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夏最後の一日

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夏最後の一日

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 昼、イルミンスールのとある喫茶店の店内。

「マリナさん、今日はオレも同席させてくれてありがとう」
「お礼はいいさ。後はジブちゃん次第さね」
 ジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)は隣に座るマリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)に礼を言った。
「さて、二人ももうそろそろしたら来るさね。相談役が名前だけにならないようしないと(ついでにあの後両調薬会がどうなったのも気になるからさね)」
 実は本日調薬友愛会の相談役として会長のヨシノと両調薬会の緊急時の協力条約の提案、立会人として調薬探求会の会長シンリも『根回し』で定例会的な名目で近況報告をするために呼び出したのだ。
「……出来れば双方の調薬会に加入出来たらいいけど(そう出来たら両調薬会の和解のきっかけになるかもしれないし……でもマリナさん達から聞いた話だと双方は無理かも知れない。それなら片方だけでも)」
 ジブリールは個人的な用事のために同席していた。

 一方。
「……もうそろそろですね」
「あぁ」
 本日半分部外者のフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は少し離れた席で様子を見守っていた。
「マスター、ヨシノさんとシンリさんの仲も気になりますが、ジブリールさんの熱意がヨシノさん達に伝わるといいのですが……見守るしかないと分かっていても心配です」
 話し合いはまだというのにフレンディスはそわそわと心配で落ち着きがないという過保護ぶり。見守るしか出来ないと分かっていても。
「そうだな。心配事が次から次へと感じだな(ロズの事はフレイから聞いた限りこれ以上心配なさそうで一安心だが……双子はジブリールが仲良くなるにつれ不安要素が増えるのは考えすぎか? 俺は覚えてはいないが、夢札を使ったあの時も双子と遊んでいたというし……何か時々悪戯っ子の面が見え隠れするような。あいつらと関わってからだよな)」
 ベルクもまたフレンディス同様にジブリールを心配しているが、それだけでなく
「……だがまぁ、俺達が研究会加入について何を言おうとも自分が選んだ道は止められねぇしマリナ姉も保証してくれてるし大丈夫だろう。ただ、余計な事まで覚えそうなのがな……」
 ジブリールに双子という悪い友達というか悪戯友達が出来た事に一抹の不安を覚えていた。完全な親馬鹿の苦労人である。
「そうですね。自分が選んだ道は止められませんよね」
 フレンディスはベルクの言葉に心当たりがあるのかうなずき、黙った。その心当たりとは自分の目指すもののために頑張っている獣人の仲間の事である。
「あぁ、何にしろ話をしてからだろ(ただ、友愛会はともかく探求会がな)」
 そう言いながらもベルクは両調薬会について気掛かりだった。調薬友愛会は合法が主な上にマリナレーゼが相談役をしているので心配ないが、調薬探求会が調薬に関して調薬友愛会より上だが合法非合法関係無しというのがベルクの気になる所。家族として危険な事はして欲しくないので。
 そうこうしている内に
「マスター、来ましたよ」
 フレンディスがヨシノとシュオンが現れた事を知らせた。
 この後、遅れてシンリとクオンも現れ定例会は始まった。

 定例会開始後。
「突然呼びだして悪いさね。皆元気してたさ?」
 マリナレーゼは当たり障りのない所から話を始める。
「えぇ、おかげさまで」
「何とかやってるよ」
 ヨシノとシンリは当たり障りのない返答。
 その横では
「シュオン兄ちゃん、久しぶり! 左手不自由そうだけど大丈夫?」
「あぁ、クオン元気そうだね。実験の影響で左手が動かなくてね。しばらくしたら元に戻るから」
 弟クオンと兄シュオンの仲良しの再会が繰り広げられていた。
 それらを見て
「どうやら騒動も現状落ち着いているし研究も支障はなさそうさねー。だからこそ効率よく研究に励めるよう何か必要な資材や設備があればあたしの方で調達するから遠慮無く言うさ? 無論予算を費やすに値するかどうか検討させて貰うさねけど」
 マリナレーゼは相談役と商売人の顔を見せた。本来なら要望は相談役をする調薬友愛会のみで良いところを浅からぬ仲という事で調薬探求会の要望まで聞く。
「それなら……」
 ヨシノとシンリはそれぞれ要望を伝えた。
 後ほど、マリナレーゼは要望の内容を吟味し、『イノベーション』で思考し解決案を提言し『設備投資』で設備充実を計り『資産家』で資金援助をしたり内容によっては施工管理技士やマホロバ人の発明家の協力を得て叶えるに値するものは叶えたという。

 定例会終了後。
「後別件で……ジブちゃん、自分で希望申請するさねよ?」
 マリナレーゼは話が終わった所でジブリールにバトンタッチ。
「初めまして、オレはジブリール。ヨシノさんとシンリさん達の話はマリナさん達から聞いてるからある程度知ってるよ(……フレンディスさん達の話は偏りがあると思うけど)」
 ジブリールは椅子から立ち上がり、両会長に挨拶。胸中で調薬会の騒ぎに関係したフレンディスやベルクから聞いた話を思い出しつつ。
「よろしくお願いします」
 ヨシノは挨拶をするが
「もしかしてこれが今日のメインなのかな?」
 聡いシンリがマリナレーゼの方をちらりと見た。
「……」
 半分部外者となったマリナレーゼは笑顔で答えるだけ。
「実は今日は高い調薬技術を持つ両会長さんへ折り入って頼みがあって来たんだけどいいかな……?」
 ジブリールは椅子に座り両会長の顔を見回した。
「頼みですか。構いませんよ。話して下さい」
 ヨシノが話を促すと
「オレ、薬学や調合については相応の知識と技術を持っていると自負してるけど……だけどオレが身につけたいのは誰かを救う為の技術で……今の知識だけじゃ足りないんだ。要するに一から腕を磨き直したいから調薬会に入れて欲しいんだけど……駄目かな?」
 現在ジブリールは自身の暗殺技術を生かす技術へと昇華させる為に再勉強中で治癒術はベルク、医学も師が出来たものの薬学(調薬)については本格的に従事している人が居なかったのが現状のためマリナレーゼから調薬会の話を聞き、加入を頼み込むために同行を決めたのだ。
 と追加で
「もちろん、片方が持つ機密部分は仮に知っても当然漏洩しないと誓うよ」
「この件についての責任はあたしが責任と保証人を請け負うさ。もちろん贔屓は無しさね」
 ジブリールは大事な事を付け足し、マリナレーゼが徹底的にニュートラルな保証人を申し出る。
「貴方が保証人なら何も心配ありませんね。色々と協力して頂いたので」
 ヨシノは保証人の件についてはこれまでの関わりから考える余地無しという感じであった。
「両調薬会に出来れば加入したいんだけど……」
 ジブリールはまず自分の希望を口にする。
 しかし
「さすがにそれは……」
「断らせて貰わないといけないかな。申し訳ないけどね」
 ヨシノとシンリは他の会員の手前首を縦には振らなかった。
「そっか。それならどちらかでいいよ」
 想定内のためジブリールは自分の希望は押し通す事はしなかった。
「大丈夫だよ。別々でも会っちゃいけないという事は無いしね」
 兄に甘え中のクオンがにこにこと笑いながらフォローした。
「……誰かを救うための技術ですか。とてもいい心意気だと思います。私達はまさにそのために……人道と合法を大事にして人のために活動していますから。よろしければ共に活動したいと思います」
 ヨシノはジブリールの目的に共感し
「……知識を求める上昇志向はいいね。人を助けようにも知識が無ければ救う事は出来ないからね。ここなら合法非合法関係無しで調薬関連ならば知識も素材も彼女の所よりは多くあるよ。非合法でなければ救えない事もあるかもしれない」
 シンリはジブリールの目的のための手段に共感していた。
「……(人を救うために活動したければ友愛会、薬学を勉強したかったから探求会という感じかな)」
 ジブリールは両調薬会の様子から目的別に簡単に行き先を考える。
「……」
 マリナレーゼは口を出さず、見守っている。これはジブリールの問題であるため外野が口出す事では無いから。

 一方。
「……ジブリールさんどうするんでしょうか」
「さぁな(友愛会なら人道的だしマリナ姉がいるから心配は無いが技術面では探求会には劣る。先の記憶素材化魔法薬やオリジナル素材が含まれていた魔力を消す魔法薬を作り出したのは探求会で友愛会は出来なかった。しかし合法非合法関係無くの上に黒亜の事もある……どうするんだ)」
 フレンディスとベルクはジブリールを不安を抱きあれこれ考えつつも見守っていた。

 再び。
「嫌な依頼だったら断っても何も問題無いよ。黒亜お姉ちゃんの事もあったけど、全員が全員あんな人ばかりじゃないから。みんな調薬を探求するのに熱心な人ばかりだから」
 クオンがにこにこと所属者としてアピール。
「そうなんだよね。僕もこんな体じゃなかったら探求会の方に行ってたんだけどね。まぁ、こっちは黒亜のような騒ぎはほぼ無いからねぇ」
 元々調薬探求会に加入したかったシュオンはアピール力が何気に弱かったり。
「……なるほど(長く続けるなら問題が起きていない方がいいかもしれないけど研究熱心な人が多ければ色々と吸収する事も出来る……黒亜っていう人のように問題を起こす人もいるだろうけど)」
 ジブリールは実際にそれぞれに所属する二人から意見を聞いて胸中で情報をまとめている。
 この後話し合いは続き、最後
「是非、共に活動したいですが、技術が足りぬ所がある事も自覚していますし強制はしません」
「来る者は拒まず去る者は追わず、だから後は君に任せるよ」
 ヨシノとシンリはどちらに所属するかはジブリールに任せるとなった。
「……分かった。オレの話を聞いてくれてありがとう」
 ジブリールはひとまず二人に自分の話を聞いてくれた事に礼を言った。
 これにて全ての話が終わり、両調薬会とはここで解散となった。

 一方。
「……マスター、お話が終わったみたいですよ」
「あぁ、返事は後でという感じだが、どちらを選んでも応援しないとな」
 フレンディスとベルクは話が終わりこの場で返答をしなかった事にどこか安堵しているようであった。

「……どちらを選ぶかはジブちゃんの自由さね。自分の目指すものに一番近い方を選ぶさねよ。どちらを選んでもみんな応援するさ」
 マリナレーゼはそうジブリールに言うなり心配そうにずっとこちらの様子を見守っていたフレンディス達の方を見た。
「……うん、よく考えて決めるよ」
 ジブリールは力強くうなずき、自分を家族として受け入れ心配しているフレンディス達の方を見た。