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秘密のお屋敷とパズリストの終焉

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秘密のお屋敷とパズリストの終焉

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【ところで、犯人を捜すひとたち】

「謎、ねぇ」
 謎解き開始の合図が鳴った頃。東江 抄子(あがりえ・あやこ)奏子・東江(かなこ・あがりえ)のふたりは、玄関ホールに残っていた。
「私が頑張ってあれこれしなくても、みんながやってくれそうだし……」
 早々に方々へ散っていった契約者達の姿を思いながら、抄子はううん、と考える。謎を解けと言われてもそんな気分ではないし、どうしたものか、と。
「とりあえず、にっくきヘンゼルとグレーテルはシメるっ!」
「え、奏子?」
 突然の奏子の言葉に、抄子は戸惑う。特にヘンゼル、グレーテルと名乗る二人組に、恨みもつらみも無いはずなのだが。初めて聞いた名前だし。
 だが、奏子にしてみれば、「大好きなお姉ちゃんとの時間」を台無しにしてくれた憎い奴なのである。さらに言えば、先ほどまで行われていたパーティーの間、パトリックがちらちらと二人のことを見て居たのを、「あの男、もしかしてお姉ちゃんを狙ってる?」と勘違いして嫉妬の炎に身を焦がしていたのである。そこにさらにヘンゼル達が絡んできたことで、現在奏子の頭の中では、「まさか、グレーテルも……!」とまで妄想が膨らんでいる。
「……まあ、謎解きは放って置いても大丈夫そうだし、犯人を捜してみるのも良いのかもしれないわね」
「行こう、お姉ちゃん!」
 やる気十分の奏子に推されるようにして、抄子は犯人捜しを開始する。
 ただ闇雲に探しても見つからないだろうから、普段は来客が立ち入らない二階に的を絞り探してみることにした。
 とりあえず、片っ端から部屋という部屋の扉を開けてみる。中には既に捜索を行っている部屋もあったが、そういった所はスルーである。
 だが、誰も探していないところ、となると、後開けられる扉はトイレとかパントリーとか掃除用具入れとか、そういう小さい部屋とも呼べない空間ばかりとなる。
「うーん、まあ、そう簡単に見つかるとは思わないけど……」
 次に開けた扉の先にはシーツが詰まっていた。流石にシーツの隙間に隠れている犯人、なんて格好が付かないだろう。抄子はそっと扉を閉める。
「出てこい、ヘンゼル、グレーテル!」
 だが、奏子はなんというか、執念と気迫でヘンゼル達を探している。それこそ、シーツの隙間まで改める勢いだ。
「……出てきた方が、あなたたちのためよー……」
 そんな奏子の様子に、抄子は思わずヘンゼル達の方を心配してしまう。が。
「おおおお姉ちゃん、まさか……ヘンゼルとグレーテルの心配なんて……!」
「し、してない、してないわよ!」
 要らぬ勘ぐりをして嫉妬に身を焦がし始める奏子に、抄子は慌ててフォローを入れる。だが、時既に遅し。
「お姉ちゃんは渡さないんだからあぁ!」
 奏子に抱きつかれた抄子は、その場にバランスを崩して倒れ込む。これではもう、捜索どころではない。


「へーんぜーるやーい。ぐれーてーるやーい」
 暢気な調子を付けて、まるでかくれんぼした子どもを探す親の様な足取りで屋敷内を探しているのは、ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)だ。
 ルカもまた、謎解きではなくヘンゼルとグレーテルを探そうと行動している。だが、あまり緊迫した雰囲気ではなく、それこそ、かくれんぼを楽しんで居るという様子だ。
「……絶対楽しんでるだろ」
 そんなルカの後から、ハイドシーカーを使いつつついてくるのはコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)だ。こちらは割と真面目に犯人捜しをして居る様子。
「だって、どうせこっちの様子は全部見て楽しんでるでしょ。だったらこそこそ探すだけ無駄じゃない」
 コードのツッコミにも、ルカは気にする様子を見せない。コードはため息をついて、引き続きハイドシーカーでの調査を再開する。
 だが今のところ、ハイドシーカーの画面に映るのは謎を探している人々と思しき点ばかりだ。
「誰かに仮装してたり、隠れてたりするかもしれないわね」
 そう言いながら、ルカは台所の戸棚の中を探している。流石にそんな所には居ないと思うのだが。
「うーん。絶対、屋敷の中にはいると思うんだけど。監視カメラとかあったりは……しないよね」
 ヘンゼル達がこちらの様子を監視して楽しんでいるのは間違い無い。だが、たった二人で屋敷中全てを見て居られるとは思わないから、監視カメラの一台でも付けているかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「へーんぜーるやーい」
 ルカは再び、妙な調子を付けて二人の名前を呼びながら、一階を順に歩いて行く。
 と。コードが足を止めた。
「待て、アコ……何か居る」
 コードが使っているハイドシーカーに、反応があった。が。
「……そこの……時計の中?」
 ハイドシーカーの反応と、現実のものの位置を照らし合わせていくとどうしても、その反応は玄関ホールの大時計の中から発せられているとしか思えない。コードはつかつかと時計に歩み寄りながら、ハイドシーカーの機能で相手の力量を測ろうとする……が。
 ぼんっ、と派手な音を立てて、ハイドシーカーが爆発した!
「どうやら……相当の使い手だな」
 ハイドシーカーは、相手の力量が大きすぎた時爆発するという――エラーがある、のか、仕様、なのか――になっている。ということは、やはりこの中にヘンゼルとグレーテルが潜んでいる可能性が高い。コードは慎重に、時計の様子を見る――が。
「ヘンゼルー、グレーテルー、出ておいでよー!」
 ルカの方はというと、実に警戒心のない口調で呼びかけると、大時計をばんばん叩く。
「おい、何を――」
 コードが止めようとするが、聞く気はあまりないようだ。
 ヘンゼルぅ、グレーテルぅー、とルカの暢気な声が何度か響いて――
「ああもうっ、ウルサイっ!」
 ぽん、と煙が立って、どこからとも無くぼさぼさの髪を左右に結って、大きく爪先のとんがった靴を履いている少女(あるいは少年)が現れた。酷く潰れた濁声で、胸はぺったんこ。ミニスカートを穿いているから多分少女だろうが、少年と言われたらそうなのかと納得する。
「あっ、出てきたー!」
「まったく、ウルサイったらありゃしない。折角ボク達が極上の謎を用意して上げたっていうのにサ、解きもしないで! こんな所にボクが出てくる予定なんて無かったのに、あんな暢気な声でギャーギャー騒がれたら、やってらんないヨ!」
「まあまあ、詳しい話はお茶でもしながらどう?」
 戦闘になっても良いように、逃げられても良いように、と気を張っていたコードは、ルカの突然の提案に思わず脱力する。
 それは、ヘンゼル(あるいはグレーテル)の方も同じだったらしい。
「お茶なんて! ボクがはいはいと付いていくトでも思うのかい?」
「だって、あたしたちはお茶をしに来たんだもの。ね、あたしアコ。お茶しましょ」
 あっけらかんといって自己紹介まで始めるルカに、コードは思わずため息を漏らし、ヘンゼル(仮定)はおお、と天井を振り仰いだ。
「わかった、わかったヨ。謎が解けたら付き合ってあげる。だから頼むから、この崇高な謎解きの時間を邪魔しないでくれ給へ」
 ヘンゼルはそう言うと、現れた時と同じ唐突さで消えた。
 多分また時計の中に居るのだろうが、違うのかも知れない。ハイドシーカーは壊れてしまった。
 逃げられた時のためにピーピング・ビーを用意して居たコードだったが、極度の脱力の中にあって、起動するのを忘れてしまった。
「……残念。みんなが謎を解いてくれるのを期待するしかないわね」
 ルカはそう言って、肩を竦めて見せた。