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【祓魔師】アナザーワールド 1

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【祓魔師】アナザーワールド 1

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第3章 嫁が欲しい、領地も欲しい、水魔再来 Story1

 水の魔性に襲撃されたクリスタロスは、かつて水の都と呼ばれていた姿とはほど遠く、橋の下を流れる透明だった水は濁った緑色に変色していた。
 和解したはずのカエルたちの変わりように、ロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)は悪い夢でも見ているのかと思えるほど、自分の目が信じられなかった。
「うー…、んんー…?(これ…、みんなあのカエルさんが…?)」
 結和・ラックスタイン(ゆうわ・らっくすたいん)の肩から飛び降りベールゼブフォの気配を探す。
「信じ難いけれど、本当のことみたいよロラ」
「んむーっ!(また、そそのかされちゃったのかも!)」
「ありえるわね。またカエルさんを悪いことに利用するなんて許せない…。あ、ロラ。1人で急がないで!ええっと…どなたか同行してもらえないでしょうかー」
 クローリス使いなしでは、またロラに怖い思いをさせてしまうかもしれない。
 結和は協力してもらえるよう呼びかける。
「お嬢さん方、ボクたちでよければ一緒にどうかな」
「あ、ありがとうございます、クリスティーさん」
「時の魔性の対処も重要だけど、被害に遭った人たちを見捨てておけないからね」
「念のため、どうぞ」
 クリストファーはクローリスに作ってもらった香水を結和に渡す。
「は、はい。大事に使いますー。ロラ、持っていて」
「うー♪んうー(わーい♪可愛いね、これ)」
 パートナーから小さな子瓶を預かり、大事そうにぎゅっと握る。
「おにーちゃんの頼みだから、仕方なくなんだからねっ」
「な、なぜ、そんなに…不機嫌なのですか?」
 ツンツンしたクローリスの態度に、おどおどとした口調で言う。
「他の者も未来の自分と遭遇しないのなら、別の私がいないのは当然…か」
 偽りの“先”の世界なのだから当然とも思えたが、荒廃しかかっている世を眺めてなぜか仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)は安堵の息を漏らす。
「む、磁楠…」
 口元を笑わせる彼の姿を目にしたジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)は眉を顰めた。
「ジュディか。不謹慎に思われるかもしれんが、今の世界はただの偽りなのだと分かると…少しな。あいつが私となる世よりも、酷い有様になっていくだろうからな」
「ふむ。じゃが、先の世はいくつもあるものじゃろ?例えばだが…やつが、おぬしにならん世界もあるかもしれないよいうことじゃ」
「まぁな。歌菜もよく言っていたことだったか。未来は自分で切り開くものと。それを選び取れるのは、自分自身なのだからな。雑談はここまでにするか。今は、最善を尽くすとしよう」
 僅かな笑顔を消し、茶色い瞳が映している先へ目をやった。
「一、二匹……と。こっちには気づいてないみたいやな」
「小僧、すぐ追い払うか?」
「いや。どう分担するか、ちゃんと決めてからのほうがいいっしょ?」
「なら離れたほうがよいな」
 声のボリュームを下げ、一旦水魔から離れることにした。
 オオガエルに襲われ家主がいなくなってしまったのか、彼らは人気のない一軒家に集まりそれぞれ何を担当するべきか話し合う。
「おそらく皆、もうどうすべきか決めているだろうが。人が1箇所に集まりすぎるのも問題だからな。念のため、ここで決めてしまったほうがいい」
「わ、私とロラは、カエルさんを止めるために来ました。ええっと、それでクリストファーさんたちが…、さ先程、協力してくれると言ってくれたんですー」
「本使いが1人じゃ大変でしょうから、私たちもそっちに入りますね!」
「はわわ。あ、ありがとうございます、歌菜さん」
 ハイリヒ・バイベルを抱えながら結和はぺこりと頭を下げた。
「ルカたちはサリエルがここで何をするつもりなのか探るつもりよ。そのためにエリザベートから衣装を借りたの♪」
「私とミリィのほうは、彼らの居所を見つけるためだけど。目的がほとんど同じだからね、同行させてもらうよ」
「えぇ、大歓迎よ。エースも来るでしょ?」
「小さな校長がいるから、やつらとの遭遇する可能性が高いと分かったら一緒にはいられないけど。それでもいいかい?」
「うん。その時は、ルカたちから助けを呼ぶから大丈夫。和輝、定期的にテレパシーで連絡してくれるのよね?」
「そのつもりだ。発見したとしても、使い魔が傍にいない場合、無理に突っ込まずそこで仲間を待て」
 確認するように言うルカルカに佐野 和輝(さの・かずき)が頷く。
「取り敢えず、現状の把握が最優先ね。状況次第では有利に動けるかも知れないわ」
「無論、逆もありえます。表立った行動は控えるべきでは?」
 敵前に姿を晒すのは危険ではと、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)はグラルダに反論した。
 彼女はサリエルを目にしたらすぐに対峙するのだろう。
 そう考え外へ出ようとする彼女の袖を掴んで止めた。
「利用出来るものは利用する。適当に口裏合わせとけば平気よ。ビビッてんじゃないの。アタシの未来を信じなさい」
「―…ですが、相手は死をもたらす呪いを扱うと聞きます。校長がそうおっしゃっていたかと…」
「だから、分かるでしょ?」
 口の端を持ち上げ、“囮になれ”という態度でシィシヤに目を向けた。
「分かりました…」
「そのようなマネは許可できん。愚か者め死にたいのか、小娘!」
 道具として了承する彼女の言葉に禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)がキッと睨んだ。
 口の悪さは手習いの頃からまったく変わらないが、もしものことを想定して心底心配しているのだ。
「そこまでに至るまでにならないように善処します」
「ふん、まぁよい。万が一に備え、弥十郎たちはその小娘に同行したらどうだ?」
「うん?別に構わないよ♪」
「アタシは先に、水魔から情報を聞きだすつもりなのだけど、よいのかしら」
「んー……。ごめんね、表立ったことはいきなりしないつもりなんだ」
「そう、それは残念ね」
「どちらかが情報を掴み次第、俺がテレパシーで伝える。それでよいだろ」
「なるほどね、任せたわ」
 伝達してもらい対象の居所を掴み次第、合流すればよいかと和輝に連絡役を頼んだ。
「わたくしはグラルダと行きますわ。ノーンとカエルどもから情報を聞き出すつもりですの」
「えぇ、よろしく」
「オヤブン、一緒させてもらおう!」
「あぁ、呪われっぱなしは簡便だからな」
 カエルにされた古いような最近のような過去の出来事を思い出し、1つ返事で頷いた。
「私はスーちゃんと町の人の救助だから、コレットさんたちと行くね。ベアトリーチェさんたちはどうするの?」
「え…?私と美羽さんは…えっと……」
 未来に飛ばされてから心ここに在らずだったベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、仲間の話しをぼんやりと聞いているだけだった。
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)の声にハッとし慌てて言葉を返そうとするが、何のことかさっぱり分からず返答に悩む。
「よろしければ、わたくしたちと行きませんか?」
「あ、はい。是非…」
 声をかけてくれたミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)にさえ、気のない返事しかできないでいた。
「はーい、わたくしたちも!待ってなさいよ、サリエル…わたくしはこんな夢を胸に抱けない未来認めないわよ!」
「真宵。それは、胸に夢が無かったの間違いです」
 何年経っても成長しないものはしないのだとテスタメントが予言する。
「うっさいわね!」
「今回は賑やかしいことはいけませんよ、真宵」
「それくらいわたくしだって分かってるわ」
 一々口うるさくいうパートナーに、へなちょこいパンチをくらわす。
 他者がくらったとしたら痛くはない威力だったが、それでもテスタメントにはダメージがあったらしく“痛いのですっ、乱暴はやめるのですよ!”とギャアギャア騒いだ。
「俺たちは別で情報収集することにする。初めに言われた通り、あまりにも多人数では得策じゃないからな」
「私とマスターもご一緒しますね」
「あぁ、助かる」
 互いに思考を読みあえる仲の者なら、これほど心強いことはないと即答した。
「それじゃ私とセレンは、和輝たちといるわ。何かあった時、どこへでも駆けつけやすいからね」
「僕らは調査に協力したいけど、うーん…」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はカエルたちから聞き出すか、町を調べてまわったほうがよいのか考え込む。
「何か互いに連絡を取り合えますし、町の調査に加わっては?」
「うん、そうするよリオン」
「てことは北都、今日の俺たちは非アクティブな感じでいくのか」
「んー、まぁ今の所は…。ソーマ、探知お願いね」
 小さくなってしまった校長がここに来ているのも気にかかったのか、探索組みに入ることにした。
「フレイ、俺らどうする?グラキエスたちと5人だけっていうのもなぁ」
「は!そ、それはっ」
「(なるべく目的が同じじゃないとな…)」
 いくら上達したとはいえアタッカー1人ではさすがに不安か。
 そう考えたベルクは誰か組んでくれないか仲間の顔を順に見る。
「わたくしたちと行きません?救助は情報集めを兼ねてということになりますの」
「おー、助かる。よろしくな」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に声をかけてもらい、組ませてもらえるならと即答した。
 速やかに話し合いを済ませると、それぞれの担当に別れていった。
 また人気のなくなった家は静まり返り、真っ暗な部屋の中で割れた照明がパチパチと点滅した。