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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

リアクション

「ぱんだああああ〜(あぢいいいい〜)……」

 実は遺跡進入の際、気合いを入れて、いの一番に突入していたのは『怪人垂ぱんだ』こと朝霧 垂(あさぎり・しづり)率いる『ダークサイズぱんだ部隊』。
 あまりの蒸し暑さで、全ぱんだはあっという間に溶けるように垂れてしまい、垂とぱんだたちはダイダル卿に体中にまとわりつくようにおぶさって、運んでもらっていた。

「最初の元気はどこにいったんじゃ。シャキッとせんか」
「ぷゎんだぁ〜(今充電中だからよ〜)……」

 傍から見ると、ダイダル卿がぱんだ柄の鎧を全身に纏っているように見える。
 ダイソウは、そんなダイダル卿のなりを見て感心し、

「なるほど。ぱんだ部隊はそのような活用もできるのだな」
「別にこやつらを装備しとるわけではないんじゃが」
「ダイダリオン、いや、ぱんだりおんといったところか」
「やかましいわい……」

 古代神の本名への敬意のかけらもないあだ名に、若干憮然とするダイダル卿。

「ぱ、ぱんだりおん……」

 結和のキラキラした目で見られ、ダイダル卿はどうにもむずがゆい。

「ぱんだりおん……ぶぷっ」
「笑うでないわい、クマチャン」
「いで! ぱんだるパンチすんなよ」
「妙な技名をつけるでない!」

 ダイソウへの詫びを済ませ、前を歩いていたグラキエスが、突然膝をつく。

「うっ……」
「どうしましたエンド? アルテミスの加護が解けたのですか?」
「いや違う。何だこの異常な熱は……」
「現れたようだな」

 ロアがグラキエスを支え、ゴルガイスが前に出る。
 直後、石壁の一角を吹き飛ばし、勇平・アキラ班が飛び出してくる。

「あっちいいいー!」
「見よ勇平。丁度ダイソウトウたちも追いついたようであるぞ」
「ダークサイズのみなさん! ここの敵は『下呂』のようですわ!」

 ウイシアが叫ぶと同時に、勇平が彼女を抱えて飛び退く。
 直後、そこに吐きだされたように真っ赤な溶岩がボトボト落ちる。
 勇平たちを追ってきた『下呂』が姿を見せる。
 形状は小型のイレイザーといったところだろうか。
 ドラゴンともワニともつかぬ、厚いうろこの四本足。
 突き出た大きな口には、人間で言うなら奥歯のような平たい歯が並び、溶岩がまだ赤く熱を発したまま垂れている。
 『下呂』は石壁を平たい歯で噛み砕き、岩の砕ける音と喉が鳴る音をたて、飲み込む。
 さらにダイソウ達に目をつけ、テリトリーに入った敵と認識してずるりと腹を地面に滑らせ、正面を向く。
 アキラたちは『下呂』の様子を見ながら、

「なるほどね。家が屋根もへったくれもないのはこういうわけか」
「住宅街がまるごと、あれの食事と言うわけじゃのう」
「で、吐き出す溶岩が、敵への攻撃を兼ねた、やつの排泄ってわけか」

 『下呂』というネーミングに深く納得するアキラ達。
 眼前に敵が現れたとあって、グラキエスも熱に参っているわけにはいかない。
 アルテミスの加護に【ブリザード】を上乗せし、【ディテクトエビル】と【大帝の目】、そして【行動予測】で『下呂』を捉える。

「まずは、機動力を削いでみるか」

 グラキエスは【サンダーブラスト】で『下呂』の足止めを狙う。
 同時にロアが、

「エンド、くれぐれも無理せず、いつでも【アルバトロス】に退避を」

 と、【弾幕援護】で爆撃する。
 電撃と銃弾が巻きあげる土の煙幕に乗って、

「よし、我に任せよ」

 と、ゴルガイスが接近戦に飛び出す。
 大柄な体躯と怪力に任せた【ドラゴンアーツ】を放って、

「うむ、固いな。だがダメージはある」

 と、『下呂』の防御力を確認。
 ゴルガイスの攻撃に反応したかのように、『下呂』の喉が鳴る。
 グラキエスの【行動予測】が反応し、

「ゴルガイス、来るぞ!」
「うむ!」

ごああっ

 と、口から超高熱と岩の液体が吐き出され、『下呂』は首を振って溶岩を放射状に撒く。
 『下呂』の周辺には、同じく放射状の溶岩の小池ができる。

「こればかりは、我も食らうわけにはいかんな……」

 ゴルガイスはヒヤリとして息を吐く。

「ふふ、我も英雄神の元として、後れを取るわけにはいかぬな」

 ゴルガイスの奮闘を見たウルスラグナも、『下呂』背後に回って斬りかかる。
 背中に痛みを感じた『下呂』は、太い尻尾で反撃し、ウルスラグナを弾き飛ばす。

「ぱんだってぇー(なんだってぇー)!?」

 そんな中、垂は『下呂』に対して、他のものとは違う反応を示す。
 彼女はわずかに残るやる気を振り絞り、ダイダル卿の頭の上から叫んだ。

「どうしたんじゃ?」
「ぱんだ! んだんだ、ぱんだぁ(こいつの能力、すげえ便利じゃねえか)!」
「便利だと?」

 垂のぱんだ語に、ダイソウも反応する。
 垂は興奮気味に、

「ぱぱん! ぱーんだ、ぱんぱんだ!(こいつを手下につけたら、拠点の建設とかインフラ整備に使えるぜ)」
「ほう?」
「ぱんだぱんだぱんだ!(他のモンスターの能力も組み合わせれば、火力の確保とか温泉とか超快適な拠点ができるじゃねえか)」
「なるほど」
「ぱんぺきだっ!(完璧だっ)」
「垂……お前、しゃべれるのかしゃべれぬのか、はっきりしろ……」

 垂のぱんだ語にダイソウのツッコミがありつつも、垂は自分の閃きに自信満々。

「ぱんだるきょう! ぱんってやるだ!(あいつフルボッコにして、味方につけようぜ)」
「わしとおぬしでか? しかしあのモンスターは……」

 ダイダル卿の言葉も聞かず、垂は頭上から目を光らせ、

「ぱんしんがったい! だー! ぱんだりおーん!(ぱん神合体! ゴー! ぱんだりおーん!)」
「何じゃその号令は……」

 垂とぱんだを纏ったダイダル卿は、垂の勢いで強引に戦闘に駆り出される。
 ぱんだが神にしがみついているだけのこの合体は、まったくもって全力で未完成だ。
 ぱんだ部隊とダイダル卿、いや、蒼空のぱんだりおんは『下呂』に飛び上がって突撃し、背中を両膝で叩く。
 『下呂』は胴体を圧迫されてぐげっと鳴き声と共に溶岩を吐きだす。
 さらにぱんだりおんを尻尾で叩くが、ちょうど胸部の垂れたぱんだが受け止める形になり、衝撃を吸収する。

「おお、こりゃ便利じゃ」

 ぱんだりおんはその尻尾を掴み、背負い投げで『下呂』を背中から落とす。
 ワニ型のモンスターの特徴と言えば、固い背中に柔らかい腹部であるが、『下呂』もその例にもれず、弱点と思しき腹を露わにする。

「ウイシア、今だ! 『イプシロン』を使えるか?」
「お話がまだ終わっておりませんけど?」
「今そういう場合じゃねーだろー!」
「……分かりましたわ」

 勇平の要請を受け、まだ機嫌の悪いウイシアが体内から光条兵器『イプシロン』を取り出す。
 勇平はそれを受け取り、

「うおおおおっ!」

 と、思い切り斬りつけ、

「よーし、俺もたまには戦うぜ!」

 と、アキラも【七星宝剣】を『下呂』に突きたてる。
 『下呂』は逆さまになったまま、さらに溶岩を吐きだす。

「あっちちちち!」

 わずかに裂けた『下呂』の腹部から、体内の溶岩が漏れ出し、強烈な熱で勇平とアキラは慌てて離れる。

「ぱんだぱんだあ!(てめー、倒したら手下にできねーだろ)」

 垂が二人に文句を言うが、

「生身の肉体では熱で止めに至るまい!」

 と、強固な金属で身体を構成する重量級の聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)がずいと進み出る。

「その程度の熱など、俺の勇者の心を燃え上がらせる種火にすぎん!」

 体重数百キロに及ぶらしいカリバーンは、地響きを立てて地面を蹴る。

「見よ、溶岩をも気化させる(勢いの)俺の(情)熱を! 必殺うううう!」

 カリバーンは身構えて突進し、拳を『下呂』に食らわせようする。
 かっこよく止めを決めようとするが、超重量の彼は先ほど『下呂』が撒いた溶岩を飛び越えきれず、

ずぼっ

 と、足を取られてしまう。

「ぬおっ」

 結果、カリバーンの巨体が勢いよくのしかかり、『下呂』はさらに溶岩を吐きだす。

「うおおお、熱くない! 全然熱くないぞおお!」

 カリバーンは【心頭滅却】を使いつつも、事実上我慢の力で上体を起こし、

「カリバーン・パンチ(【鳳凰の拳】)!」

 と、遅ればせの必殺技で溶岩まみれの拳を撃ち込む。

ごばあっ

 『下呂』は積み重なったダメージと自分の溶岩で、ようやく力尽きた。

「水はどこだああああ!」

 カリバーンは、『下呂』の絶命を確認もせずに、どこへともなく走り去ってゆく。
 『下呂』が吐き出した溶岩にまみれて走るカリバーンを見ながら、

(ある意味、溶岩でよかったな……)

 溶岩ではない常温の何かだったらと思うと、誰しもがぞっとする。
 一方、目論見と違って『下呂』を倒してしまったのを見て、

「あああ、ぱんだああ(倒しちまってどーすんだよおおお)」

 と、ダイダル卿の頭上で嘆く。
 いきなり垂の夢が頓挫するが、

「ぱんだりおん! ぱんだぱんだ!(せめて他のモンスターは手下にしたいぜ。早く次行こうぜ)」
「……どうでもいいが、ずっとわしの上におるつもりか?」

 そんな中、遺跡の奥から身体の芯を揺らすような咆哮が響いてくる。
 ダイソウは、方向の聞こえた方向を見る。

「『下呂』を倒したことに、イレイザーが反応したのか……? モンスター同士、何か連携があるのやもしれぬな……」

 ダイソウは少し考え、皆に方向転換を指示した。