波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【ニルヴァーナへの道】奈落の底の底(後編)

リアクション公開中!

【ニルヴァーナへの道】奈落の底の底(後編)
【ニルヴァーナへの道】奈落の底の底(後編) 【ニルヴァーナへの道】奈落の底の底(後編)

リアクション

 
第15章 御座船内外・2

 相田 なぶら(あいだ・なぶら)は、パートナーの機晶姫、相田 美空(あいだ・みく)と共に、御座船の護衛に務めた。
「じゃ、サポート宜しくね。
 でも、無理は禁物だから。危険だと判断したらすぐに下がってね」
「………………」
 美空はじっとなぶらを見つめる。
 美空が索敵し、なぶらがそこに突っ込む。その作戦を聞いた美空は、
(その戦法では、なぶらさんばかりが危険な目に遭いますわ……。
 でも、そういう指示なら従うべきなのでしょうか……)
と案じたのだ。
(……いえ、なぶらさんは、無理はしない範囲で、「サポートを宜しく」とおっしゃったのです。
 前に出ようとするのではなく、私は、できる範囲でサポートをできることを考えるべきですわ……)
「み、美空?」
 そんな美空の心の声が聞こえるわけもなく、じっ、と見つめる美空になぶらはうろたえる。
 やがて、こく、と頷いた美空にほっとした。

 二人は御座船の甲板に出、ハイドシーカーを使って美空が敵の大まかな分布を調べようと試みる。
 だが、精度を調節した途端、それが爆発した。
 美空はその小さな爆発から身を引いて避ける。
「美空! 大丈夫?」
 驚くなぶらに、美空は頷いた。
 御座船に向かう敵は、予想していたよりも少なかったが、全体的に、この空間に充満している敵は多い。何よりも、
(巨大良雄さんに反応してしまったようですわね……)
 爆発する一瞬前の反応を思い出し、美空は思う。
 とにかく、ハイドシーカーに頼らず、索敵をしなくてはならない。
 幸いにも、視界は良好で、視覚である程度までの判断はできそうだ。
 なぶらは美空の判断に任せて様子を窺う。
 ふ、と美空が顔を向けた。
「……あっちだね!?」
 問うと、こく、と頷く。
「よし、美空は待機してて!」
 氷雪比翼を使って突っ込むなぶらに気付き、屍龍の群れが群がってきた。
 その背に乗る奈落人は、もはやゾンビではないが、屍龍に対しては効果があるはず。
 なぶらはできるだけひきつけて、バニッシュを放つ。
「ギャアッ!」
 致命傷には至らなかったが、龍が暴れ、奈落人が振り落とされた。



 ダイヤモンドの騎士が具現化させた恐竜の群れは全て倒したが、いつ来るかも知れない次の襲撃に備えるべく、甲板に出た。
 ドージェに会いにいく為、全力の戦闘でこの場を凌がなくてはならないことは解っている。
 最も、巨大良雄とやらの防衛は国軍などの精鋭がやるのだろうから、自分は御座船の防衛だ。
 いざという時の為に、今迄英気を養っていた。
 しかし。

「パンツが……パンツ分が足りねえんだよ!」

 国頭 武尊(くにがみ・たける)は叫んだ。
 人に糖分が必須であるように、自分にはパンツ分が必須なのだ。
「くそう、かくなる上は、自力生産するしかねーか。
 ここは想像が現実になるらしいしな」
 ならば思い描くのは、過去の後悔、パンツを手に入れ損ねた相手、女神イナンナだ。
 パンツ入手に失敗した挙句に放校処分まで食らってしまった。
 逆恨みには違いないが、イナンナのパンツが欲しい! イナンナのパンツ!!!
 セコールブランドのパンツを身につけたイナンナ出てこいぃぃ!!!

 ……という切なる願いが通じたか、武尊の前に、高級下着を身につけたイナンナの姿が現れ、武尊のテンションが上がった。
「やったぜ……!!」
 イナンナは微笑み、パンツに手をかける。
「これをご所望ですか?
 ……では、今脱ぎますから、こちらに」
 おいでください、と手を差し延べるイナンナにフラフラと近付いて、

「危ないっ!」
「ぎゃあっ!!」
 目の前を焔の渦が通る。
「大丈夫ですか!?」
 五月葉終夏のヴォルテックファイアによって、ウミウシが燃え上がった。
 一気に近付いて来ようとしたウミウシを阻み、ニコラ・フラメルが防御のアイスフィールドを展開する。
「あああーっ!
 オレの、オレのパンツがーっ!!」
 喜びがマックスだっただけに、絶望も大きい。
「しっかりするがいい。
 あれは君の望むものではない」
 ニコラが呆れて正気に戻そうとするが、武尊の落胆は大きかった。



「ゴラァァ! 良雄ぉ!!」
「ひいっ! 何っスか!」
 凄味を利かせたゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)に、良雄は縮み上がった。
「てめぇ、デカVerてめえがカツアゲされてんのを何ふんぞり返って見てやがんだ。
 てめえもさっさと、小銭を出せや!」
「ええっ、でも俺」
 前にカツアゲされそうになった時、所持金は無いのだと訴えたはずなのだが。
「金が無いだぁ!? そんな理屈が通用するか!
 無けりゃ、出るまでジャンプするもんだろうが、なめてんのか、ゴラァ!」
 そっちの方がよほど、そんな理屈が、と言ったところだが、筋金入りのパラ実生であるゲブーに、そんな理屈は通用しないのだった。
 パートナーの地祇、バーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)も、両手にハサミを持ってモヒカンの準備をしながら、フレーフレーア・ニ・キ! と声援を送っている。
『待て。大帝に無理を言うな。
 カツアゲジャンプなら私がしよう』
 ダイヤモンドの騎士が割って入り、その姿を見て、ゲブーは目を見張った。
 胸元が大きく割れた、ダイヤモンドの騎士の鎧。
 そこからは、Fカップのおっぱいがどどんと溢れていたのだ。
「……ひゃははは!
 やっぱり俺様のおっぱいセンサーは正しかったじゃねーかよ!」
 ケブーは勝ち誇って笑い出す。
 ダイヤモンドの騎士がジャンプをする度に、その爆おっぱいが、上下に揺れ……

 ……などということが、現実に起きるわけがなかった。
 気がつけば、ケブーはウミウシに襲われて瀕死の状態だった。
 バーバーモヒカンが泣きながら助けを呼びに走り、龍騎士が駆け付けてくれて、助かったのだ。
「……生まれ変わったらモヒカンになりてえな……」
「しっかりして、アニキ! おっぱいも不死鳥だよ!」
 今際の言葉に、バーバーモヒカンが必死に慰めた。



「想像の具現化か。
 さすがナラカ、何でもアリか。
 油断しないようにしねえとなー」
 巨大良雄の防衛の為、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は、良雄に食い付くナラカの生き物を、片っ端から叩きのめして行った。
 虚無霊とはまた違う、よく解らない魔物のような物達が、無数に貼りついている。
「食べて」いるようだが、良雄の体が欠けて行く様子はない。
 何なんだと思っていたが、後で聞いたところによると、良雄は、その全体的な質量が縮み続けているというのだった。

 ふと、違う気配を感じて顔を上げる。
 屍龍の背に、奈落人の姿を見留めた。
 こちらに向かっている。
「ふっ、俺向きの相手ってところか?」
 奈落人が弓を放った。
「甘え!」
 そのような遠距離から撃つ矢など、見極められる。
 だが、躱したラルクの背後に、激痛が襲った。
「何!?」
 振り返ると、背中に矢が刺さっている。
 前方から撃たれたのだ。有り得ない軌道を通ったとしか思えなかった。
「ちっ、小細工を仕掛けやがって!」
 背に矢を刺したまま、ラルクはだんっと足場(良雄の肩である)を蹴って、屍龍に飛びかかる。
 奈落人は手綱を引いたが、龍の顎を蹴り上げて、その頭上に飛び乗る方が早かった。
「うらぁぁぁぁ!!」
 一気に首筋を滑って、奈落人に拳を叩き付ける。
 殴り飛ばされ、屍龍の背から落ちる奈落人の手から、弓を奪い取った。
「普通の弓だな……ん?」
 びっしりと紋様が描かれてはいるが、形は普通の弓だ。
 と思ったその時、弓がみるみる消えてなくなった。
 ラルクの背に刺さった矢もだ。さすがに、傷は残っているが。
「……? どういうことだ」
 ラルクは、奈落人が落ちた先を見下ろした。



 白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は、深呼吸をひとつした。
「これが、ナラカの空気ってやつか」
 デスプルーフリングの効果で、純粋なナラカの空気を吸っているのではないのだろうとは思うが、そこは気分というやつだ。
 ここがナラカ。
 ここに、ドージェがいる。
「ククク、いいねぇ、ゾクゾクして来やがったぜ!」
 蹂躙飛空艇に乗って飛び出す。
 ちょうどそこに居た小型の虚無霊を轢き潰しつつ、目は別の獲物を狙って飛び上がった。
 片手に小型飛空艇の操縦桿を握り、片手に剣を握る。
 屍龍に乗って向かって来る奈落人の姿が見え、にやりと笑った。
「俺向きの相手だな。
 属性がどうのと考えるのは面倒くせえ!」
 奈落人が使うのは、弓などの遠距離用武器だったが、威力が凄まじかった。
「……何だっ?」
 龍鱗化した体でそれを受けながら、ビリビリとした痺れに顔を顰める。
 毒ではない。だが見極めようとするのはすぐにやめた。
 何だろうが、ぶった斬ってしまえばいいのだ。
 相手より小型であることを生かして、動きを予測しながら高速移動で背後に回り込む。
「死ねえ!」
 叩き斬り、斬りながら、目は既に次の獲物を狙っていた。