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Exhibition Match!!

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Exhibition Match!!

リアクション



【プラヴダにて】


 写真集の表紙に踊る流麗な二つのサインを見つめて、ロベルト・ノヴァクは感じ入ったように溜め息を漏らした。
「有り難う御座います! 本ッッ当に有り難う御座います!!」
 ペコペコと頭を下げられ、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は顔を見合わせ微笑んだ。喜ぶファンの笑顔を見ると、撮影のときの苦労が報われるようで素直に嬉しい。
「そこまで喜んで貰えて嬉しいですわ」
「今回の写真集は私達も自信作なのよ。気に入ってくれた?」
「はい、今迄の中でも格段の出来だって思いますよ。
 特にこの水着のショットの3枚目が、二人ともプライベートの時と同じようなリラックスした笑顔で、ファンとしてはこういう貴重な――」
 
 さゆみとアデリーヌ――つまりコスプレアイドルデュオ『シニフィアン・メイデン』の二人はこの日、陸軍中隊『プラヴダ』の基地内にある食堂を訪れていた。二人の熱心なファンであるロベルトに、先日発売になったばかりの写真集を届けてやる為である。
 彼は既に観賞用と念のための保存用、布教用は既に購入していたらしいが、これはサイン入りだ。ファンには平等に接したいものだが、二人の大学がある空京を守る任務の為に、発売イベントを逃したらしいから、このくらい甘やかしてもいいだろうと思いわざわざ足を運んだのである。
「ところでアレク達は?
 折角だし挨拶していきたいんだけど……」
 さゆみが食堂内をキョロキョロと見回して言うのに、ロベルトは彼等の居場所を答え、説明を付け加えた。
「……広報の為の親善試合、そんなものがありますのね」
 初耳だと言うアデリーヌに、ロベルトは今回が初めてなのだと経緯を話す。
「――ニコライ・ストヤノフ少尉が今回の企画を持ってるんですけど、カメラ映えのする顔ってことでアルジェントなんかはイヤイヤ連れて行かれましたよ」
 笑い話に二人がくすくすとさざめくと、ニコライが「そうだ」目を大きく見開いた。
「SAYUMIN達もどうですか?」


 * * * 



【ウルディカ 対 スヴェトラーナ】


 ロベルトの案内でさゆみとアデリーヌがシャンバラの東部に位置する『キャンプ・ソーン』と呼ばれる『都市戦闘訓練センター』を訪れると、そこでは既に激しい応酬が行われていた。
「あら!」
 こちらに気付いたニコライが筋肉質な上2メートル程の身長ながらパタパタと身軽に駆け寄って、二人を歓迎する。
 アイドル戦士というのは広報としてはこれ以上ない逸材だから、飛び込みだというのに彼も上機嫌で出迎えてくれた。
「――それで、誰とやりたいか希望はあります?」
「ハインツやアレク相手に殺りあうような自殺行為はしたくないわ。
 彼女とも……」
 さゆみがウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)の銃撃を身体をくねらせかわすスヴェトラーナ・ミロシェヴィッチ(すゔぇとらーな・みろしぇゔぃっち)を指差し首を横に振る。
「気持ちは分かるわ」と苦笑しているニコライに、さゆみは「だから」とくるりとキアラ・アルジェント(きあら・あるじぇんと)へ振り返った。
「え、ええ私!?」
 キアラの動揺ぶりに皆笑いが漏れるのだった。

 さて、そんな和やかな間にも、ウルディカとスヴェトラーナの試合は続いている。
 ウルディカの契約者グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は椅子に腰を深く下ろしたまま、ニコライに許可を取り設置したビデオカメラへちらりと視線を向け、彼の隣で背筋をピンと張り立っているエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)を見上げた。
「エルデネスト、聞きたい事がある。
 公開演習で『訓練の約束』を果たすのは駄目だと思わないか」
「駄目だとは申しません。
 が、淑女の顔を見てダンスを申し込めない男の、なんと情け無い事か!」
 心底馬鹿にしたような声は、妙に張っていた為ウルディカの足さばきが僅かに遅れてしまう。その事に満足して、エルデネストは美貌を歪めた。
 このところのグラキエスはウルディカばかり同行させていた。これはグラキエスに強い執着心を持つエルデネストとしては、全く面白く無い状況である。
 だから何も無くともチャンスさえあれば、荒探しや嫌がらせに余念がないのだ。
「本当なら俺が出たかったが……」
 残念そうに呟くグラキエスに、エルデネストは薄い笑みを湛えたまま首をゆっくりと振る。
 グラキエスの体調は、スキルで支えなければ戦う事が出来ない程悪い。これはただの訓練だからと、無駄に力を使うような無理をするなとウルディカにも大人しくしているよう厳しく言いつけられたらしい。 
 これ程衰弱しながらも、戦いを求めるグラキエスを見ているとエルデネストの心は躍ったが、表向きにはそれを出さずに冷静に接する。
「どうぞ此方でお寛ぎ下さい。
 彼等には彼等のやり方があります。見守るのが良いかと」
「……そうだな」
 嘆息混じりに渋々と言って、グラキエスはウルディカの訓練試合へ再び視線を戻した。

 参加の動機は兎も角として、ウルディカの勝負は真剣だ。
 訓練だからと言って加減しよう等と言う考えは、存在しないらしい。実戦との違いは、弾丸が殺傷能力も持たないくらいだろうか。
 さて、銃と刀というと、当たり前のように銃が有利に感じるものだが、スヴェトラーナのような達人クラスになるとそう言い切る事は難しい。
 特に敵が刀の間合いに入れば、刀の方が圧倒的に有利になる。
 ウルディカの方もハンドガンを使用する超近接格闘術を得意としている為、互いに踏み込んだ状態での応酬が続いていた。
 スヴェトラーナに銃弾が簡単に当たるとは思えない。
 だからウルディカが狙っているのは、身体を支える脚部や腹部を優先する事で、相手の動きを鈍らせる戦法である。
 開始直後は武器も狙おうとしていたのだが、スヴェトラーナは二振りの刀を使用するため、逆に集中力を削がれる結果になりかけた為、切り替えたのだ。
「銃口が近距離にあると、ちょっと怖いですね!」
 軽口めいたことを吐きながらスヴェトラーナが振り下ろした刀を、ウルディカは彼女の方へ敢えて踏み込んで斜めにすり抜ける様に避ける。
 刃物だって目の前に向けられれば恐怖心が沸き上がるのに、面白い事を言うとふっと笑い、彼女に背を向けた状態で、横腹の方から銃口を出しスヴェトラーナへ狙いをつけた。
「ほら!」
 怖いでしょうと、スヴェトラーナは左の刀で銃身をかち上げた。
 その際に横に錐揉みする様に回る動きが加わえていた為彼女が喰らわなかった銃弾は、炸裂音と共にあらぬ方向へ飛んでいく。
 ウルディカがスヴェトラーナより有利な点。
 それは彼女よりもリーチが長い事だ。
 銃身ごと跳ね上げられた勢いの侭、ウルディカはぐるりと回って腕ごとぐんっと銃を振り下ろした。
 その先には丁度着地したスヴェトラーナが居る。
 しかしこのウルディカの叩き付ける攻撃は、スヴェトラーナが頭の上で交差させた刀で防がれた。
「ッ!」
 流された瞬間に、ウルディカは自分が失敗した事に気がつくが、既に時は遅い。
「貰いましたよ!」
 の声を聞きながら足払いをされ、首の動脈に切っ先が突きつけられた。
 荒い呼吸しか聞こえない暫くの間の後、スヴェトラーナはウルディカへ満面の笑みで手を差し出した。
「えへへ、私の勝ちですね」


「最後は凄いスピードだった。
 キースに頼まれたビデオはきちんと撮れていただろうか」
 グラキエスが心配そうに言うのに、エルデネストは録画したばかりの映像を少し戻して優雅に微笑む。
「ええ、ばっちり映っていますよ」
 確かにパートナーが所望したものは、完璧に映っている。
 エルデネストが見ているビデオには、スヴェトラーナの手を取りながら頬を染めているウルディカが映し出されていた。