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里に帰らせていただきますっ! ~ 地球に帰らせていただきますっ!特別編 ~

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 ■ 料亭でのひととき ■



 ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)を里帰りに同行するにあたって、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は彼女がいつでもパラミタに戻ることが出来るよう、手配を整えておいた。
 里帰りに付き合って欲しいと頼んだら、ティセラは快く、構いませんわよと答えてくれた。けれど、それが忙しい仕事の合間を縫ってのことだと祥子は知っている。頑張っているティセラの妨げにならぬよう、何かあった際の戻る手段は確保しておきたかった。

 里帰りへの同行を頼みはしたけれど、祥子は実家には行かなかった。
 代わりに、通っていた学校や城跡、水遊園などを見て回った。
 祥子の案内する場所のどれをもティセラは楽しそうに眺め、時には興味をもって質問を差し挟んだ。
 そうしているティセラを見ると、ここに連れてきて良かったという気持ちが湧いてくる。
 いつまでも珍しいものを眺めていそうなティセラだったけれど、あまり疲れさせては悪いからと、祥子は頃合いをみて料亭に入って休憩を取った。


「久しぶりに戻ってきても変わり映えがないわね。良くも悪くも変化がないわ」
 少しの店の入れ替わりがあったり、新しい建物が増えていたりはするけれど、それ以外、目を引くような変化は見られない。祥子にとっては見慣れた場所だ。
「変わらないからこそ良いものもありますわ」
 それが故郷なら尚更、と言った後、ティセラは思いついたように祥子に尋ねた。
「故郷といえば……ご実家に顔をお見せにならなくてもよろしいんですの?」
 里帰りというから、てっきり実家に帰るものだと思っていたというティセラに、祥子は苦く笑う。
「自宅に近づかなかった理由はね、家出&勘当中だからよ」
 それを聞いたティセラははっと口元に手を当てた。
「立ち入ったことを聞いてしまったようですわね。ごめんなさい」
「いいえ、ティセラが謝ることじゃないわ。聞かれて悪いことでもないし……まあ、心情的にはともかく表向き悪いのは私なんだけど」
 祥子の気持ちがどうであれ、見合いもせず家出して、父の顔を潰したのは確かなのだから。
「これは私とお父さんの意地の張り合いだし、仲直りはまず無いわね。仮に仲直りする方法があるとすれば、私が頭を下げて、お父さんが納得する結婚相手を連れて行くことかしら?」
 父が折れることなど考えられないから、仲直りするには自分が折れるしかない。けれど祥子としても折れることは出来ないから、2人の関係は平行線を辿るばかりだ。

 父に反発し家出して、祥子はパラミタに逃げ込んだ。空京でパートナーを見付けて契約者となり、学費無しで学べて生活の保障をしてくれると聞いてシャンバラ教導団に入った。
 ただ生きるために必死だった中、祥子はティセラに会ったのだ。

「実はさ、最初は部下になりたくて貴女のところに行ったんじゃないのよ」
「あら、違ったんですの?」
「ええ……」
 今なら明かしてしまっても良いだろうと、祥子はティセラに打ち明ける。
「ヴァイシャリーの舞踏会のときに貴女の話を聞いてね、貴女には部下や同志より友達が必要だと思ったの」
 洗脳された中の記憶だから結局見当違いなのだけれど、決して裏切らない友達がティセラには必要だと思った。けれどいきなり教導団員が友達になりますと言っても受け入れられそうになかったから、部下という体裁を取って祥子はティセラに近づいたのだ。
 そう聞いたティセラは微笑んだ。
「私の心を慮って下さったんですのね。ありがとうございます。とても嬉しいですわ」
「いいえ、こちらこそありがとうティセラ。貴女のお陰で私はパラミタで初めて生きる目的を得た」
「ふふ、大袈裟ですわね」
 ころころと笑うティセラに、本当よと祥子は力をこめた。
 祥子はティセラに本当に恩義を感じているし、友達としてできる限りのことをしてあげたいとも思っている。
(でもきっと……それは友情というより愛情のほうが前に来るんだろうな)
 もちろん友情だって強く感じている。けれど目の前で可愛らしく笑っているティセラに感じるのは、それよりも愛情に近い心を揺さぶる想いだ。
「……ティセラ。今日ここに誘ったのはね、この機会を逃したらこの街を見てもらう機会はもう来ないと思ったからなの。ココに来る機会。貴女を誘える機会。地球とパラミタがつながってる期間……色んな意味で」
 だから祥子はティセラが忙しいのを承知の上で、里帰りに誘ったのだ。
 自分が育ってきた場所をティセラに知ってもらう機会が今後あるのかどうか分からない。今しかない、と。
「誘っていただけて嬉しかったですわ。アムリアナ様と共に守っていく大切な場所である地球を、こんなにも見られたんですもの」
 おっとりとティセラは微笑む。
 ティセラに自分の気持ちを知って貰うには、はっきりと伝えるしかない。
 そう決めて祥子は切り出した。
「私は、ティセラに限らず誰かにとって、良き友人でありたいと思ってる。けどね、やっぱり貴女は特別なんだ」
「特別、ですの?」
「ティセラー。私、きっとあなたのこと愛してる。恋人になりたいって訳じゃない。けど素直な気持ち」
 祥子は想いのままティセラに告げ、どんな反応が返ってくるのかと、息を詰めて待った。
 ティセラは笑顔のままで答える。
「嬉しいですわ」
 ですが、とティセラはそこでふと真面目な顔つきになった。
「あなたにはわたくしよりも相応しい方が既におりますわよ?」
 思わぬ返事に祥子は戸惑った。
「え? それはどういう……」
「縁あって結ばれた絆は尊いものですわ。今はわたくしのことよりも、その縁を大切にするべきだと思いますわ」
 その人をどうか大事にしてあげてくださいねと、ティセラは祥子に頼んだのだった。