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戦いの理由

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戦いの理由

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「弱った飛兵の小隊であれば、私達にも退けられるでしょうか」
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、パートナー達と、ワイルドペガサスに騎乗し、戦場に出ていた。
「地上戦で龍騎士がいなきゃ大丈夫だとは思うけれど、空中戦となるとこっちの乗り物は冒険向きだからかなり不利だね……」
 パートナーのうち、リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)のみ、エターナルコメットに乗っている。スピードは小型飛空艇の2倍は出るのだが、やはり戦闘機や戦い慣れた飛竜のような動きは無理な乗り物だ。
「心していこう」
 リュミエールはエメとジュリオにパワーブレスをかけた。
「敵の動きは彼が止める。だから何も問題はないだろう」
 ジュリオ・ルリマーレン(じゅりお・るりまーれん)が言う。
 彼とはかつての仲間、ファビオのことだ。
「タイミングを合わせて参りましょう」
 片倉 蒼(かたくら・そう)は一番後方につき、周囲の状況捉え、仲間達に気を配っていた。
 先頭にジュリオとエメ。
 そのすぐ後ろにリュミエール、そして一番後ろが蒼だ。
「飛兵が来ます。一旦後方へ……!」
 従龍騎士と龍騎士の小隊がこちらへ接近してくる。
 エメが通信機で地上に呼びかけると、中距離攻撃を行っていたイコン小隊が後方へと退いていく。
 次の瞬間に、後方から強い風と、真空の刃が向かってくる。
 エメ達脇を通り過ぎて、強風と刃は敵小隊を襲い、切り裂いていく。
「全速力で直進します。お願いしますね、セラフィナ」
 仲間とペガサスに呼びかけた後、エメは従龍騎士に向って突撃。
 手綱から手を離すと、プリンス・オブ・セイバーとブライトグラディウスをそれぞれの手に持ち、体勢を立て直そうとしている従龍騎士に斬りかかった。
 ――今は、ただ。
 エリュシオンの侵攻を止める為に、全力を尽くさねばならないから。
「一人だけいる龍騎士が小隊長かな……!」
 リュミエールは小隊に向かい、凍てつく炎を放った。
 炎と氷が、龍騎士を襲う。気を取られた瞬間に。
 チャージブレイクで力を溜めたジュリオが斬り込む。
 ハイアンドマイティを振り下ろした先は、龍騎士ではなくドラゴンだ。
 片翼を斬り落し、地上へと落とす。
「……っ」
「ぐ……っ」
 降下しながら龍騎士が繰り出した衝撃波が、4人を襲う。
 エメとジュリオは負傷しながらも耐える。
 リュミエールのことは蒼がガードラインで護っていた。
「次の飛兵来ます」
 蒼はすぐに、エメとジュリオをヒールで治療する。
「頼むよ、2人とも!」
 更に、リュミエールは命のうねりで全員を癒した。
 風がまた後方から吹いてくる。
「……!」
「通しはしない!」
 風に乗ってスピードを上げ、エメが左、ジュリオが右の従龍騎士を斬り倒した。

 次の小隊に向かう前に、蒼とリュミエールは驚きの歌で、皆の精神力を回復させていく。
 エメは汗をぬぐい、呼吸を整えながら――。
 こんな時にでも、思ってしまう。
 本当に相手を殺す事は悲しいことだ。
 人が人を殺すことは何があっても正当化されるものではない。
 それでも、戦争状態のこの場で、相手はこちらを殺すことを躊躇わない状態で、迷う事は自分だけではなく、周りにも影響を与える事。
 自分は殺したくないからと、守護に回るという事は、自分の代わりにだれかが殺しているという事。
 だから、戦闘中は押し殺して無言を通して戦っていた。
「こういう時……どうしていたのでしょうか?」
 敵を見据えたまま、エメがジュリオに問いかけたその一言で、ジュリオは彼の感情を理解した。
「私には守りたい者がいた。家族に女王。女王の親族。そして共に戦う仲間。特に、戦場では仲間の存在が大きかった。女王に心は預け、部下を死なせないために、戦う。そうしてきた。……そして今は、お前達がいる」
 エメはその返答に、頷いて少しだけ表情を和らげた。
 そして、次の敵に向かっていく。大切なパートナー達と共に。

「大きな音するね。地震もすごいね……」
 要塞の屋上で、レイル・ヴァイシャリーは怯えながらも、女王器を使い続けていた。
「大丈夫です」
 ヴァーナーは、彼の傍で、頭を撫でてあげていた。
 攻撃を受けることも勿論、相手が倒れる姿も、レイルには耐えがたいもののはずだ。
 だから、ヴァーナーはイコンで、レイルの視界を塞ぎ、彼には戦場を見せずに励まし続けていた。
「レイルちゃんはみんなをまもるためにがんばってるんです。えらいですよ〜」
 こくりと頷くレイルの元に、ファビオが戻ってくる。
「飛兵だけでも押えておかないと、内部に入られたら終わりだからね」
 レイルに魔法の威力を上げてもらい、戦場上空を飛びながら発動。
 彼はそのような戦い方をしていた。
 表情に表さないように努めているようだが、本来以上の力をコントロールしていることもあり、かなり負担が大きいようだ。
「あなたはホント、無茶ばかり」
 言って、マリザが激励で、ファビオの精神力を回復させる。
「決して突出しすぎないで。あなたを失ったら、風の魔法に対抗する手段がなくなるわ」
「元々、向こうの隊長に対抗できるだけの資質は俺にはないから。俺がいなくなったくらいじゃ何も変わりはしないよ」
「ったく」
 ファビオの返答にちょっと膨れると、マリザは彼の頬をぎりぎりっとつねり上げた。
「そういう考えが、仲間をも危険にさらすのよ! あんまり無茶するようなら、背後からぶちのめして、気絶させて連れ戻すわよ」
 つねられた頬を抑え「変わってないな……」と苦笑しながら、ファビオはレイルに近づく。
「レイルの方にも疲れが見え始めている。敵の大技を防ぐことを一番に考えなければならないからな、今回はお前の無茶はお前だけの被害では済まされないぞ」
 コウがレイルを気遣いながらそう指摘する。
「わかってる、気をつけたい……んだけどね」
 こうしている間からも、通信機から緊急を告げる支援要請が響いてくる。
「本当に辛くなったらちゃんと皆に言うんだよ?」
 言って、ファビオはレイルの頭にぽんと手を置いた。
「うん。お兄ちゃんもね」
 レイルがファビオに女王器の力を使う。
 光の翼を広げ、風の魔法を発動させながら、ファビオは戦場の方へと飛んでいく。
「幸い、怪しい人物の接近はないようですわ」
 セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)は味方にも警戒を払っていたが、レイルの傍にいるのは以前から彼を助けてくれている、信頼できる者達だけだった。
 要塞前の砲撃部隊、要塞からの砲撃、そしてこの風魔法による接近の妨害により、今のところ、敵の飛兵がこちらに接近してくることもなかった。
「油断は出来ないのですわ」
 その後も、報告に現れる味方の兵一人にでさえ、セツカは注意をしレイルへの接近を許さなかった。
 ドン、ドドドドン
 要塞から発射された砲弾が、敵イコンに向かっていく。
 レイルは小さく悲鳴を上げて、青くなっている。
「レイルのことは、僕達が必ず守りますから、大丈夫ですよ」
「ホントだよっ。こんなに頑張ってくれてるレイル君のことは、皆も守りたいって思ってるはずだから。大丈夫なんだよ!」
 葉月ミーナは膝を折って、レイルと目線を合わせて微笑みかけた。
「うん、ちゃんと皆のこと守らなきゃ……。本当はボク自身がもっと強い魔法使えれば、あの人もあんなに頑張らなくていいんだ。皆のことも、もっと守れる。……ボクだって、みんな、大事……だし」
 恐れながら、怯えながらもレイルはそう皆に気持ちを伝えていく。
「子供の頃からそんなに強くある必要はありません。大人になるために、色々学んでいくことが大切な時期です。そんなレイルに、このような場所で、戦いに加わっていただかなければならないことはとても悲しいことですが……」
「全てレイル君が、古代シャンバラ王家の血を引いてるから、なんだよね。辛い思いさせちゃってごめんね」
「でも……皆を守るために、何かが出来るっていいこと、なんだよね?」
 そんなレイルの不安に満ちた瞳に、葉月とミーナは微笑みを見せながら、頷いた。
「真意はわかりませんが、あなたのお姉様も、戦っておられます。恐らくは自らを囮として」
 葉月はそう付け加えた。
 レイルは深く頷いて、深呼吸する。
「そろそろ、休憩をとる必要がるだろう。女王器は使えないが、オレとマリザは交代でここの監視に当たるつもりだ」
 コウがそう言い、空から戦況を見守っていたマリザが通信機でファビオを呼んだ後、下りてくる。
「……ボクもいくです」
 レイルを不安にさせないよう、微笑みを消さずにヴァーナーがそう言った。
「ほら、いいから休みなさい、それも仕事のうちよ」
 戻ってきたファビオを、マリザがぐいっと引っ張って、階段室の方へと押し込んでいく。
「それじゃ、レイルちゃん。先にごはんたべて、ねむっててくださいです。あとでボクもいくですよー」
 ヴァーナーはレイルをなでなでした後、手を振ってスノウィンに騎乗して、飛び立った。
「うん、待ってるから。皆で一緒に寝ようね……っ」
 レイルは心配そうにヴァーナーに言った後、休憩を取るために葉月、ミーナと共に要塞の中へと戻っていく。
「撃退は無理ですけれど、どうにか抑えないといけませんわ」
 セツカはヴァーナーを案じて空を見上げる。
 ヴァーナーはこちらに敵を寄せ付けないことと、ピンチの味方を護るために、付近を旋回していた。
「屋上からの侵入は確実に防ぐわよ」
「勿論だ」
 マリザとコウは砲台の傍に潜み、戦況を見守っていく。