じた。
「戦において、情報は重要じゃぞ?」
 そう言った刹那の顔には、暗殺者めいた笑みが浮かんでいた。