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賑やかな秋の祭り

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賑やかな秋の祭り
賑やかな秋の祭り 賑やかな秋の祭り

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 昼、イルミンスールの町。

「……賑やかだな」
「すでに盛り上がっているな」
 部下達に連れられ訪れた金 鋭峰(じん・るいふぉん)羅 英照(ろー・いんざお)は秋の葉が舞い降る中祭りの様子を眺めていた。

「……久しぶりに、心の底から楽しめますね(決戦も終わってようやく一息。まぁ、国防に休みはないけど、世界存亡の危機だけは去ったから団長と参謀長には今日のお祭りを労いと感謝の気持ちとしてプレゼントだから今日は頑張らないと……休む暇の無かったのだから今日くらいは少しだけ羽を伸ばしてもバチはあたらないと思うし)」
「……(大きな危機は去ったから今日は仕事を離れて十分に心身共に休んで貰えればいいが)」
 鋭峰達をこの地に連れて来た部下であり本日の護衛であるくったくなく笑うルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は上司の様子を見つつ最近片付いた災厄の事を振り返っていた。
「では団長、参謀長、本日はゆっくりとお祭りを視察しましょう」
 ルカルカは鋭峰達に声をかけた。立場的にプレゼント云々は少し言えないので建前に労いと感謝の思いを込める。
「……そうだな。案内は任せる」
「……言葉通りゆっくりと視察をするか」
 鋭峰と英照はルカルカ達の建前に隠した思いを読み取るもこちらも立場があるので建前で返した。
「行きましょう。まずは屋台に」
 ルカルカが先頭に立ち鋭峰達の案内役を務め
「……(主催者が主催者だけに何も無いとは思えないから注意はしておくか)」
 主催者をよく知るダリルは殿を務め周囲警護をして屋台巡りを楽しむ事に。

 屋台巡り中。
「……どこもかしこも秋の味覚ばかりだな……このなかなか凝っている仕掛けは確か魔法だったな」
 鋭峰は秋の味覚を食べ歩きながら立ち並ぶ店々や舞い降る秋の葉に目を走らせた。
「……主催者が製作したと聞いたが」
 英照も食べながら頭上を見上げ演出というより演出を生み出す装置が気になるようであった。
「……以前、ハロウィンにて出会った双子ですよ」
 ダリル食べる手を止め、この地で行われたハロウィンにて遭遇した事を伝えた。特徴を話すよりも出会った事を伝えた方がはやいと。
「あぁ、彼らか。あの時は貴重な体験が出来た」
 英照はすぐに双子の事を思い出し、同時に裸眼で世界を見るという貴重な体験をした事も思い出した。
「……参謀長、彼らに会ってもあの時の約束はくれぐれも」
 ダリルは当日にルカルカが英照に結ばせた約束の事を持ち出した。双子を調子に乗らせないためにも褒めるなと言う約束を。
「心配無用、周知している」
 すっかり思い出している英照は笑いを口元に含みながら言った。
 その時
「……ダリル、噂をしたら何とやら」
 ルカルカが民族料理を扱う店で呼び込みをする双子を発見した。
「……だな。しかし、ロズがいないな。あいつらの事だ。何かしらの方法でロズを翻弄しているのだろう」
 ダリルは人工物という事で親近感を抱くロズがいない事に双子が何かやらかしたのだろうと推測していた。
「……どうします?」
 ルカルカはそろりと鋭峰達に訊ねた。引き返すのなら今の内だと。何せ双子と関わるとゆっくりは出来ないので。
 鋭峰達から答えを得るよりも先に
「!!」
 双子に気付かれる方が先だった。
 そのため
「二人共、久しぶり!」
「……ロズの姿が見えないがどうした? お前らの事だから巻いたのだろうが」
 ルカルカとダリルは挨拶をする流れとなり
「久しぶり……というか来てたんだな」
「ロズの事はどうでもいいだろ。んな事よりもちょっと食べて行けよ」
 双子からいつもの文句をたらたらを聞いて来店する事となった。
 その来店の前に鋭峰達を見るなり
「……ハロウィンの時の事ですけど……」
「気にしていないと二人から聞いたけど一応……」
 双子は恐る恐るまさか偉い人だとは思わず悪戯を仕掛けた事を謝り出した。ルカルカ達から鋭峰達は気にしていないと聞いてはいたが本人達を目にしては
「すみませんでした」
 謝らずにはいられなかった。
 それに対して
「……謝る必要は無い。こちらは良い体験が出来、満足しているのだからな」
「ジンと同じく私も貴重な体験が出来た」
 鋭峰と英照は気にしていない旨を伝え、ルカルカ達に続いて来店した。
 その様子に
「ふぅ」
 双子は安堵の顔で見送っていた。

 来店後。
 注文を済ませてから
「……先程の双子と同じ顔をした者がいるが」
 鋭峰はウェイターとして動き回っている女双子に気付いた。
「あれはヒスナとキスナで平行世界の女版の双子ですよ」
「この祭りでは平行世界や死者も招待されているので」
 ルカルカとダリルがすかさず説明を入れた。
「……それはまた興味深い仕掛けだな」
「……死者はともかく平行世界か」
 多少の興味を抱く鋭峰と英照。
「はい。もしかしたら別の世界ではお二人とも立場や姿形が変わっているかもしれませんよ」
「俺達も平行世界の自分達に会いましたがそれほど変わってはいませんでした」
 ルカルカはクスリとしながら言い、ダリルは出会った平行世界の自分達の事を思い出していた。ルカルカに対する考え方違うもう一人の自分を。
「……ほう、貴重な体験をしたのだな」
 鋭峰はたった一言だけだが感想を口にした。
 この後、注文した料理が運ばれ美味しく食べてから店を出た。

 店を出た後。
「……(本当に平和になったなぁ。あの戦いで昇進したし)」
 ルカルカは歩きながら決戦でイーダフェルトの防衛及び光条世界の巨大人型の破壊を任務とした部隊【鋼鉄の獅子】と共に行った任務成功のため先日中佐に昇進した事を振り返っていた。
 その時
「……君は、先日昇進したのだったな。あの時の戦いはそれに見合うものだった」
 不意に鋭峰がルカルカの昇進に対して祝辞を贈った。
「はい。今後とも金団長の理想とする国防のため、全力を尽します」
 突然の祝辞にも関わらずルカルカは瞬時に反応しきっちりとした敬礼で応えた。
「あぁ、頼りにしている」
 鋭峰は口元を僅かに笑みを浮かべながらいつもの調子で言った。
 その言葉を貰ったルカルカはゆっくりと敬礼を解いて祭りを楽しむ体勢に戻った。

「……(こうして平和に過ごす事が出来てよかった。しかし、あの時は参謀長の指揮の下で働く事が出来て嬉しかったな)」
 ふとダリルは決戦での事を思い出していた。決戦では英照はイーダフェルト方面の指揮官となりダリル達は彼の下で働いたのだ。共に力を揮いたいと思っていたため尚更嬉しく思っていた。
「しかし、あの戦いの時のあれは……」
 英照が決戦での事を口にしようとして言わんとしている事を知ったダリルが先回りして
「あぁ、俺が対光条世界を想定して設計し開発した巨砲ラグナロク砲ですね。性能が発揮でき技術者としても満足しています」
 ダリルは戦闘空母ラグナロクを操艦し、開発したラグナロク砲で巨大人型を崩壊せしめた事を思い出していた。
「よくよく考えると俺自身、種族柄、兵器故に……」
 ダリルが言い終わらぬうちに
「兵器が兵器を造ったと」
 先の言葉を知る英照が先回り。
「そうなりますね。しかもラグナロクは俺が繋がるか合体して一体となって動かす仕組みだから……」
 苦笑しながらダリル。
「それでは部品というかオプション兵装のようだな」
 英照がダリルの言葉の続きを継いだ。
「その通りですね。兵器として、自らの性能拡充には貪欲なのです」
 ダリルはにっこり笑って肯定した。
 そんなやり取りをしているうちに
「……花が降って来たが、祭りの趣向か」
「そんなはずはありませんが、もしかしたらあの双子が何か……」
 秋の花が混じって降り出し鋭峰とルカルカは興味を向けた。ただ双子を知るルカルカは危険の有無を気に掛ける。
 そこに
「俺達が何だよ!」
「よぉ、また会ったな。葉っぱだけじゃつまらないと思って追加してみた」
 ひょっこりと双子登場。
「いや、落ち葉を降らすだけでなく花を降らすとは上手く祭りを演出していると思ってな」
「……団長の言葉通り今回はイイ感じだと思うよ。花に何も無ければだけど」
 鋭峰は周囲を見回し通行人の反応から客観的な感想を口にしたがルカルカの感想は含みがあった。
「何も無いよ」
「ひどい言いがかり」
 女双子がむぅとした様子で言った。
 その時
「そうでもないな。あれを見ろ」
 ダリルが示した先では
「ほぅ、特定の花だけが爆ぜているな」
 注目した鋭峰の言葉通り特定の花だけが爆ぜ散り人を驚かせていた。中には触れている最中に爆ぜてしまい尻を打つほど驚いている者もいた。
「二人共、これはまずいよ」
「元に戻すんだな」
 ルカルカとダリルが注意をする。
「……ちょっと驚かせているだけじゃん。折角俺が工夫を盛り込んで作ったのに」
 製作者であるヒスミが真っ先に反論した。
「やっぱりお前か。またやり過ぎたか」
 予想通りの事にダリルは呆れの溜息を吐き出した。
「団長、参謀長、申し訳ありませんが、魔法装置の方に立ち寄ってもよろしいですか」
 ルカルカは鋭峰達に案内をしばし放棄し寄り道する許しを貰おうと聞いた。
「それは構わない。何より視察だからな」
「私もジンと同じく」
 鋭峰と英照は反対しなかった。建前は視察なので祭りに関わる事を見るのは大いに歓迎である。本音ではこのような想定外の出来事に遭遇する事もまた乙だと。
「では、行きましょうか。という事だから四人とも真面目に案内して貰うよ」
「俺達を巻こうなどとは考えぬ事だ。もしそんな事をすれば……」
 ルカルカはにこやかに言うがダリルは馴染みのある射殺すような鋭く冷たい笑みを双子に向けた。
「……分かってるよ」
「何でこうなるんだ」
 双子は特にダリルの笑みに顔を青くし、逆らう言葉は出なかった。何せこれまで怖い思いをしているので。
 その結果、双子達はルカルカ達四人を魔法装置の元に案内した。
 それだけでなく、魔法装置を元に戻す様も見張られていた。
 魔法装置が元に戻った所でロズが駆けつけ、双子達を引き渡した。
 その後、
「……また同じ顔だったが」
「彼も平行世界とやらの住人か」
 鋭峰と英照はまた現れた同じ顔に思わず言葉を洩らした。
 それに対して
「彼は……」
 ダリルがロズについて話し鋭峰達を納得させてから再び祭り視察に戻り夕方までたっぷりと楽しんだ。

 夕方。
 日が傾き始め、ぽつぽつとオレンジの灯りが輝き始める中、ルカルカ達は鋭峰達とのんびりと祭りを見て歩き回った。
 そして別れの時には
「……私はこれからも金団長と共に生きます」
「……あぁ」
 ルカルカの別れの言葉というより決意と覚悟に満ちた言葉であった。鋭峰の返事は手短であったが、互いに気持ちが通じているため長々と言葉にする必要がない。
「今日はよい視察になりましたよ」
「そう言って頂けると光栄です。これからもお二人のため教導団のため尽力していきます。兵器として」
 英照とダリルも互いに本日の感想を言い合った。
 この後、鋭峰の身は別の者に託し、ルカルカ達は英照を警護しながら送った。