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そして、蒼空のフロンティアへ

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「荷物の積み込み終わったぜ〜」
 ウィスタリアのイコン格納庫に巨大なコンテナが固定されたのを確認すると、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)がブリッジのアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)に内線で連絡しました。
 貨物固定用アームでガッチリと固定されているコンテナには、「CHPG035Xβ Break−Shot」と小さく刻印されています。
「ふ〜ん。これが試作機かぁ」
 何やら、少し物々しくもありますが、噂では3.5世代機だということです。もっとも、輸送を担当する柚木桂輔たちにしても、情報がどの程度正しいのかは分かりません。とりあえずは、このコンテナをニルヴァーナへ運べばいいわけです。
「了解しました。ウィスタリア、発進準備に入ります。桂輔はブリッジへ」
 半ば機晶制御ユニットに身を沈めたアルマ・ライラックが、柚木桂輔に答えました。柚木桂輔が輸送屋を始めると言いだしたときにはどうなることかと思いましたが、ウィスタリアを格納庫の肥やしにしないですみましたから、これはこれでよかったようです。
「フローターシステム出力上昇へ。障害物確認、クリア。艦底固定フック、ロック解除、確認」
 アルマ・ライラックが発進シークエンスを遂行している間に、柚木桂輔がリフトを使ってブリッジへと上がってきました。素早くサブコントロールシートに座ると、安全ベルトで身体を固定します。
「繋留索抜索。ディメンションフィールド展開。反発係数加増。離床します」
 空間に、青白い燦めきを発しながら、ウィスタリアがゆっくりと浮かびあがっていきました。海京の空港を低高度で移動していきます。
「補助推進装置、出力10%。誘導ビーコン受信。取り舵10。右舷バーニア開放。3、2、1。カウンターバーニア開放。回頭完了。前進開始します。ガイドマーカー内、移動中。海京、離脱します」
 巨大な機動要塞を手足のように操艦するアルマ・ライラックによって、ウィスタリアが天沼矛を背にして海上へと進みました。
「指定位置到達。制動をかけます。メインシステム出力トップへ。フローティングベクトル修正。パラミタへむかって上昇を開始します」
 九十度艦首を立ち上げると、ウィスタリアが上昇を開始しました。メインブースターに点火すると、遥か上空に見えたパラミタ大陸へとむかって、一気に加速します。
 やがて、見あげる位置にあったパラミタ大陸が、間近に迫ってきます。
 ウィスタリアが、厚く立ち籠める雲海の中へと突入して姿を消しました。
 そして、パラミタ大陸。
 空京沖の雲海から、白い雲を飛び散らせながらウィスタリアの艦首が飛び出しました。素早い制動をかけると、水平飛行に移りました。雲海の表面に着界したウィスタリアに弾かれた雲が、同心円状に広がっていきます。
 白く広がる雲海の中、前方に見える島が空京、そのむこうに広がる広大な大地がパラミタ大陸です。
「進路変更。反転180、ゴアドー島、空間ゲートへとむかいます」
 ウィスタリアを反転させると、アルマ・ライラックは西にあるゴアドー島へと進路を変えました。
 そこには、パラミタのゴアドー島とニルヴァーナの再廻の大地とを繋ぐ、ヴィムクティ回廊への空間ゲートがあります。
「定刻に到着。ゲート開放まで現空域に待機します」
 巨大なリング状のゲートの前でウィスタリアが停止しました。ゲートのむこうには、ゴアドー島の空間港が見えます。
『定時ゲート開放を開始します。ニルヴァーナへとむかう艦艇は、指定場所に移動の後、誘導に従ってください』
 やがて、空間港のアナウンスが届き、ゲートを利用する飛空艇がゲート前へと移動を開始しました。
「ウィスタリア、変形開始。突撃形態へ移行します」
 アルマ・ライラックが、ウィスタリアの変形を開始しました。左右に副船体を持つウィスタリアは、通常は前方にむかって副船体を開いた形態をしています。これによって主砲の射界と、艦載機の離発着進路を確保しています。稼働部を持つ左右の副船体接舷部を動かすことによって、船幅を最小化し、ジャマー・カウンター・バリアを使った突撃形態に変形できるのです。
 ゲート直径は100メートルのため、接触事故を防ぐためにも、船幅全高を最小にする形態に移行するわけです。
 けれども、先頃発見されたゲートの機能により、現在ではゲート直径は格段に拡大することができるようになりました。それでも、事故を防ぐためにも、ゲートをくぐる船体は小型であることにこしたことはありません。
『ゲート、時空潜行開始します』
 アナウンスと共に、ゲートが回転し始めました。全長100メートル弱ある円筒形のゲートの片端が、目映い光につつまれながらゆらぎ始めました。時空に穴を開け、じりじりと食い込んでいっているのです。ゲート内の空間がゆらぎを増していき、ゲート越しに見えていたゴアドー島の空間港がまるでカメラの焦点を外していったかのように霞んで消えていきました。替わりに現れたのは、夜のような漆黒の空間、ヴィムクティ回廊です。
 ちょうど全長の半分まで異空間の通路に食い込んだ状態でゲートが止まりました。その場でゆっくりと回転を続け、亜空間ゲートを維持します。以前はここまででしたが、現在ではさらにゲートの拡張が可能となっています。回転していたゲートが分離し、八つの円弧状のユニットとなります。そのまま亜空間ゲートを維持しつつ、ユニット間にフィールドバリアを展開してゲートそのものを倍の大きさへとこじ開けていきました。
 ニルヴァーナの遺跡とポータラカの技術によって構築されたゲートですが、拡張機能が判明したのは、再廻の大地の西にあった古代の空間港の遺跡にあったゲートのシステムを解析してからでした。分離合体式のそのゲートは、空間港にあったヴィマーナ艦隊との戦闘によって破壊されましたが、なぜ複数ユニットに分離しているのかが謎でした。けれども、そのコントロールシステムの一部が遺跡として残っていたため、分析が可能となったのでした。
「ガイド信号きました。回廊内へ進行します」
 ゲートの管理システム部から指示を受けると、アルマ・ライラックはゆっくりとウィスタリアをゲート内へと進めていきました。