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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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 同日 同時刻 日本 東京都内
 
「遂にここまで来たな」
 立派なビルを後にしながら世 羅儀(せい・らぎ)が呟く。
「だが、まだ油断はするな。本当に調べるべきはここからだ」
 彼と彼の相棒である叶 白竜(よう・ぱいろん)は更なる情報を求めて日本へとやって来ていた。
 今、彼等がいるのは二葉重工の本社前だ。
 
『偽りの大敵事件』の関係者が現代の日本人の少年少女ばかりであることに注目した二人。
 ――日本側でなんらかの窓口になっているのが二葉重工である可能性がある。
 そう推察した二人は二葉重工を訪ねていた。
 
 その結果調べられたのは、二葉重工がエッシェンバッハ・インダストリーに資金や物資を提供していたということ。
 どうやら、この件は更に深く調べてみる必要がありそうだ。
 とはいえ、確実に事件の真相へと近付いている。
 その確信がふたりにはあった。
 
 白竜が端末を確認すると、三件の連絡が入っていた。
 一件目は裏椿 理王(うらつばき・りおう)からのものだ。
 どうやら、本社で話を聞いているうちに入った連絡らしい。
 それによれば、理王は相棒の桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)とともに、敵パイロットたちの身分照合に成功。
 および、情報の共有化を完了したということだ。
 
 二件目は沙 鈴(しゃ・りん)からのものだ。
 イリーナとの勉強会を経てわかったことは三つ。
 
 一つは、エッシェンバッハ派は九校連という一つのくくりを復讐の対象として認識していたこと。
 一つは、復讐者として身元が推察されているパイロットやその相棒と思しき者達は、事件の後に契約者となったこと。
 一つは、パイロット以外の人員がいるかは、実の所詳細不明だということだった。
 パイロットやその相棒以外にも、イコンを開発設計している者がいるということは確かだが、それ以外はイリーナにもわからないとのことらしい。
 
 なお、綺羅 瑠璃(きら・るー)秦 良玉(しん・りょうぎょく)の二名と協力し、引き続き勉強会と護衛を行うとのことだ。
 
 
 三件目はトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)以下、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の四名からなるトマス隊からの調査報告だ。
 彼等が得た資料にあるイコン――渇竜。
 
 その資料が前回の調査時に出されずに忘れていた理由。
 部屋と格納庫を貸していた店主曰く、「長い事研究してたんなら俺の印象にも残っただろうけど。きっとサークルの連中があっという間に仕上げた……いわゆるポッと出のモンだったから忘れてたのかもしれねえ」とのことらしい。
 また、資料を深く読み込んでわかったことがある。
 
 渇竜の機能とは、機体に搭載された特殊なパイロットシステムにあるらしい。
 システムはパイロットの『自分が殺される』という恐怖を喚起し、それを増幅する。
 それにより、パイロットは『周囲のすべてが敵に見える』というのだ。
 結果的に何が起こるか。
 
 ――死の恐怖に晒されたパイロットは限界以上の力を発揮し、それが戦闘力の凄まじい向上に繋がるというのだ。
 まさに、『死ぬ気になれば何でもできる』を体現するシステムだという。
 
 しかしながら、そのコクピットシステムの詳細はまだ調査中だという。
 なお、もう少しで核心に至る情報へと辿りつけそうらしい。
 
 それらの情報に目を通した白竜は、羅儀へと声をかける。
「これらの情報に目を通しておいてくれ」
「オーケイ。で、これからどうすんだ?」
「二葉重工への追跡調査、および今得られた情報への調査をこちらで可能な限り行う。どうやら、もう少し地球でやることがあるようだ」
 
 そう言って白竜が歩き出そうとした時、背後から声がかかる。
「叶少佐」
 振り返った先にいたのは水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の二人だ。
「水原大尉、地球まで来るとはどうかしたか?」
 白竜の問いにゆかりは冷然と答える。
「あなたがたがどこまで核心に近付いているのか――教導団としてはそれを把握しておく必要がありますので」
「逐一報告を済ませている通りだ」
「本当にすべて報告を済ませているのならば問題はありません」
 何か含みを持たせたような言い方に対し、白竜は静かな声で言う。
「我々は金団長より独自に調査権を与えられている。ゆえに、だ。仮に事実を伏せると判断したとしても、それは軍規に何ら違反はしていないはずだが?」
 それに対し、ゆかりはしれっと答える。
「いえ、他意はありませんよ。単に教導団も組織、それも巨大なである以上、綺麗事や清廉潔白だけではまわらないこともある――ゆめゆめそれをお忘れなきよう、ということを挨拶を兼ねてお伝えしきにきただけですから」
 それだけ言うと、ゆかりとマリエッタは踵を返す。
「そうそう、叶少佐の報告書、すべて読ませて頂いておりますよ。重ね重ねになりますが、先程のこと、ゆめゆめお忘れなきよう」
 一度振り向いて言うと、どこかへと去っていくゆかりとマリエッタ。
 
 その背を見ながら、羅儀は呟いた。
「水原大尉、一体何を企んでる……?」