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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

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ニルヴァーナのビフォアー・アフター!

リアクション

 さて、別の遺跡探索者にも目を向けて見よう。

「オレに勝てるわけないだろ!! 消えろ!!」

 遺跡内には、荒っぽい言葉とは裏腹に、的確に敵の急所目掛けて剣を振るう赤い髪の男がいた。

 エリュシオン帝国で悪名を轟かせ、兄によって帝国を追放された暴れん坊、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)、その人である。

 目の前に現れた三本足の人型ロボットを蹴散らすキロス。

「キロス? モンスターの駆逐が目的だけど、暴れすぎて宮殿を壊したりしないように気をつけてね」

 梟雄剣ヴァルザドーンを持ったラヴェイジャーの戦闘力に物を言わせてのゴリ押し駆逐で対峙した敵を斬った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、キロスに言う。

「それは祥子、てめぇもだぜ?」

「私? 私がそう簡単にやられるわけないでしょ!」

 祥子は梟雄剣ヴァルザドーンからレーザーを放ち、飛びかかってきた機晶ロボットを破壊する。

「腕自慢でも囲まれたり数で押されたら危ないんだから、油断しないようにね」

「はっ、このオレは雑魚を幾ら相手にしてもやられねぇんだよ!」

「別に腕を疑ってるわけじゃないんだけど……気を悪くしたらごめんなさい」

「謝ることはないぜ、祥子? 女を泣かすのはベッドの上だけだって、ポリシーがオレには……あるッ!!」

 キロスの剣が機晶ロボットの脳天をかち割る。

「でもな……デートの時に怪我した女を連れてるなんてのは、男の名折れだから、なッ!!」

 キロスは機晶ロボットの胴体に蹴りを入れて乱暴に吹き飛ばす。

「オラオラ!! 次にオレにぶった斬られたいポンコツはどいつだぁ!!」

 テンションの高いキロスを見つめる祥子。

「(予想以上の働きっぷりね……)」

 ×  ×  ×

 話は少し遡る。

 遺跡探索に訪れていた祥子は、丁度同じ頃、遺跡に向かおうとしていたキロスを見かけていた。

「(あれがエリュシオンの暴れん坊、キロス・コモンドゥスか……傍にいたら随分役立ちそうね)」

 祥子は早速、キロスに話かける。

「あなたがキロス?」

「てめぇ誰だ?」

「私は祥子。よろしくね。あなたも遺跡の探索に?」

「香菜が街の方に見学に行ったからな……平和な街なんて何が楽しいんだか」

「ふぅん……賞金首の『テツトパス』を狙ってるのかしら?」

「ああ、それくらいしか暇つぶしがないしな」

「暇つぶしね……私も今、恋人が音信不通だし、その言葉は胸に刺さるわね」

「……」

 悩ましげな溜息をついて両腕を組んで胸を寄せて上げる祥子に、キロスの視線が注がれる。

「祥子とか言ったな。ひょっとしてこのオレに同行して欲しいのか?」

「行ってくれるのかしら?」

「報酬は? タダ働きはオレの趣味じゃない」

「そうねー……もしあなたが賞金首のモンスターを倒したら、おねーさんが一晩と言わず二晩でもお相手してあげる。それでどう?」

 祥子は、強調された胸の谷間をキロスに見せつけ誘惑気味に話を持ちかける。

「あんた、どっかの学校の教師じゃなかったか? いいのか? 不純異性交遊を推奨して?」

「そうね。でも生徒に貼り合いを持たせるのも先生の仕事だと思うけど……?」

「フッ……契約成立だな、祥子!」

 キロスはズカズカと遺跡めがけて歩きだす。

「このオレと行けるんだ。泥船に乗ったつもりで付いて来い!」

「……大船ね。道中、国語の授業してあげましょうか?」

 こうして祥子は、戦闘力で最強の同行者を得ることに成功したのであった。

 ×  ×  ×

 キロスの無双っぷりを見守る祥子は、少し自分の発言について考えていた。

「(ま、一夜限りのことであればあと引くようなことも無いと思うし……それでも、爛れたと言われるような関係なんだし、内緒にしておけばOKかしら?)」

 複数の恋人が同時に居た過去を持つ祥子にしてみれば、別に悪事を働いた覚えもなく、殺気看破で気配を探りながらヴァルザドーンを持ってキロスの後を付いていくのであった。



 一方、遺跡内をイナンナの加護で危険に備えながら、銃型HCでマッピングしながら進んでいくのは、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)であった。

 尚、レキ達の前を歩くのはオリヴィエ博士改造ゴーレム(ゴーレムちゃん)であり、念のため、罠等が無いかを確認させている。

「未知の遺跡って何があるかドキドキするよね」

 レキが弾んだ声で呼びかけたのは、同行するヘクトルである。

「まったく、シャンバラの地の者は……アディティラーヤには危険な物があるとアレほど言っても結局行くのだな」

 ニルヴァーナ創世学園の教頭であるヘクトルは、レキに誘われ一度は断ったものの、結局面倒見がよいため、渋々付いていくことになっていた。

「皆と協力してやったら、遺跡の全容把握も早く済むと思うんだ」

「その好奇心。少しは勉強の方に向けたらどうだ?」

「生憎、レキは体育以外にはあまり興味がないのじゃよ……」

 ホエールアヴァターラ・クラフトに乗って移動するミアが溜息をつく。

「ん?」

 レキが壁際を何かが動いた気がして、ホークアイで見つめる。

「気をつけて! ミア、ヘクトルさん! 何かいるよ!!」

「テツトパスか!?」

「どうかな……うねうねした動きぽかったけど」

「わらわの出番じゃな。向こうからの奇襲は避けたいのでな……『神の目』で曝け出させてやるわ!」

 ミアが『神の目』を使い、辺りを強烈な光が照らし出す。黒っぽい何かが晒しだされ、ゴーレムがそれを捕まえようとするも、スルスルと逃げられていく。

「ふん! あれがテツトパスか……」

 ヘクトルが剣を構える。

「え? でも予想より随分小さくないかな? 足は、8本はあるけど……」

「ふっ、エリュシオンでも賞金首はいたが、随分皆大きく描かれていたものだ!」

 ヘクトルが彼の背丈半分程の黒っぽい金属体目掛けて突進する。

「ふむ。遺跡の暗い場所に潜んでいたなら光攻撃が通じ易いかもしれん。『バニッシュ』で目眩ましと同時にダメージを与えておくかのう」

 ミアがバニッシュを使うが、あまり効果は無いようだった。

「おかしい……タコやイカと言えば、古来から邪悪なシンボルであるのに……」

 不思議がるミアの傍で、レキが『サイドワインダー』でヘクトルのサポートをする。

「狭い場所なら逆に逃げ道は無いからね!『エイミング』で狙いを定めて……えいッ!!」

 左右から同時に敵に向けて攻撃するレキのサイドワインダー。

 敵はそれを足で払いのけようとする間に、接近したヘクトルが剣を振るう。

 しかし、敵の目からビームが発射され、寸前でヘクトルがかわす。

「ぬぅ!?」

 その間に敵は、ヘクトルに、バックスピンの効いた強烈な蹴りを見舞い、ヘクトルを宙へと飛ばす。

「嘘!!」

 レキが目を丸くする。

「どけどけどけーッ! それはオレの獲物だぁ!!」

「ん?」

 後方から聞こえてきた威勢の良い声に、レキが振り向くと、走ってきたキロスが彼女の頭上を飛び越えて行くが……。

「うおっ!?」

「おわっ!?」

 キロスが投げ捨てられたヘクトルを受け止めて地面に倒れる。

「イテェ……ったく、誰だ……て、てめぇ兄貴かよ!!」

「!? 貴様、キロス!! ここで何をしている!?」

 キロスとヘクトルは睨み合ったまま立ち上がる。

「それはこっちの台詞だぜ! 第七龍騎士団を抜けて大人しく学校で先生やってるんじゃなかったのか?」

「貴様こそ、我がエリュシオン帝国の名を汚した挙句、私の手まで煩わせようと言うのか!!」

 突如始まった本気の兄弟喧嘩に、レキとミアが呆然としていると、祥子が声をかける。

「さて、私達だけでテツトパスとやらをやっつけましょうか?」

「う……うん、あれ? 姿が見えない、どこ?」

 レキがホークアイで見やるも姿が見えない。

「そうか、保護色を使って体を地面と同じ色にしたんじゃ。レキ、今わらわが『神の目』で……うわっ!?」

 突然、ミアが乗っていたホエールアヴァターラ・クラフトがひっくり返る。

「厄介なことになったわね……」

 祥子がヴァルザドーンを構える。

「……そこッ!!」

 殺気看破で気配を感じた祥子がヴァルザドーンでレーザーを放つ。

「バチィィッ!!」

「成程。斬ったり殴ったりより、こういう方がダメージあるみたいね」

「じゃ、ボクが動きを止めるよ!!」

 レキが『エイミング』で狙いを定めて『サイドワインダー』を放ち、テツトパスの動きを止めようとするも、やはり、テツトパスの腕に止められてしまう。

「レキ、もう一度撃つのじゃ!」

 ミアが術を詠唱しながら、レキに叫ぶ。

「え? で、でも……」

「いいから! わらわに考えがある」

 レキは言われた通り、再びサイドワインダーを放つ。

「さっきはよくもやってくれたのう……お陰でわらわの頭にタンコブが出来た。この恨み……天のいかづち!!」

 ミアの詠唱と共に閃光が走り、敵に雷が直撃する。金属ゆえの通電性か、動きが止まった敵に、レキのサイドワインダーが襲いかかる。

「今だよッ!!」

「任せて!」

 ヴァルザドーンを構えた祥子が、最大パワーでレーザーを放つ。

「ドオオォォォーーンッ!!」

 激しい音を立てて、壁の一部ごとそれを葬り去った。

 ピクピクッと動いている敵の足の残骸を拾うレキ。

「これがテツトパス?」

「妙じゃな……」

 自身のダメージを『リジェネレーション』で回復させるミアが呟く。

「テツトパスとはすなわちタコ。なのに、吸盤の類いが見つからん」

「そうね……キロス? いつまでお兄さんと喧嘩してるの?」

 祥子が、未だ額と額をくっつけて喧嘩しているキロスとヘクトルに呼びかけ、仲裁するために向かっていく。

「ん?」

 レキがふと顔を上げると、見覚えのある八本足が彼女の傍をカサカサと通過していく。

「ねぇ、ミア。タコって歩くんだっけ?」

 それを見つめたまま、レキはミアに尋ねる。

「歩く? 地を這うようには移動すると思うが……スタスタと歩きはせんじゃろう?」

「……だよね」