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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

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「さぁて、ようやく会えたな」
 四谷 大助(しや・だいすけ)が竜を見上げた。体長は10m程、首を伸ばせばそれ以上か。竜の背面には空が見えている、森の終わりがすぐそこにあるという事だろう。
 ――そこなら思う存分戦えるってわけだ。
「最初から飛ばしていくぞ。来い、『碧日』!」
 大助が呼んだは『同化昆虫:碧日蟲(寄生虫:侵蝕蟲)』、肩から服中へ入りて密着した。
「マスター、七乃もっ!!」
 四谷 七乃(しや・ななの)は口を尖らせて手をパタパタさせた。鎧化して大助に纏う、目の前の竜は大きくて強そうで怖くて怖くて、でもでも精一杯に大助を守ってみせる、と。
「大助! 一気に仕掛けるわよ、ついて来なさい!」
「待てっ、グリム!!」
 腕を引かれてグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)は首から背中までを変に伸ばした。
「ちょっと! 何なのよっ!!」
「移動が先だ、ここじゃ思いっ切りやれない」
「わ、分かってるわよ! そんなことっ!!」
 二手に分かれて回り込む。一言で言っても相手は竜だ、どうにか注意を引こうとして、
「てやぁぁあっ!!」
 竜の足を白麻 戌子(しろま・いぬこ)が斬りつけた。『光条兵器』ならば切るものと切らぬものを選択できる、如何に竜の皮膚が厚かろうと中の筋肉を裂いてしまえば動きを封じられる―――
「って、あれ〜?」
 金属音にも似た弾音が響いた。硬質な皮膚に戌子の大鎌が弾かれた。中の筋肉を斬ったという手応えも感じなかった。
「何でー? 何でなんだよー」
「それが出来ちゃったら、七乃たち、要らなくなるです」
 魔鎧である七乃が悲しげに告げた。戌子は「くっそー、いい案だと思ったのになー」と悔しがってから、足蹴にするように『クロスファイア』を叩き込んだ。
 対面の竜の足下でも爆発が起こった。ただ駆け抜けるだけなどゴメンだと考えたのは戌子だけではないようだ。
 爆弾を仕掛けたのは上杉 菊(うえすぎ・きく)だった。
「みなさん、今のうちに!」
 『対イコン用爆弾弓』から取り出した爆弾を竜の足下へ仕掛けた。対面の『クロスファイア』とタイミングが完全に一致したのは奇跡的だったが、おかげでより効果的に竜の注意を引ける事だろう。この隙にジバルラや生徒たちが無事に回り込んでくれれば、そしてパートナーたちが上手くことを運んでくれれば。ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がすでに動いているはずだ。
「その手の物は……」
 一行が駆ける方向とは直角に向いて駆ける2人。平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が2人を追ったのは、ローザマリアの手に『ある物』が付着しているのが目についたからだった。
 駆けながらであれ、ローザマリアは手の平を見せた。予行で生じさせた少量の毒粉が彼女の手の平に張り付いていた。
 予想の通りの物を目にしてレオは、
「なるほど、目的は同じというわけか」
 と口元を緩めた。
 グロリアーナ・ライザが風を確認した。
 良好、他の生徒たちも既に駆け抜けた後、残るはただ一人。
「菊媛! 離れるのだ!!」
 風は決して多くない、そして風量もない、しかしそれでも今、『しびれ粉』による毒粉を撒くには適した風が吹いていた。
 が逃げきれると信じて、彼女は風に毒粉を放った。
 合わせてローザマリアレオも同じに放つと、風の乗った毒粉は瞬く間に一面に吹きすさび、狙いの通り、竜の顔へも口へも鼻へも届き、体内への侵入を始めた。
「就寝前は激しい運動は控えましょう、ねっ!」
 ローザマリアが『魔道銃』で竜鼻を狙撃した。距離もある、硬質な竜皮にはそれほど威力はないだろう。それでも狙いはダメージではない。
 距離を保ったまま『バーストダッシュ』で高速移動、そして同じく鼻先を狙う。足下での爆発に加え、執拗な一点狙い。そう、『気性の荒すぎる竜』なんて二つ名を持つんだもの、そろそろ苛立ちも臨界を越えるでしょう?
 雄叫びは『龍の咆哮』へ。思わず後ずさりしそうな程の威圧感だが、大きく息を吐き出せば、それだけ多く吸うことになる。ドラゴンは『しびれ粉』の毒粉塵を大量に吸い込んだ。
「よし! 行くぜ!!」
 氷室 カイ(ひむろ・かい)が飛び出した。頭を振って体を屈め伸ばし暴れる竜、そのおかげで毒粉はほぼ飛散し拡散しきっている。カイは『光条兵器』である1m50cmの漆黒の太刀を右手に携えた。
 要はジバルラが『龍使いの鞭』を首に巻くまで、注意を引けば良い。
「ついでにドラゴンと戦えるしな!」
 まずはその龍隣、如何なるものか。
 竜の足を壁蹴り跳び、竜の左肩に『朱の飛沫』を叩き込んだ。
 長刀の一撃も薄皮を破った程度か、また斬り口から炎は上がれど、それもすぐに煙となり消えた。
 ――やはり硬いか。だが……。
 竜の視線がカイを捉えた、しかしそれはすぐにブレ揺れた。
 足の爪を狙った『サイドワインダー』、レオが放った2本の『龍殺しの槍』が竜の爪に交差して刺さった。
「ふっ、爪を貫ければ痛みも感じるって事か―――がっ!!」
「カイっ!!」
 斬りつけたまま宙を降下していたカイを竜が拳で殴りつけた。
「おいおい、手も自由に使えるのかよ」
 棗 絃弥(なつめ・げんや)は苦そうに顔を歪めた。カイは弾丸の如くに吹き飛んだ。森の中へ飛び込んだ事が唯一の救いか、実の凍結もほぼ済んでいる頃だろうしな。
「いや、戦闘で使えるレベルじゃねぇな」
 ジバルラが低く答えた。それはどこか物足りないと言っているようにも聞こえた。
「体ごと腕を振った所にカイの体があった、ただそれだけだ。狙ってやったとしても、体ごと振らないとまともに殴る事も出来ねぇって事だ」
「それだってお前、あの威力はヤバイだろ」
 これから殺りあうと思うとますます顔が歪んじまう。絃弥は徐ろに『勇士の薬』を飲み込んだ。
「つーか、さっきの粉、効いてねぇんじゃねぇか?」
「いや、効いている。体のしびれを感じてるはずだ、それに抗う為に無駄に暴れてんのさ」
 確かにカイを殴り飛ばしてから、竜は同じように体を左右に振ったり地を砕くような足踏みを繰り返している。
 地を駆け避けるレオに頭突きをする様も見えるが、これも薬の効果に抗おうと首や頭を振ったに過ぎず、巨体ゆえの結果として頭突きやスタンプになっているという意だろうか。
「体の動きが鈍ってるってのに強引に動かそうとしてるってのか? んなのアリかよ」
「一度キレたら理性は消えちまう、んで、沸くのも速いとくれば、追い出されても無理はねぇよな」
 おまけに強くて凶暴みたいだからな、と絃弥は思い加えた。まぁそれでもやるべき事は変わらない事も彼は重々承知していた。
「行けるか? フォリス」
「もちろんだ」
 パートナーの罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)は『龍隣化』を唱えながらに応えた。彼は魔鎧であるが、今回はその身で竜に挑むようだ。
「いい返事だ。行くぜ!!」
 絃弥フォリスが跳び出した。
「おらよっ!!!」
 『曙光銃エルドリッジ』を無駄に派手に乱射した。狙ったのは胴部だが、正直当たっても当たらなくてもいい。
「レオレオ、そのまま反対側まで走れ!!」
 レオを勝手なアダ名で呼んで指示を出した。が、それに従えば確かに竜の焦点は2人を追って泳ぐ事に――― と思ったのだが。
 一掃するとはこの事か。竜の尻尾が地を薙ぎ払い、レオ絃弥も虫のように押し弾かれただろう…… ジバルラがその尾を受け止めなければ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉおおお」
 両足は地を砕き沈んでいる、しかしその腕で胴胸で竜の巨尾を全身で受け止めた。
「おぉらぁっ!!」
 巨尾を地面に叩き落とし、すばやく両拳を組むと、そのまま尾に叩き落とした。彼も『竜隣化』を発動している、故に勝負は硬質さではなくただ衝撃力がどれだけあるかであり、そして彼のそれは竜のそれを僅かに上回った。
「うおっ」
 当然のように竜は尻尾を足を振り暴れた。単調直線でなければ受け止めるは難しい、ジバルラも潰されたと思ったが、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が『レッサーワイバーン』で彼を拾い上げた。
「無茶をなさらないで下さい」
 言っても無駄であろう事も分かっている、しかし『オートガード』と『オートガード』で守ろうにも、攻撃手段があれほどに巨大では守りようがない。
「このまま頭上まで出ますよ」
 彼のことです、どうせ竜の体をよじ登ろうとしていたのでしょうが、そんな事をしていては消耗戦になりかねない。そんな事になる前に。
 地上ではフォリスが『ランスバレスト』を竜の足へ、爪へ、レオが突き刺した2槍へ、落下の勢いを利用した一撃が叩き込まれた。
 痛みもあろうが、それよりも我が身を傷つける存在への怒りと恐れからだろうか。雄叫び、地を薙ぎ、足や尾を叩きつける。レオ絃弥フォリス大助も次々に叩き飛ばされてゆく。
「早く、鞭を!」
「分かってる」
 彼が『ワイバーン』を飛び降りようとした時、竜が背に力を込めた。
 背の丈ほどもある両翼がバサリと開いた。
「そう来ると思いましたよ」
 葉月 可憐(はづき・かれん)は空で待ちかまえていた。パートナーのアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)と共に『レッサーワイバーン』に乗り見下ろしていた。
 可憐が『天のいかづち』を、
 アリスは『光条兵器』で弓撃を。
 竜の頭へ稲妻が、そして片翼の帆へ弓矢が襲いかかった。
 そのどちらもが上空から襲い来た事に気付いたのだろう、竜は2、3歩と後退したかと思うと、松毬の幹枝が絡まり網状となった森の天井部を鷲掴み、力一杯に引き抜いた。
「可憐っ!!」
「アリス!!」
 投げ網漁をするかのように、空を飛ぶ2人へ幹枝の天網が覆い被さった。
「ジバルラ様!!」
「いちいち、うるせぇぞ!!」
 クナイを一蹴して跳びだした。怪力で引き抜いた天網は膨大に大きくて、それは竜の頭上から肩までも覆っていた。予期していなかったのだろうが、自らも絡めてしまっていた。
「おぉらよっ!!」
 竜の首へ『龍使いの鞭』が巻きつけられた。
 突然の、そしてしばしの静寂が訪れた。
 動かない。足も胴体も腕も翼も口も鼻も動かない。
 『左腕と左翼を失った竜』はすぐに拒絶反応を示した。体を震わせ、『ニビル』の力から逃れるように肢体を暴れさせた、しかし今はそれが見えない。
 ――成功か?
 誰もがそう思ったが、起動スイッチが入れられたかのように、突如に竜は上体を旋回させた。
「うぉっ、おっ、おぉっ」
 鞭を掴んでいたジバルラだったが、自ら背骨を曲げ折るかのように上体を振られ、とうとう鞭から手を離してしまった。
「ぐぅっ」
 振り飛ばされ、地面に叩きつけられたジバルラの傍には同じく地に落とされた可憐の姿があったが、その顔は曇っていた。
「だめ、でしたね」
 鞭は首に巻かれたまま。それでも竜は網を破り払い、地を踏みつけて雄叫んでいる。屈し従っているようには無理にも見えなかった。
「仕方がありません、ここは一刻も早く離れて新たな相棒さんを探しに―――」
 うっくっくっくっく。
 可憐は耳を疑った。ジバルラが笑っている。体を起こした彼の顔は真っ直ぐに竜を見つめ、そして笑んでいた。
「何を言ってやがる。俺の新しい相棒はアイツで決まりだ」
 立ち上がり、一歩、また一歩と歩みゆく。顔だけは少しも動かさないままに。
「ですがあのドラゴンは今もああして―――」
「目は生きてるだろ、正常だ、ニビルの力を恐れてない」
 竜は正に暴れている、しかしそれは鞭に宿る力に反発しての事ではないと彼は言った。
「俺らを、いや俺を敵だと思ってるからな、怒り狂って当然だ」
「え? いえ、ですが……」
 ジバルラが竜に跳びついた。鞭を掴んで引いてみても、先と同じに振り飛ばされてしまった。それでもすぐに彼は竜に跳びついたが、今度は尻尾に打たれて飛ばされていた。
「クソが…… 絶対に黙らせてやる」
 ジバルラも雄叫びをあげて向かっていった。なんだろう、こうなってくると、もぅ、
「これではただのケンカですね」
「何だ? 俺たちは除け者ってか?」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)を始めとした森の松毬を収めていた面々が合流した。概ね無事に実の全てを凍らせ終えたという。
 拒絶反応を見せなかった以上、彼の相棒になる資格は十分にあるという事だ。あとは主従の関係を築けるかどうか、という事になるのだろう。
「離れましょうか」
「あぁ。巻き込まれるだけ馬鹿を見るからな」
 救出と治療を要する者もいる。みな一様に疲弊もしている。
「おぉぉおおおらぁっ!!!」
 戦い続ける一人と一体を余所に、一行はようやくに安堵の息を吐き出したのだった。