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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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リアクション


第23章 パートナーも甘いよ

「んー、やっぱりちょっとこの時期はまだ寒いね」
 雪解けの時期とはいえ、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は寒そうにコートの袖に手を入れる。
「この時間だから余計にね。うぅ、寒いよーっ」
 夜景を見ようと夕暮れの町にやってきたが、日の光がだんだんとなくなっていってしまい、いっそう冷え込む。
「えぇそうですね」
「陽子ちゃん、傍においで」
 寒そうに震える緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)を見て、温かくしてあげようと彼女と腕を組む。
「透乃ちゃん・・・!?」
 手をつなぐことはあっても腕を組むことがなかった陽子は、顔を赤らめて離れようとする。
「この方が温かいよっ」
 逃げようとする彼女に寄り添い、手をつないで指を絡める。
「―・・・はいっ。(あぁ、やっぱり恥ずかしいです)」
 少し人目が気になる様子で透乃から視線を逸らす。
「凄いね、これ全部石だけで出来てるんだよね?」
 どこに継ぎ目があるのか分からない、ショッピングモールの建物を見回す。
「これってどうやって削っているのかな」
 屋根を見上げると滑らかなラインがきちんと表現されている。
「えぇ、とても不思議です・・・」
 陽子も看板に彫られた演奏家たちの絵を眺めて呟く。
「このショップは楽器店みたいですね」
「ねぇ、向こうに露天があるよ!甘い香りがする・・・、もしかしてチョコかな?」
「急がなくてもチョコは逃げませんよ。ゆっくり歩きましょう」
「うん・・・そうだね!」
 あまり走らずまったり過ごしたい陽子のペースに合わせる。
 香りを頼りに歩いていくと、パラソルのような可愛らしい屋根の下でチョコフォンデュが売っている。
「ビターとミルク、2種類あるみたいだよ。ねぇねぇ陽子ちゃん、こういうのやるとバカップルに見えるんだけど。―・・・いいかな?」
 甘めでも食べられるがビター派の透乃は、甘党の彼女が同じものを食べられないからと、せめて恋人同士としてあ〜ん攻撃をしてあげようと考えた。
 店の中だと恥ずかしがってしまうと思い、透乃なりの気づかいのつもりだ。
「え・・・?透乃ちゃんが食べさせてくれるなら、・・・嬉しいです」
 もじもじと気恥ずかしそうに陽子が顔を俯かせる。
「じゃあ私がミルクの方を持つから、陽子ちゃんはビターの方ね。はい、あ〜んしてっ」
「透乃ちゃんも口を大きく開けてくださいね」
 チョコをたっぷりとつけたイチゴを互いに食べさせ合う。
「私の手はチョコじゃないですよ!?」
「あ、えへへ。ごめんね」
 果実の先にある彼女の指まで食べようとしてしまった。
「次はどこへ行きますか?」
「うーん、もうちょっと何か食べたいかな」
「そうですね、私も他の甘いものを食べてみたいです」
 小食だった陽子は透乃と食べ歩きをしているおかげで、よく食べるようになってきた。
「向こうは小物屋でしょうか?」
 窓を覗くと小箱や手袋がディスプレイに並べられている。
「なんか甘い匂いがするよ」
「まさか、どうみても雑貨しかありませんよ」
「何かお菓子とかあるかもしれないからね、とりあえず入ろうよ!」
 美味しいものが置いてあるんじゃないかと思い、陽子と一緒にアイボリーカラーの小さなショップに入っていく。
「見てよこれ、やっぱりお菓子だよ!」
「よく出来てますね、食べちゃうのがもったいない感じがします」
「チョコの鏡とブラウニーの小物入れを買おうかな」
「じゃあ私はうさぎのクッションを買います」
 テイクアウトした2人は店を出て、さっそく食べ始める。
「取っ手のところがカリカリしてるよ。引き出し部分のブラウニーも最高だねっ」
 ほろ苦いビターの小物入れを、透乃はあっとゆう間に食べきる。
「私のは中にチョコのムースが入っていますね。鏡は食べないんですか?」
「後で食べるよ」
「楽しみは最後にとっておくんですね。(よかった、今日はいないみたいです・・・)」
 遊園地の時みたいに追跡者がいないか、陽子は周囲をキョロキョロと見て警戒する。
 他のカップルたちがパートナーに追跡されている中、もしかしたら自分たちのところにも来ているんじゃないかと思ったようだ。
 いないことが分かると安心したようにほっと息をついたとたん、街灯にチカチカと灯りは点き始めた。
「あの建物の屋上にから景色を見てみない?」
「もっと高いところじゃなくていいんですか?」
「そっちは人がいっぱい集まりそうだからね」
「うーん、そうなんですか」
 どうしてもっと見晴らしのいいところから見ないのかと、透乃の企みを知らない陽子が不思議そうな顔をする。
 2人きりで人気のない屋上へ行き、遊園地の夜景を眺める。
「全部飴みたいに見えるねっ」
 手摺を掴み身を乗り出し、花の蔓のようなカラーのレールの上を走る蝶柄のジェットコースターや、花の上で羽ばたきながら蜜をバケツに汲むミツバチがキラキラと輝く。
「美味しそう・・・。でも、陽子ちゃんの方がもっと美味しそうだけどね」
「え・・・っ!?」
「えへへ♪ごちそうさま」
 欲求を抑えるために彼女の唇に軽めのキスをする。
「そういえばさっきの手鏡は食べないんですか?」
「食べるよ。ほら、ちゃんと陽子ちゃんが映るんだよ」
 手鏡を陽子に向けて、チョコの飴のミラーに彼女の姿を映す。
「いただきまーすっ。はむ、とても美味しいっ」
 その姿を映したまま頭からパリリと食べてしまった。
「おかわりいただいちゃった」
「(と、透乃ちゃんったら。だからここへ連れてきたんですか・・・っ)」
 透乃の言葉に陽子は顔を真っ赤にし、彼女を直視出来なくなってしまった。