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ツァンダの勝負日



「無理、絶対に無理」
 フィーア・レーヴェンツァーンからの連絡メールを受け取ったリューグナー・ベトルーガーが、新風燕馬たちと住む自宅でブンブンと首を振りました。
 コンタクトブレーカーを手に入れろと新風燕馬に無茶振りをされたわけですが、どう考えても無理です。現在はどこにあるのかよく分かりませんし、まあ、空京大学の秘密研究所とかそんなところでしょうが、それこそ場所すら分かりません。
 だいたいにして、言いつけた新風燕馬すら、本当に手に入ると思っているのかどうか怪しいところです。
「とにかく、それらしい物を用意しなければ……。わらわのすばらしい勘では、きっとこれは使われることはありませんわ。何かの脅しに使う……、はっ、まさか、わらわやフィーアをお払い箱にするために……。これは、さらに本物を燕馬の手に渡すわけにはいきませんわ!」
 何やら、盛大に勘違いしながらも、リューグナー・ベトルーガーが新風燕馬をだますための準備を始めました。
「こういうときに、鷽がいれば便利なのでしょうけれど、まあ、この間、鷽は絶滅したと聞きますし、自分でなんとかでっちあげるしかありませんわね」
 そう落胆すると、リューグナー・ベトルーガーは、買ってきたモデルガンを俺改造して、コンタクトブレーカーらしき物を組み立てていきました。


ヒラニプラの勝負日



 ふと見あげれば、見知った天井が目に映りました。日常のはずですが、ふと横を見れば、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)の腕枕ですやすやと寝ているマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の姿があります。
「やっちまった……」
 何度言い返してみても、一度またいだ一線は、遥か後方に過ぎ去ってしまい、いくら先を見渡してももう見ることはできません。
 いいかげんどうしようか、いや、どうしようもないのですが。だんだんと、今の風景が日常になりつつある幸福と言うか恐怖と言うか……。
「はーっ」
「んっ、おはよー」
 水原ゆかりの溜め息で起きてしまったのか、マリエッタ・シュヴァールが甘噛みをしてきます。
「ダメよ……。もう、充分愛し合ったでしょ?」
 水原ゆかりがマリエッタ・シュヴァールを優しく引き離しました。
「ねえ、カーリー……女の子とこうして愛し合うのってこの前が初めて?」
「何よ、いきなり」
 ホント、唐突に訊ねられて、水原ゆかりがちょっとどぎまぎして答えました。
「だって聞きたいんだもん。カーリーって恋愛下手だなって思ったから」
「そうね……確かに下手だわ。初恋は九つのときで大学生の従兄だった。一四歳のときに同じクラスの子と寝た。高校に入ってすぐに同級生と恋に落ちて……互いに傷つけ合うような恋をして別れた。それから……誰かと恋したり愛したりするのが怖くて、ずっとこの調子。恋はいらない、身体だけの関係で充分、そう思ってた」
 なんだか、黒歴史を数えるかのように、水原ゆかりが指折り答えていきました。
「あたしもそう?」
 自分も、その黒歴史の一つになるのかなと、マリエッタ・シュヴァールがおずおずと訊ねます。
「分からないわ……。だって、マリーとは今までずっとパートナーだったから……。予想できないわよ」
 そう答えると、水原ゆかりはベッドから抜け出してバスルームへとむかいました。