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リアクション
午前中、空京のエース宅。
「今日も変わらず綺麗だね」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は自宅の庭に咲き誇る百合や薔薇達の様子を確認すると共に『人の心、草の心』で褒め称えたりと植物達とお喋りをしたり
「……花殻を取って綺麗にしてあげるよ」
ペチュニア達の花殻を取ったりと愛する花達を甲斐甲斐しく世話をしていた。
そして顔を上げればそろそろ終わりが近い向日葵達。
「夏の間、美しく咲き誇る姿で俺達の目を楽しませてくれてありがとう」
エースは愛おしそうにもうそろそろお別れとなる彼女達に言葉をかけた。
視線を向日葵からこれから皆の目を楽しませるコスモス達に向け
「今年も元気に花開いていて嬉しいよ」
エースは微笑みかけた。
そうやって花達の手入れに精を出している内に
「エオリア、せっかくだから午後のお茶は外で楽しみたいから準備を頼むよ。時間の方はこの天気だと午後からの気温も結構厳しいだろうから3時過ぎに変更してくれ」
エースは夏を彩ってくれた植物達を愛でながらお茶を楽しみたいとエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)に我が儘を言った。
「外ですか……ちゃんと屋根の在る所でお茶にしましょう。夏の終わりとはいえ熱中症は危険ですよ。午後になればもっと日差しが強くなりますからいくら時間変更をしても……」
エオリアは燦々と太陽輝く青空を見上げてからやめるように言うが
「頼むよ。夏最後の午後を彼女達の近くで過ごしたいんだ」
植物愛好家のエースを止める事にはならなかった。
「……そうですか、分かりました。用意しましょう(暑かろうとも花への愛の前には多少の気温差は関係無しですか。いつもの事ですが)」
エオリアは軽く溜息を吐いてからエースの望むままにする事に。夏最後の今日も花を愛するエースに振り回されるとは。平和そのものである。
ともかくエースが花の手入れをしている間、エオリアは午後のお茶に向けて庭にテーブルと椅子を設置し、時間間近になってからお菓子を作る他『ティータイム』で美味しいお菓子を調達したり暑さを考えて冷やしたハーブティーを用意した。
時間は朝から午後になりお茶の時間になっても日差しは厳しいまま気温はますます高くなっていた。
「……やはり暑いですね。少しでも涼しくなるようにこれを使いましょう」
エオリアは融合機晶石【フリージングブルー】の冷気を使ってテーブル周辺を涼しくする。
完璧に準備が整ってから
「エース、準備が整いましたよ」
エースを呼びお茶の時間が始まった。
お茶の時間。
「ハーブティーを冷やしておいてくれてありがとう、美味しいよ。お菓子も」
エースは乾ききった喉を爽やかなハーブティーの冷たさで癒しお菓子を頬張った。味は『調理』を有するエオリア作なので当然美味。
少ししてエースは足元にあたたかな馴染みある感触を感じ
「……おや、君達も涼みに来たのかい」
ティーカップを持ったまま、テーブルの側で和む猫達を微笑ましげに見た。
それを見て
「……どうやら冷気に気付いたみたいですね」
エオリアもクスリと笑みを洩らした。
冷気の他に風が凪いでしまったら『風術』でそよ風を。冷気のお陰で自然の風が途絶える事はないが。
「この日差しに負けず美しく咲く花達にはますます愛情が膨らむよ」
エースは愛おしそうに花々を愛で
「今日は花達の所へ蝶も沢山来ていて賑やかだったよ。パラミタ種の蝶も綺麗な翅の物が多くて、見ていると面白いね。ただ、昆虫採取は趣味じゃないからしないけれど」
今日の花の手入れの際に見掛けた美しい蝶を思い出していた。
「そうですね。ここは植物天国な庭ですから蝶も多いですが、今年は蝉も多かった気がしますよ」
エオリアは空になったエースのカップに茶を注ぎながら庭を見た。
「……数年住んでいるだけでも色々と自然の変化が感じられるものだね」
エースは夏の終わりと秋の始まりが咲き誇る庭を愛しげに眺めた。
そうして穏やかな夏の昼下がりをゆったりと過ごしていたが、
突然、どこからかヒグラシが鳴いてきて
「また来年も同じ様に花達の手入れして今年も暑いねとか言っているのかな」
エースは思わず感傷的な気分になり風をなびかせて通り過ぎる風に秋の匂いさえ感じるようであった。
「この声はヒグラシの声ですね。秋の訪れも近いと言う事なのでしょうか(僕は来年も同じ様にエースの植物愛に振り回されているんでしょうね)」
エオリアもエースと同じくヒグラシに耳を澄ませ、秋の訪れを感じると共に胸中で苦笑を洩らしていた。
そして
「……夏の終わりか……」
夏の終わりが楽しい時がもうすぐ終わる印象をエースに与えたのかいつかパラミタの生活から地球の実家の仕事で多忙な時が来る事を思わせた。
「ところで地球に帰る時には、エオリアにも一緒に来てもらうよ」
エースはエオリアににっこりと笑いかけた。
エースとエオリアの夏の最後の一日はのんびりと過ぎていった。