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【祓魔師】アナザーワールド 1

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【祓魔師】アナザーワールド 1

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第7章 糸の先にいる者 Story3

 祓魔銃による一筋の光を目掛け、ベールゼブフォたちがぺったんぺったんと足音を立ててやってくる。
「来ます、覚悟はいいですか」
 シィシャは携帯のイヤホンを方耳だけかけて準備を整えた。
 通話相手のベルクから水魔が接近していると報告を受け、本当に囮をするのかと一輝へ顔を向けた。
「今更だな」
「前方から、3…4…いえ、6はいるそうです。猛毒の霧…、あれは防げないので避けてください」
 空飛ぶ箒スパロウに乗り、一輝の走行を加速させやりながら毒の霧をかわす。
 ベルクが指示するポイントへ飛び回り、一点に集まるように祓魔銃で誘導していく。
「ゲコォッ、なぜ我らが分かるッ!?」
「お前は嫁探しをしていたよな?いい嫁さんに出会ったのか?」
 以前は散々、町中で嫁が欲しいと騒いでいたはずだが、今は何の目的なのかと一輝が探る。
「イ、イナイッ。悪いかーッ」
「あらら、それはすまん」
 やはり見つかってはいなのかと、わざとらしくクスクス笑ってやった。
「また嫁欲しさに町を襲ったのか」
「キサマに話してやる理由はないッ」
「なるほど、口止めされいるんだな」
 欲のために手伝ってもらう代わりに、代償として派手に暴れなければならい。
 テレパシーによる定期連絡通りだと判明し、“水魔祓いのGOを出してくれ”とシィシャに目配せをした。
 彼女は黙ったまま小さく頷き、最終ポイントを指差す。
 ドラム缶の陰に待機していたグラルダが酸の雨を降らし、ベルクはフレンディスを抱えて水魔の魔法抵抗力を下げさせる。
「コレット、頼んだ!」
「了解、オヤブン。準備はOKだよ」
 ゆっくりと詠唱を進めていたコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は一輝の合図を受け、降りしきる酸の雨の方角へ光の波を放つ。
「い、いったい、どこから」
「そりゃ、最初からいたからに決まっているだろ」
「くっそぅッ。分身たち、アイツらを倒すゲコッ」
 怒り狂ったカエルはトークンに一輝たちを襲うよう命令する。
 ぶくぶくと水泡を吐き出し本体から遠ざけようとする。
「ちっ、分身どもが本体を囲みやがった」
「ど、どうしますか、マスター」
「フレイとグラルダは裁きの章でいい。向こうが数で押すならこっちは手数で押してやる」
「そうはさせんッ。ゲコゲコォオー♪」
 本体である魔性はカエルソングを歌い、ふわふわと呪いの音符を飛ばす。
「まずは無礼者のキサマらだ!」
「俺と…誰のことを言っているんだ?」
 “いい嫁さんに出会ったのか?”と聞いたのはほんの数分前の出来事だ。
 複数系で指定する言い方に、アホなのかと首を傾げた。
「私のことでしょう。何故、纏めて言われたのか理解できませんが」
「カエルになれぇえいッ」
「ふざけるな、2度もなってたまるか!」
 ベルトに挟んでおいた香水をシュッと自分に吹きかけ呪いを回避する。
 身体に触れた音符がバチンッと弾け飛び、カエルにされたリベンジを成功させる。
「常備できる解呪とは、便利なものですね」
「くっそぅ、くっそぉぅううッ。呪ってやるーーーッ」
 生意気なやつらを呪ってやろうとゲコゲコ歌い狂う。
「わわ、まずい。スーちゃん、花の香りを!」
「いいんだねー?」
「うん、すぐお願い」
「わかったー、おりりん♪」
 スーはパラソルを広げてふわふわと宙を舞い、甘い花の香りを振り撒く。
「私たちもやりますわよ、ビバーチェ。エコーズ、クローリスII、花嵐!」
「ルルディちゃん、皆を守ってあげて!」
 ノーンの声に応じたルルディは白い花を散らし、水魔の口から溢れ出る水泡を防ぐ。
 花びらに触れるたびに水泡と共にパチパチ弾け飛ぶ。
「エリシア、札の先へ」
「分かりましたわ」
 グラキエスが放つ祓魔の護符の起爆を目印に花嵐で包囲する。
「悪いことばっかりしちゃいけないんだよ。お仕置きっ」
 吹き荒れる花嵐のほうへ光の波を流してやると、ベルクが片手を振り止めるように指示した。
「もうやめろ、エロカエル。これ以上は消滅するぞ」
「誰がエロだゲコッ」
「お、生きてたか。ピンクのカエル追いかけ回してただろうが」
 反論する元気はまだあるのかとほっとする。
「ハンドベルに香りをちょうだい」
「承知しました、ノーン」
 そう静かに言い、カラランとフラワーハンドベルを鳴らす。
「おいおい、まだ何かする気か?」
 目をギョロつかせる魔性を見下ろしため息をつく。
「アウレウス…」
「はい、主!ウィオラ、頼む」
「かしこまりました。主の大切な人の頼みとあればっ」
 涼やかな香りをアウレウスが手にするハンドベルへ送る。
 2人がもう一度鳴らすと、辺りにその香りが広がっていく。
「ぬぬ、クローリスの匂いはやなの匂いなのに、これは…ッ」
 水魔たちの鼻をくすぐるそれは、荒ぶる気を落ち着かせ大人しくさせた。
「やっと終いだな」
 彼らの表情が柔らかなものへと変わり、フレンディスを抱えたベルクは石畳の上へ降りた。



「おいエロガ…」
「マ、マスター。怒らせてはいけませぬ」
 またベールゼブフォたちが怒るかもしれないと思い、フレンディスはベルクの口に手を当てる。
「あぁ、分かってるって。…黒服のシスターが“炙霧”というやつで間違いないか?」
「どーして教えなきゃいけないゲコ。そんな義理ないゲコッ」
「はいはい、そーかい。(義理ってことは、命をかけてまで教えられないわけだな)」
 100%これで間違いないと確信した。
 …が、同時にエリザベートには残念な知らせになってしまった。
「そこは、どの辺で見ることが出来ない?」
「赤毛、死にに行きたいのかッ」
「違う。見てみないふりをしても変わらない。楽しいことがない世界もいやだ」
「まるでガキみたいなヤツ」
「主に対してその言い方はっ」
「よしなさい、アウレウス」
 声のほうへ向っていこうとする彼をエルデネストが止め、片手を払い“黙って聞きなさい”という仕草をする。
「そんな世界はつまらない…」
「ふむ。…木を隠すなら森、人を隠すなら人の安住の地…。これ以上は答えられないゲコ」
「―…そうか、ありがとう」
 精一杯の言葉に礼を言い、小さく笑いかける。
「町の人たちはどこにいるの?やっぱり町のどこかで倒れてしまっているのかな」
「さぁてなッ。それも同じことッ」
「同じ?外の水は飲んだら死んでしまいそうだし…。そうか、ありがとう!」
「終夏は町の人の救助を行うんだったか。この辺にはいないようだ…どうする?和輝に迎えにくるよう頼もうか」
 暴れていた魔性たちが徐々に落ち着いてきたとはいえ、まだ1人にさせるのは危険だと判断し、合流してもらうように伝えたほうがいいか聞く。
「そっちは人手が足りてると思うよ、グラキエスさん。たぶん、同じ先に助けを待っている人がいると思うんだ」
「なら、俺たちとこのまま行くということだな」
「うん、よろしくね!で、木を隠すっていうことはさ…」
 カエルたちが無事に去っていたかどうか、ベルクの表情を見て確認する。
 にゅっと親指を立てる仕草に頷き言葉を続ける。
「建物のどこかってことじゃないかな」
 新しい建造物がないのを考えると、過去のクリスタロスと変わらない町並みなんじゃないかと言う。
「なら人を隠すなら…とは?」
「うーん…それは……」
「安住の地。この言葉の意図を読み取れば分かりますよ」
「エルデネスト、分かるのか?」
「えぇもちろんです。最も人が安らぐ場所、それはご自宅のことです。個々で好みは違うでしょうが、一般的に考えればですね」
 彼らの言葉に対する回答として、人の住居のどこかにそれらがいるのだと分析する。
「素直に考えればたどり着ける言葉をくれるとは、グラキエス様を気に入ったのかもしれません」
 “楽しい遊びがないといやだ”と素直に言える彼にだからこそ、容易く思いつく言い方をしたのだろう。
「俺を?何故…」
「いえ、ふふっ…。グラキエス様は捻くれた考えを持っていない。それだけのことです」
 エルデネストの言葉に、彼はますます分からないという顔する。
 おかしな方向にかんぐったり捻た考えの者が相手では、いくら時間があろうとも回答にたどりつけやしない。
 命をかけてまで告げることはできない。
 ただ、それだけの違いのことだった。
 ロラたちの一件でワードを選ばなければ自分が罰せられる。
 その件があったからこそ答えてくれたのだろう。
 問いかけたのがこちらが先か、向こうが先かの違いもあった。
 確実な策もなくサリエルと遭遇のは命取り。
 それ故、本来ならば魔性に目撃されるのは避けたかったところだ。
 あちらが先でよかったと思い、ほっと安堵の息をつく。
 一息ついたところで和輝から定期連絡のテレパシーが送られ、エルデネストは水魔がくれたヒントを伝えた。
「さて。連絡も終わりましたし、行きましょうか」
 事の主の居所を探すべく民家を調べ歩くことにした。