リアクション
「抗争はそこまでにシナサイ! 全員逮捕シマス!」
MPの隊長らしき人物がスピーカーで怒鳴るも、そのときにはもう、渋谷側はチヨを含め、速やかに行方をくらませていたのである。
「どうやら、ことは済んだあとのようですね」
正門の影に身を潜ませながら、富永佐那は呟いた。今、彼女はカラーコンタクトにヘアカラー、ウイッグまでつかって変装していた。服装を含めた派手な色使いはまるで娼婦だ。実際、佐那は娼婦の振りをしてMPを騙し、巧みに一部隊をここに誘導したのである。
佐那の狙い通りに行ったとはいえない。彼女はMPの介入によって肥満らを妨害し、三つ巴の戦いを誘発してその間にチヨを救うつもりだったのだ。
しかしそれでも――と佐那は思った。
結果論ではないが良しとしよう。チヨは救われたのだから。
離れた地点で一行は息をついた。
もうこれで大丈夫。チヨも助け、他の子どもも救った。全員無事だ。
よほど亜璃珠の鬼眼がショックだったのか、なお子どもたちのほとんどは震えていた。
「もう、大丈夫だよ」
エースはにこやかに笑んで胸元から缶を取り出した。
「食べる?」
苺ドロップである。女の子には花も一輪手渡す。
「お家に帰ろう?」
「……帰る家があるのかねぇ、その子達に」
そ知らぬふりをしてメシエが呟いた皮肉に、エースは唇を噛みしめて無言を貫いた。
ところがメシエは、そんなエースの態度が解せぬらしく彼の肩に手を置いて、
「聞いてる? まさか本当に連れて帰る訳にもいかないだろう?」
エースには、メシエの言葉の意味がわかっている。未来に連れていくわけにはいかないだろう、と言っているのだ。
「聞いてるよ!」
エースは強引に、メシエの手を振り払った。
「メシエはときどき、本当に頭に来ることを言うね」
「現実主義者なだけさ」
「じゃあ僕は理想主義者で結構だ!」
エースの勢いに、メシエも口を閉ざさざるを得なかった。
「この時代の警察に保護を求めるしかないと思ってる。渋谷署の山葉副署長の話は聞いてる。彼なら、きっと、良くしてくれるはずだと……思う……」
徐々にその言葉は弱々しくなっていった。
「悪かったよ。怒らせたのなら、謝る」
メシエは肩をすくめた。
やれやれ、なんとも青臭いことだ――彼は思う――だがそれが、エースの魅力でもあるのだ。
だから、そう悪い気はしなかった。